1-5
一歩、扉を出てみると、雲の地面を踏んだ。地面は固くてしっかりとしている。
目の前には、見渡す限りの青空が、広がっている。
大パノラマ。
こんな広い空間は、生まれてから初めての体験だ…。
世界に圧倒されて、爽快感が沸き上がる。
なんて綺麗なんだ…。
光も地球より優しい白色で、物が美しく見える。
空気が澄んでいて、呼吸が気持ちいい。
振り返ると、今まで居た部屋は、平屋の石の建物で、雲の上にあった。
初めて見るもの達に、テスが説明をくれる。
「水蒸気で出来ている雲は、風で流れるけど、建物が上に乗っている雲は、天使が動かさなければ、ほとんど動かない。そのほとんど動かない雲は、【神力】で出来ていて、地上から見たら、どちらの雲か分からないようになっている」
流れる雲が俺へ触れ、形を変え、後ろへ流されていく。
「雲ってひんやり冷たいんですね」
「体がほてっているときには、気持ち良く感じるよ」
「へぇ~」
建物を見上げると、旗がはためいている。
扉の右上、屋根から真上に突き出ている棒に、旗が付けられている。
旗は赤地で、中央に白い卵のマークが、描かれたものだ。
「ここは天使が産まれる場所。
【天使成形神器】という、神様から授かった神器が置いてある。
その天使成形神器から、天使は産まれてくるんだ。
神器は、天国に幾つかあるが、全て【神力】で出来ている。
そして、天使成形神器は、どんな傷や、どんな病も、治すことが出来る。
DNAを変化させる事も可能だ」
DNAを変化させる?
「凄い…、ですね。地球の科学より、発達しているんですね」
「【神力】だから、神様の世界の法則のものなんだ。
【地球が存在する宇宙の法則】を元にして出来た、地球の科学とは、比べものにならない程の差がある、高度なものだ。
まぁ、詳しい話は、おいおいするとして、正幸迎の家は、少し遠くにある。
今日の夜から自分のベッドで寝る為には、もう出発したほうがいい」
テスが浮いて、俺に手を差し伸べてくれた。俺はしっかりとその手を握り、ゆっくりと俺も浮いてみる。
「よし。行くぞ」
テスが優しく、俺を引っ張りながら飛んでくれるので、負担にならないよう、俺も速度を上げて、付いていく。
「休みたいときは、いつでも言ってくれ、地上に降りれば、すぐ、休憩をとれるから」
地上を見ると、深緑のカーペットを一面に広げたような、地面が見えないほどの深い森が広がっている。
遠くには、山と湖が見え、そこから川が続いている。
下を見ても、意外と平気だ…。
風を感じて、気持ち良いからか、飛ぶのが楽しいぐらいだ。
「ここから正幸迎の家まで、半日ぐらいかかるから、上手くいっても到着するのは夜になるだろう」
上手くいっても? …上手くいかない可能性もあるんだな。
「それと、俺は正幸迎と話す為に、日本語を学んだ。だから、正幸迎と少し会話できるが、天国の言葉を覚えないと、大部分の天使とは、会話が出来ない。
だから、近日中に、俺が天国の言葉を教え始める」
「はい、よろしくお願いします」
天国の言葉か。そりゃあ、日本語が、天国の標準語なわけないな。
「新しい天使への、天国の案内や、天使の仕事の説明なども、俺が担当しているから、分からない事は、何でも聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
天国にも仕事があるんだ。俺の仕事が簡単なものだといいな。
テスは良い人そうだから、テスが色々教えてくれるなら、安心だ。
(更新日 2024年07月31日-No.01)