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都会では見れない程の星の数だ。月もある。
今日は半月だ…。地球より少し大きい気がするが、あれは多分、月だと思う。
二人の頭上にある、天使の輪の明かりで、お互いの姿は見えている。これはかなり便利だな。
月と星の明かりだけでも、森や建物の輪郭は見える。
二、三軒の平屋の建物を過ぎて、しばらく飛んでいると、前方の雲の上に、また、平屋の建物が見えた。
「あそこが正幸迎の家だ」
「あの建物が俺の家ですか? 見るのが楽しみです」
やっと到着か。ずいぶん距離があった。
そう思うと、急に体の疲労を感じ始めた。
「今日中に着けて良かった」
テスがほっとして言いながら、俺の家の玄関前の、雲の地面に着地する。
俺はずっと手を繋いで貰っていたが、やっとテスの手を離した。
俺の家も、やはり黄土色の石を積んで造られている。平屋のピラミッドという感じだ。
玄関の扉は木製で、扉の前には、10段ぐらいの石の階段がある。
窓には両開きの、木の扉が閉じられている。雨戸だろう。
玄関の階段の右隣には、自立した郵便受けが立っている。
さらに、その右隣には、車ぐらいの大きさがある巨大な石が置かれ、何か文字が彫ってある。
何かと思っていたら、テスが教えてくれた。
「それには『正幸迎』と書いてあるんだ」
表札だ…。
道がない空では、遠くを飛んでいても見えるように、表札が巨大なんだ…。
カルチャーショックを受けたが、少し面白い。
「あそこに建物が見えるか?」
テスが指さす先、少し離れた雲の上に、建物が見える。
「えぇ、見えます」
「あそこに女性が住んでいる。中国から来た人だ。
言葉はまだ通じないが、何かあったら、すぐに訪ねてくれ。
彼女は正幸迎が、今日、天国に来たことを、もう知っている。
だから、彼女がすぐ、俺の所へ知らせに来るだろう。
正幸迎は、今日から一人で、この家に住むことになる。
鍵を渡しておくが、泥棒はいない。
鍵をかけない天使が多いが、一応、鍵はあるんだ」
テスがくれた鍵は、黒っぽい金属で作られ、現代の日本の鍵より、少し大きく厚みもある。照合に使われる凹凸部に、複雑さは無い。昔の、西洋を舞台にした映画に、出てきそうな鍵だ。
「鍵は開いているよ」
テスが階段を登り、そのまま扉を開けて、建物の中へ入って行ったので、俺も後から階段を登っていく。
玄関先に10段の階段とは、何の為に必要な高さなんだろう。
手すりが無いのは、飛ぶから転ぶことが無く、邪魔だからだろう。
玄関の扉をくぐると、テスがロウソクに火を付けている。
部屋中のロウソクに、次々と火が灯されていくと、部屋の全体が見えてきた。
50畳ぐらいのワンフロアだ。
広い…。こんなに広い部屋は、日本の一般家庭には無いな。
家具は全て、木で作られている。
ベッドには、清潔そうな白いシーツと枕が、ホテルのように美しく置かれている。
タンスは2棹。引き出し型と、ハンガー型のタンスだ。
棚は大きくて、5台もあるが、少しの本と小物が置いてあるだけで、ほとんど何も置かれず、空いている。
窓辺には、横長の四角い机と、椅子が1脚置かれ、机の上には、本が山と積まれている。勉強机のようだ。
暖炉の前には、大きな丸いテーブルがあり、4脚の椅子が囲んでいる。ダイニングテーブルと、来客用のテーブルを兼ねているのだろう。
暖炉の火は消えているが、薪の上に鍋をかける部分がある。料理を温めることが出来そうだ。
石の床には何枚かの敷物があり、石の硬さと冷たさを隠している。
(更新日 2024年07月31日-No.01)




