雨宿り その四
あの…此方へはお仕事ですか?
まさか、死に場所を探しに来たとも言えない。
ええ、まぁ。はは。
笑ってごまかすよりない。彼女も、大変ですね…、と言いながらクスクスと笑っていた。
気付けば、私は妙に安堵していた
それから、ぽつりぽつり、 雨垂れの様に、途切れとぎれのたわいもない会話が続いた。
彼女もいくらか警戒心やら緊張感やらをほどいたのだろうか、口調が柔らかくなっていった。
まるで緩やかなキャッチボールみたいに続く会話がひどく心地好く、私の乾いた心を潤していった。
もうすぐバスの時間ですね…。
前屈みになり、バスの来る方を見ながら彼女は呟く。そうですね…。雨、止みませんね。応えながら、私もつられて前屈みになり、暗い道の果てを眺めていた。彼女は前に垂れた髪をかきあげながら言った。
でも私、雨が好きなんですよ。こういう秋の雨って、何だか癒されませんか?
特に悲しくてやりきれないような時は。
ふふ、と彼女は笑った。
やがて遠く唸る様な重たいエンジン音が聞こえてきた。
あ、来たかな…。
彼女が呟くと同時に、か細いライトが小屋の前の道路を照らした。エンジン音が迫ってくると共にライトの光が強くなる。
バスが来たのだ。
やっと帰れる。
バスのライトに高揚感を覚えつつ、この場の不安定ながらも優しい空気がもう長くは続かないのだという現実に例えようもない寂しさを覚えざるを得なかった。
気だるいため息の様なブレーキの音と共に私達のいる小屋の前でバスは止まった。
彼女はすっと立ち上がり、有難うございました、と言って軽く会釈をしてから柔らかな笑顔のままバスに乗り込んでいった。
私もはは、と苦笑いしながら彼女に応えて、バスに乗り込んだ。
まばらな乗客は石の様に静かに俯いていた。
一番後ろの誰も居ない席に座り窓の外を眺める。
ドアを閉じたバスが緩やかに走り出す。
次は、というアナウンスにも車内は反応しない。
あくまで淡々とバスは走る。窓の外にはまだ絶え間なく白い雨が降り続けている。
もう少し、生きてみよう。彼女もそう思ってくれているといいな。
ふいにそう思った。
バスは不安定な加速と減速を繰り返しながら、暗闇を切り開く様に駅へと走り続けている。




