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「体は大丈夫そうです」
どこにも不調は感じられない。
「では、次は飛んでみよう」
「飛ぶ?!」
「そうだ。この建物は、空に浮かぶ雲の上にある。
天国の社会は、地上から空まで使っているから、移動するのに、飛ぶ必要があるんだ。
飛ぶ力は、神様が天使に授けて下さった。【神力】だ。
天使は、天使となった時から、飛ぶ能力を持っている。
では、見本を見せる」
テスはそう言うと、その場にフワリと、30㎝程浮かんだ。
「飛ぼうと思うと飛べる。感覚的なものなんだ。歩くのと同じようなもの。
意識すると、上手く歩けなくなるだろう? 飛ぶのも同じだ。
さぁ、やってみよう。
飛ぼうと思って、軽くジャンプしてみてくれ」
飛ぶ…。俺は飛ぼうなんて思ったことが無いけど…。
でも、天国での生活に必要なら飛ぶしか無いだろう。
俺は軽くジャンプして、飛ぼうとしてみた。
あっ?!
すぐに地面に着地したが、何だか体が軽くなったような、初めての感覚のジャンプだった。
今までの、地球上でジャンプをするような、足に力が入る感じではない。
俺は、何度かジャンプと着地を繰り返した後、浮くことに成功した。
テスが喜んで言う。
「上手いな。天使の中でも、早く飛べるようになった方だ。
そのまま、前に進んでみてくれ」
俺は言われるままに、前へ進もうとしたが、全然進まない。
腕だけを、平泳ぎのように動かしてみると、反動を使って、少し前へ進んだ。
「上手い! もう少し!」
テスが褒めてくれる。
俺は、どんどん前に進むコツが分かり、腕を動かさずに進めるようになった。
そして、前に進めるようになると、前後左右、上下に動くことは簡単だった。
テスが俺の浮いている足元を見ながら言った。
「大丈夫そうだな。
上手く飛べずに、ここで数日間の練習が必要だった天使も居るんだが、君はもう、空も飛べそうだ」
「もう空ですか?! 俺、高い所は苦手なんですけど」
まだ一時間も練習していないのに、いきなり空は高すぎる。落ちたらと考えると…。
「地上のみで生活する事もできるけど、多分、そのうち飛ぶことに慣れるだろう。
君の家は、空に用意してある。
俺と手を繋いで飛ぶなら安全だし、今から君の家に向かおう」
俺の家が用意されているようだ。それなら、早く行きたい。
…補助してくれるなら、安全かなぁ…。
「それと、君の名前、正幸迎と呼んでいいか?」
「えぇ…。それで大丈夫です」
俺の名前、知っていたんだな。
「俺のことは、テスって呼んでくれ。敬称はいらない」
「はい。ありがとうございます」
テスは、俺の親より年上に見えるけど、見た目に愛嬌があって、話しやすい。
彼とは仲良くしたいし、遠慮なく、テスと呼ばせてもらおう。
テスが、さっさと木の扉へ歩いて行き、扉を押し開いた。
その瞬間、さわやかな風が光と共に部屋へ入って来た。
白い光は眩しく、俺の全身に光があたる。
春のような風が、髪を躍らせて、服を通って全身の肌を撫でていく。
扉いっぱいの青空には、白い雲が流れている。
扉を出れば、新しい世界が始まる。
まったくの未知の世界。
扉から入ってくる、気持ちの良い風が、外の世界への期待を湧き上がらせる。
方向性が分かっているなら、心を綺麗に保って、前進あるのみ。
やるしかないっ。なんとかなるさっ!
(更新日 2024年07月31日-No.01)