64.リスティの悪巧みを防いで?
それは戦闘の真っ只中でやるような事ではなかったのだが、目の前で振り下ろされている炎を纏った剣での攻撃には、ユウマはまったく恐怖を感じるどころか、その場で動かずに構えたまま考えごとをしていた。
まあ周りから見たら何をやっているのかと思うところだが、ユウマとしては単調的な攻撃なうえ余りにも遅すぎるので、いつでも避けられると思っていた。
なのでこの馬鹿な事をしている目の前の状態をどうし様かと考えていたのだった。
この馬鹿馬鹿しいこいつの作戦を、周りの人達から目撃されずにするには、それになおかつ解らないように解決するには?どうしたものかと、この短い間に考えていた。
まずはリスティが、光属性魔法の【閃光】を発動しているので、放つ前の停滞維持しているその魔法陣を、手に魔力を集中してその手で手刀を繰り出し、それで魔法陣を切り裂き破壊、魔法そのものを無かった事にして消し去った。
それで目つぶしによる騙し討ちを、その一手を阻止した。
このとき繰り出した手刀は、ユウマにとっては何気に振るったのだが、常人には到底見える速さでなく、ただ風が吹いた程度にしか解らなかったようだ。
次に攻撃していた炎を纏った剣は、真剣白羽取りをする気で繰り出し剣を挟んもうとして、『あっ』と思ったが既に遅かった。
何故そう思ったかと言うと、剣が燃えている事をすっかり忘れていて、そのままその燃えてている剣を挟んでいたのだ、ただそれは良かったようで挟んだ瞬間にその炎はすべてが消え去っていた。
そこでリスティが振り下ろしていた剣を止めるつもりであったが、何故かその挟んだ勢いよくて、剣がその挟んだ部分よりぶち折っれ《ガキン》と言う音とともに、刃先が宙を舞い飛んでいった。
このとき、ユウマもまさか折れるとは、思っては無かったが本人は折る気満々でこのような対策をおこなったのだった。
その光景をみていた者達は、皆一瞬ユウマが切られたと思っていた。
だが次の瞬間リスティが攻撃を繰り出し当たったはずの剣が折れ、その刃先が飛んで行ったのを見て驚き呆気に取られていたのだ。
しかし一番驚いていたのは、当の騙し討ちをして攻撃を行なったリスティ本人であった。
何故かと言うとリスティの使っていた剣は、ミスリル製で特別な付与、斬撃強化と麻痺効果の呪詛を施した、はっきり言って卑怯と言う様な代物の剣であり。
そのうえ、彼自身も自分の得意とする身体能力向上の魔法を使用して、パワーアップしていた。
さらには先程ユウマによって消し去られてしまった光属性魔法の【閃光】を使って、目くらましを行なう筈だったがその戦術も上手く機能しなかっただらだ。
それに炎を纏わせ、さらに強化をしたはずの自分の剣を、難なく折られてしまったからであった。
その光景を直ぐ間近で見ていた、執事のセバリオの方も何が起こったか解らずいた。
それにリスティの剣が折れた部分と、その状態にしたユウマの手元を見て驚いていたが、次の瞬間それを行なったユウマの行動を見てさらに驚き驚愕した。
そのユウマは、さて?ここからどうしようと、剣を折った時の体勢をといて、後ろに振り替えりその場を離れていったのであった。
このときユウマが考えていたのは、どう言う風に決着を付ければ音沙汰無く済ませるのかと、顎を触りながら目をつぶって色々と考え、一定の距離を静かに歩いてリスティから離れて行った。
先程まで呆気に取られて驚き、いったい何が起こったのかが解らず思考停止していたリスティが、無防備にも後ろを向いて離れて行くユウマに気が付き、これはチャンスと思ったのか一旦後方に勢い良く飛んだ。
その着地した場所からリスティ自身がもっとも得意とする魔法を詠唱してしだした。そして馬鹿正直に攻撃を喰らわそうと大声をあげた。
「はははっ、油断したな、馬鹿な庶民め。まぐれで僕の剣を折りやがって、死んで詫びろ」
悪役みたいな台詞を吐き、詠唱完了させて魔力を溜め込んだ魔法を放ってきた。
そんな大声で言ったら不意打ちにもならないでしょうと、思ったユウマだった。
このときリスティの放ってきた魔法は、火属性の火炎魔法【火炎矢弾幕】と言う魔法であった。
はっきり言ってぱっと見は、避けられないと思う程の炎の矢が、視界全体に広がりこちらを狙ってきている状態だった。
それは見るからにもの凄い数の炎の矢で、まさに弾幕と言って良い程であった。
しかも近付くのが嫌になるほどの熱気がものすごい。
その【火炎矢弾幕】の魔法を見ていた観客席の全員が、リスティの言っていた魔導騎士学校の上位で卒業は伊達では無かったのかと考え直していた。
何せそれ程の魔法と魔力のものだったからである。
このままではリスティと対峙しているユウマはおろか、審判として近くにいる執事のセバリオが危ないと、急に皆が慌しく緊急事態を考え動き出していた。
みんながユウマ達の心配して、もしもの時に備えて動き回っているのをよそに、その戦闘を落ち着いて観戦していたシルフィーとレーネがいて、それといつも間にか姿を現した紅の妖精のフレイがシルフィーの頭の上にちょこんと座ってこのとの成り行きを観戦していた。
その2人の慌てていない姿を見た領主ロベルトは、何故こんなに落ち着いているのかをシルフィーに聞いてみたのだった。
「シルフィーよ、何故そんなに平然とこの状況を見ていられる?あの魔法は罷り成りにも中級の上位魔法だ!ただではすまない筈だ。このままではユウマ殿はもちろん、近くにいるセバリオも危険なのだぞ。最悪の事態を考えないといかないというのに」
領主であるロベルトが、慌ててシルフィー達に声を掛けたが、2人の返答はロベルトが考えていた事とは、全然違っていたのだ。
「いえ、叔父様、それは心配ないかと思いますよ」
「ええ、ロベルト様。彼なら大丈夫でしょうし、セバリオさんも大丈夫と思いますよ」
『だよねぇ。なんてったてユウマだもんね♪あっ、でもミナがいないけど大丈夫なの?』
フレイがシルフィーとレーネが喋ったあとに、ふとユウマと一緒にいた少女の事を思い出し声を掛けたのだった。
「それは、たぶん大丈夫と思いますよフレイ。だってユウマ様ですもの」
ウットリと勝利を確信して答えたシルフィーだった。
ロベルトには、紅の妖精のフレイの姿が見えており、そのフレイに、そこまでユウマが凄いのかを聞く事にした。
「フッ、フレイよ、そんなに彼はすごいのか?』
『えっ、うーんとね。うん、強いよ。だってシルフィーと同じ魔眼の持ち主だったんだよ。それに契約妖精や聖霊がいないのに、もう魔眼の力を使いこなしてたよ』
ロベルトは、このフレイの言葉を聴き驚いて、シルフィーの方に視線を向けたら、ロベルトの意図を感じ取ったのか頷き肯定していたのだった。
その事を納得して慌てて動き回っている使用人達と騎士達を一旦静めて、ロベルト自身も腰を座席に下ろして、今から始まるだろうユウマの行動を見ることにしたのだった。