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俺とテスは、途中で地上に降り、木になっている枇杷を食べ、川の水を飲んだ。
枇杷は香り高く、完熟の柔らかすぎる感じは無いのに、甘くて美味い。
川の水は冷たく、透き通っていて、川底の石がはっきりと綺麗に見える。
川辺の岩に座って、川の流れる音と、風が葉を動かす音を聞きながら、少しの休憩を楽しんだ。
森の音が食後に気持ち良い。
のんびりしていると、テスが森を眺めながら説明をくれた。
「天国にある植物は、地球で生まれたものもある。
天国の環境でも育ちそうな地球の植物の種を、天国で複製して、天国に種を撒いて育てている。
天国の水と空気は、現状の地球より綺麗だから、果実も美味しく栄養も高く実るんだ。
天国の動物や微生物なども、同じだよ。
ただ、天国の生物の、繁殖機能は低くしているか、無くしている。
天国は、神様に選ばれた者だけの世界だから、選ばれない者が、あまり増えないようにしているんだ。
もちろん、天国で新しく生まれる命はゼロではない」
天国で新しい生物が生まれるなら、地球で生まれたものより、優秀な生物が生まれそうだ。
天使も、地球から来るよりも、天国で産まれた、天使同士の子供の方が、優秀になりそうだが…。
「地球から天国へ来るものよりも、天国で生まれるものの方が優秀そうですが?
優秀なものが天国に増える方が、神様も喜ぶのではないでしょうか?
その為に、天国の繁殖を抑えるのではなく、増やすべきでは?」
俺は疑問に思ったことを、テスに質問した。
「天国での繁殖を抑えているのは、神様に選ばれた者が統治している状態の、天国を作る為だよ。
神様に選ばれていない者が増えると、その状態を保つことが難しくなるからな。
天使は、神様に選ばれていない者が増えると、神様の意向のとおりに、天国が機能しなくなるかもしれないから、神様に選ばれていない者が増えることが嫌なんだ。
それと、地球よりも、天国で生まれるものの方が、優秀であるとは、かぎらない。
まぁ、優秀である可能性は高いと思うがな。
だが、天使は、優秀か、優秀ではないかと、いう安易な判断から選ばれたものではない、神様が天使として選ぶか、選ばないか、である。
天国で、天使から生まれた子供も、神様の選別をうける者であり、地球で生まれる者と、天国で生まれる者と、あまり変わりは無いよ。
天国にいる天使は、地球で天使を作ることが可能なので、あえて天国で子供を作る必要は無いと考えている。
天使は、地球は、天使を作る為の専用の場所であり、天国は、天使が神様の仕事を行う為の専用の場所であると、考えている。
そして、天国の良い環境は、地球でも作れる環境である。
天国の良い環境で、優秀なものが生まれるならば、地球にその良い環境を作り、地球でも優秀なものが生まれる状態にすればいい。
だから、天国で生物を進化させて、新しい生物を創る必要はなく、新しい生物を創るのは、命の選別が行われる、地球でやるべきなんだ」
地球での、過酷な命の選別を思い返す…。
とても沢山の選別方法が、行われていたと思う。
悪人によって、間違った選別を強要されてもいた。
俺の、混沌状態の地球の記憶は、まだ過ぎ去った事ではなく、生々しいものである。
「…天使は、その命の選別の結果、選ばれたものでしょうか?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。
現状の、地球の命の選別は、神の意向の有るものと、神の意向の無いものがあるからだ。
まぁ、多分、現状の、地球の命の選別の、一部は、天使を選別することの、判断の材料になっているだろう。
俺は、地球の命の選別が、神の意向の有るものだけになることを望んでいる。
それが、正常な地球の状態だ。
その状態こそ、天使を生み出す機能を持つ、地球の本当の姿なんだ。
未来には、改善されていると良いんだが…。
さぁ、また飛び立とう。
正幸迎はもう、充分に飛べるようになったし、俺と手を繋がなくても、大丈夫だろう」
え?! もう俺一人で飛ぶのか?
「あの…。もう少し手を繋いでもらっても、いいですか? まだ少し、慣れないので」
「そうか。では」
テスが、また手を差し伸べてくれた。俺の家に着くまでは、手を繋いでいてもらいたい。
一人は、まだちょっと…な。安全第一だ。
日が暮れ始め、辺りが朱色に染まっていく。
そこから、かなり長い時間を飛んでいくと、雲の上に建物の形が見えた。
平屋で長方形のシンプルな形だ。
でも、暗くて遠くにあるから、よく見えない。
「あの建物も、天使の家だ。
ここら辺は、食堂を中心にして、天使の家がドーナツ状に建っている。
正幸迎の家も、その中の一つだ。
空の上下の空間も使っているので、慣れるまでは、迷子になるかもしれない。
だが、慣れれば、地球よりも簡単だと思う。
道が無いから、目的地までは、基本的にまっすぐ飛べば良い。
場所と方向と距離を、感覚的に覚えるだけだ。
もうじき、正幸迎の家が見えてくる。気に入ってくれると良いんだが」
「自分の家を貰えるだけで、嬉しいです。本当に良くして頂いて、感謝しています」
俺の家はどんな家だろう。なんか楽しみだな。
(更新日 2024年07月31日-No.01)