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「着いたぞ」
テスは、俺の隣人の家が建っている雲に降りると、俺の方を振り返って言った。
すぐそこには、明かりの灯ってない俺の家が黒く見える。互いの家は、かなり近くにあり、大声ならば届く距離だ。
隣人の家からは、リズミカルな、木を叩くような小さな音が聞こえる。
テスは、俺が雲に着地したのを確認すると、すぐに玄関扉をノックした。
女性の家だが、玄関扉の周りは、俺やテス達のように、何も無くシンプルだ。
物が雲から落ちないように配慮しているのだろう。
玄関に明かりは無く、部屋の中の明かりが、窓から漏れているのみだ。
「はい」
部屋の中から、女性が返事をする声がして、リズミカルな音は止まった。
玄関の扉を開けたのは、顔がとても美しく、スタイルの良い女性だった。痩せているが、ファッションモデルよりは肉付きが良いようだ。これほど美しい女は、日本の芸能界にもいないだろう。
「夜遅くにすまないが、早く挨拶をしておいた方がいいかと思ってね。
こちらが、新しく来た正幸迎だ」
俺は、彼女が美しすぎるので、彼女の姿を凝視していたが、テスに促されて、我に返った。
「はじめまして。正幸迎です。よろしくお願いします」
俺は、丁寧にお辞儀した。だが、相手が中国人なのを忘れていた。お辞儀では、丁寧な挨拶をしたことが伝わってないかもしれない。
俺が緊張して戸惑っていると、彼女は、ほほえんで挨拶してくれた。
「お待ちしておりました。私の名前は、メイと言います。
長く地球から離れておりますので、無作法があるかもしれませんが、どうぞ、よろしくお願い致します」
…彼女がなんて言ったのか分からない。
テスが、すぐに通訳してくれた。彼女は、俺と仲良くしてくれるようだ。
「彼女は、自宅で織物を織る仕事をしている。だから、大体は家にいるから頼るといい」
さっきまで聞こえていたリズミカルな音は、織物を織っている音だったようだ。
「では、挨拶も終わったことだし、今日はこれで、帰ろうか」
「あっ、はい」
俺はもう少し、彼女と仲良くなってから自宅に戻りたかったが、テスの通訳が無い状態では彼女と会話も出来ないので、仕方なく家に帰ることにした。
テスと共に、俺の自宅の玄関まで飛んでから、彼女の家を振り返ると、彼女はまだこちらを見ていてくれているようだ。俺は彼女に手を振ってから、家の中に入った。
テスが慣れた手つきで、部屋の明かりを灯してくれる。
「今日は一日で、ずいぶん多くの場所を紹介した。あまり詳しい案内ではなかったが、詳しくは追々教えていくよ。
田んぼの紹介があったから、帰宅する時間が遅くなってしまったが、これで、とりあえず、天国での生活には困らないと思う。
俺は複数の仕事を掛け持ちしているから、他の仕事場へ、しばらく休むと伝えに行きたいんだが、明日から一人で大丈夫そうか?」
「えぇ。自分一人でなんとか出来ると思います」
「そうか、…では、数日後に、また来ることにするよ。
俺が来るまでに、少し天国語の本を読んでおいてくれ」
テスはそう言うと、自宅へと帰って行った。
俺は玄関から、隣の部屋の明かりが消えていることを確認してから、米袋を置いた。
(更新日 2024年08月02日-No.01)




