決定に至るまで~序章~
一度人類は絶滅した
-自ら造りだしたAIによってー
二西暦3501年4月5日月曜日
上空に浮かぶ、ゲームや二次元作品に出てくる浮島を模した巨大人口船。ー通称「倭国」
その名の通り船には国民が居て、色々な建築物が建てられている。しかしながら、国の政治体制は西暦の「士農工商(日本の江戸時代の政治体制。武士、農民、職人、商人という4つの身分に分かれている)を推進、実行している。町並みは江戸の町そのもの。強いて当時と違う箇所を上げるとしたら「科学技術が発達した」ことと新しい人類「ネクストータル」が誕生したことぐらいだ。
この物語は「倭国」を中心に世界改革を企む少年少女の物語。
同年同日、1年に一回しかない入学式が始まる。学校前の校門に立て掛けられた「神明高等学校入学式の看板と共に新入生を出迎える桜の木は満開で恰も微笑んでいるかのような雰囲気を醸し出す。
体育館のステージ場辺りは在学生が飾り付けしてとても華やかだ。
椅子に座りながら期待だけを胸に抱き、深呼吸をする。初めての高校、春の穏やかな風が髪を靡かせ身体を通る。
「前に居る子、小学生??制服が私たちと違うよ!」
「どうしたんだろう?ひょっとしてお兄ちゃんかお姉ちゃんと一緒に来たのか?」
・・・・・・しばらく聞いてれば何か!
確かに身長142センチ、体重34キロは小学生体型だけども。これでも君たちと同じ15歳ですよー。
(それでも『無限感失空間』では時間が止まった状態で成長はしなかった)
そんなことを考えているうちに上の明かりが消え、ステージだけに明かりは照らされた。普通なら最初の言葉は校長、もしくは副校長だがステージに立ったのは生徒会長だ。新入生一同は彼女を凝視し彼女の話に耳を傾ける。
話の内容は主にこの学校の特徴だったが次第に話は反れ、今は「倭国」の現場を語っている。周りを見るとほとんどが話に付いていけず退屈そうにしていたが、俺は違う。
世界の誕生、終焉、再誕、科学技術の発展、環境、外交問題などここ数年耳にしてこなかった情報に聞き耳立てて、メモを取るぐらい重要な話だと認識してるから静聴するのだ。
「以上のことを踏まえ、倭国は他の国船と貿易し、更には地上を支配している多重性アンドロイドともゆくゆくは親交関係を築かなければならない。そのためにも新入生諸君!!
この国をもっと発展させていき、他国と釣り合うよう私たちと一緒に新しい国造りをして行こうではないかー!!!!!!!」
約1時間のスピーチはこれにて終了。教職員は足並みそろえて起立して拍手。それに合わせて俺も拍手。
具体的な熱論で全員が拍手するほどと受け取ったがまぁ、それは人それぞれで実際に拍手した新入生は5人と居なかった。
スピーチが終わった後は副校長による閉会の挨拶ですぐ各自のクラスに移動を始めた生徒たち。続いて担任の先生が教室に向かう。その流れを見て混み具合が尋常じゃないことを悟った俺はしばらくの間、椅子に座りっぱなしの状態でいた。
座った時は冬場体育館に締まっていただろうと思えるほど冷たかったが1時間そのままでいるとそうでもない。むしろ暖かいくらい。
「・・・・・・はぁふわあぁぁぁ〜。ね、む、くなってきた〜」
窓は全て閉まられ、しかしカーテンは閉じられず、春の暖かさが冷たかったこの場を温める。
嫌でも逆らえない陽気が睡魔を呼び、自然と目をつぶってしまう。意識はゆっくり閉ざされ外界との繋がりが途切れる。
数分も経たない。その世界をも一度夢で体感するのは。「闇」というものでは収まらない深い深い「感情」の悪夢。
ー神明高等学校体育館 11時ー
天井のライトは完全に消えて周りはざわつき始める。
今から新入生たちは高校生活初のクラスに入っていく。その姿は初々しく同時に自分が入学した時のことを思い出させる。
「会長、そろそろ次の定例会議に行かなければ」
中学校からの友達で副会長の菫が次の予定を伝えてくれる。私はスピーチの後のストレッチを軽く済ませ彼女に付いていく。
スーテジに繋がる小階段を降りて近くにある出口のドアに手を掛ける。さすがに春といえど金属製のドアノブは冷たいが、ドアを開ける。開けた途端に隙間風がビューンと入って2人の髪を靡かせる。
「あ、スーピチ原稿が!」
「あーまったく。春の陽気に似合わない風だこと。今の状態を理解して欲しいものだわ」
ドアを全開まで開けるとしばらく閉じていた分風が一気に入ってくる。その影響で菫が持っていた100枚は下らない原稿用紙は桜の木から花びらが舞うように空中へ散る。すぐさま私たちはそれを拾うものの100枚はあるので一枚一枚拾っていくのが面倒だ。しかし、私は拾う。いつもはこういう面倒ごとは生徒会のみんなに振り分けるが、そうすると時間が掛かって後に控えてる会議で代表生徒に物凄いバッシングを受ける。事によっては生徒会を辞任するかもしれない。
「ええっと原稿用紙は112枚で今集まってるのが110枚・・・。」
「あ!残りの2枚は意外な所に」
副会長がわざとらしく指を指す。指を指された方向に目線を向ける。・・・・・子供が居た。
「え!まさか。まさか!!!!!!!」
私は急いでそこへ駆け寄る。もちろんプリントは落ちないように片手で持ったままで。それに続いて菫も駆けつける。
近づくにつれどんどん椅子に座っている子供の姿がはっきり見えてきて菫は動揺した。私も動揺したが子供の様子が苦しく見えてそれどころではなかった。
「似ている。水蘭に・・・・・ってそんな場合じゃない。菫、すぐに保健室に連れて行かなきゃ⁉︎」
「ハイ!!!ただいま!」
偶然にも知人の友人?なのかはわからないがその子のおでこに触れると尋常じゃないほどの高熱であることがわかった。急いでその子を抱きかかえ保健室へ向かう。移動している時も何かに魘されてるみたいに苦しんでいた。が、着いた時には安らかな顔に戻っていった。「入学早々、青春の一ページ目を棒に振ったわねぇ」と冗談の毒舌でいつもの調子に戻り安堵する。
今はちょうど熱冷ましに氷枕を頭の下に敷き、ひと段落ついて場違いなランチをとっている。生徒会名義で貿易国「唐明」から取り寄せた紅茶がティーカップに注いであり、飲みとたちまちスーピチで乾いた喉を潤す。テーブル席の向かい側の副会長も大層ご機嫌な様子。
「美味しいですね。さすがお茶と貿易交渉にはケチらない会長。特産品が高いのにもかかわらず」
「何言ってるの?お茶はその人の気品を表すもの。貿易は・・・・・」
「如何に相手に考える暇を与えず、両国がメリットを得られる交渉に持ち込むか!!」
菫は机に乗り出し、至近距離で満々な笑みを浮かべる。常日頃から口癖で言っているからか彼女にも一字一句間違えずに言えてしまう域に達したらしい。
決め台詞を言えた時はバッティングセンターでホームランを出した時と同格の満足感を得られるが、逆に相手に取られると自分の買いたい商品が前にレジに並んでいた客に取られたかの如く、不完全燃焼で虚しくなるもの。…今まさに私はそういう心情だ。
落ち着く為再び紅茶を飲み、視線を別の場所に向ける。白と茶色を混ぜたかのような優しい色の髪。肌は汚れない赤ちゃん。唇はぷるんぷるん。これ以上挙げると変態とみなされるので割愛するが。
・・・・・・・・「似ている。いや、直接間近に見た感じもうその人と思ってしまう。それくらい一致している」
ぶつぶつと独り言を言う。
自分の感情は自分が一番知っている。それは誰もが該当することであり、自我を持つ者として当然の大前提だ。・・・でも今の独り言は深層心理ー「魂」が意識を飛び越えて言った感じだった。
ーキシキシと音がする。音と共に掛け布団は動き軽く畳まれる。
起きたら保健室にいた。
自分の周りを見るなりシーツはビチョビチョで全身冷や汗をかいてるのがワイシャツ越しから伝わる。
今の意識が少しずつはっきりして数分経ってようやく立ち上がる。目の前には学校の制服を着た女子生徒が2名いてどちらもこちらを見ていた。片方は腕に生徒会長の文字が入ってる輪っかを持っている。
「何故?」という疑問が頭によぎったのだがひとまず体育館でうたた寝してしまった時に遡って状況整理。色々と彼女ではなくて「神明高等学園生徒会長 神沢 茨城」、「副会長 棚牡丹 美樹」。先輩たちはどうやら魘されているところを助けてくれたらしい。また、今はお昼ご飯をご馳走させてもらっている。
お茶に卵とフルーツの2つのサンドウィッチ、ビスケットなどが並ぶ中で俺はサンドウィッチを頂いた。卵はきめ細かくクリーム状になって口当たりがとても滑らか、フルーツの方はイチゴとみかんがそれぞれの甘み、酸味を高め合って味を強調している。その間、会長と副会長はじーっとこちらを見て嬉しそうに笑っていた。
「何か顔に付いています?まじまじ見られると恥ずかしいのですが」
赤く照れた表情で2人に質問。すると、おっとりした目をして会長が答える。
「とても美味しそうに食べるから見入ってしまっていたのよ。ねぇ、すみれもそうわよね!?」
「え!!!・・・・・あ、そうですそうです。可愛いなぁ〜って思ってました!」
副会長の返答に間があったことに対して多少気になったけど詮索しないことにした。でもその気遣いはすぐに無意味となる。会長がティーカップを置くと妙な気まずい空気が辺りを包んだ。
「クラスに向かう前に聞きたいことがあるのだが良いかな?」
立ち上がった俺に会長は質問する。恐らく副会長が聞きたい内容と共通してるのだと菫先輩の顔を見るなり瞬時に分かった。
俺は会長たちの胸ポケットの所に太陽と周りに星がデザインされてるバッジを再び見てうなづく。(この人たちならどんなに秘密を隠そうとしても早急に分かってしまうと思ったから)
「もしかして倭国の副代表、水蘭と親戚だったりする?」
「姉ちゃんと!?」
「姉ちゃん???」
ランチの後片付けをしていた副会長が手を止める。ティーカップをトレーに乗せ、彼女はこちらを向き、疑問を抱く。
自分も先に関係性を直接言ってしまったことに疑問を持った。その後、慌てた様子で詳しく話した。
「実は俺、弟なんですよねー」
言葉が継ぎ接ぎだったが、2人はさっきよりも驚きを露わにしていた。その証拠に会長の手は震え、副会長は誤ってトレーに乗せてたカップを落としてしまった。
事態は急を要する。
俺にはさっぱりでその後1人自分のクラスに行った。
入学式閉式の時間からざっと2時間遅れている。「遅れた理由をどう言い訳しようか」で今は頭の中いっぱい。・・・・・そんなこんなで教室に入ってみると誰も居なかった。クラスの連中が面白おかしく騒ぐ教室は雲の影で暗くなってるだけで無の空間と化していた。仕方なく教室を後にし、職員室に行く。職員室には学校教職員が揃っていて、コーヒーを片手に今年度の年間スケジュールの中を話し合っていた。そんな中呼び出した先生(恐らくはクラス担任である)に遅れた理由を説明した。女性としての美しい姿がなまはげに変わるが如く表情が変化して怒声を浴びた。その声は職員全員の耳に入り、こちらに注目する。
・・・・・・・・俺の立場。先生、早く説教終わらせてくれ。
結局先生による説教は日が暮れるまで続いた。おかげでさっきから耳鳴りが酷くて家に帰ることすら厳しいぐらいだった。
ー同日 午後7時30分 木の葉邸 客間ー
スクールバックを置き、座布団が敷かれた場所に座る。机には抹茶と茶菓子があるが茶菓子には触れずに抹茶だけを飲んで待ち人を待つ。
待ち人というのは倭国の副代表兼ここ「木の葉邸」の家主。つまり「水蘭・イージス・ミゼラル」、僕の姉ちゃんだ。
客間まで案内してくれた女中さんによると「倭国共同連合会議」通称「JCUC」で遅れてるらしい。
そういえば生徒会長と副会長、JCUのバッジ付けてたな〜。ということはあの2人も今日の会議出席してるのかな。
・・・・・!!!!!!!!!!!!!
瞬間、俺の頭の中に稲妻が走った。
確定とまで言える予想が目に見え、愕然と身震いしてきた。
それはお姉ちゃんの性格を知る俺だから分かったこと。
(このままじゃ強制的に精神を幼児まで落とされてしまう可能性が大だ)
お姉ちゃんは「人様に迷惑をかけてはならない」を教訓として教えてくれた。そしてその時こうも言っていた。
「目上の人に迷惑をかけた場合には体も心もショタであれば許してもらえるものよ!」
だからこそ悪い予感。しかもお姉ちゃん自体根っからのショタコン。今でも危険性が高いのに更にその上を行ったら一体どうなってるかしまうのか。
慌てて俺は何かに縋るようにバックに入ってる通信機を取り出す。連絡先がまとめてあるファイルを開き、1番下までスクロールするとそこには「高坂 司」の名前があった。
即座に名前部分をタップ。連絡した。
数秒も掛らず繋がった。相変わらずな面倒くさい雰囲気がこっちまで伝わる声。
いつもだったら絶対に頼み事をしない相手だか、今はコイツしかたよれない。
「すまない司!単刀直入で聞くがお姉ちゃんと会長って俺のこと話していたか?」
通信機越しで俺の慌ててる様子が伝わったのか親友は今回ばかり快く答えを返してくれた。
「今日は国の貿易議題以外は特に話していなかったぞ」
・・・・・・その言葉が聞けて良かったー。
緊張で全身に力を入れてたのがスゥーと抜けて正座の態勢が崩れる。
「ありがとなー。お前はいつも俺に対しては愛想悪くして言ったことに反論するが、今日もだけはお前が居て良かったと思えたわ」
「一言余計だ。・・・・・・待てよ帰り際に副会長が何か副代表にコソコソと話していたような??」
・・すたすたすたすた。
司の不安を煽る言葉と共に誰かが廊下を歩く足音が聞こえてくる。
瞬間、背中に冷たい悪寒がし、正座に態勢を戻す。
「ごめん。切るぞ!」
一言だけ言って通信を切る。司から何か言ってる声が聞こえたが今はそれどころではない。
「ただいまー。遅くなったね」
「いえ、自分も今さっき来たばかりですので。お気になさらず」
「で、ここに呼び出した理由なのだけど。先に言っておくけど文句は言わないで。全て己が招いた事だから」
その時の俺の心情は迷惑を掛けた事を追求されずラッキーと喜べる感じではなく、むしろその逆。
・・・・・とてつもなく気持ち悪い。いや、居心地悪いと言った方が良いのだろうか。
全身に汗が浮き出て予想した展開に何もできずにただ言葉の意味を理解しようと頑張った。でもどう考えても1つの意味しか頭によぎらなかった。
「琴吹未来、本日をもって神明学園生徒会の総意の下退学とする」
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
(納得できねぇ)
「あちらの言い分として何1つ実績や資格がないからとか。まぁ、私からしたらそんなのくだらないことだけど」
なるほど、というのは簡単だ。要するにここで諦めて退学して次年度の別の高校の入学試験を受けろということか。
「なんて理不尽だ。俺の事詳しく知らないのに。ふざけんな!!!!!!」
・・・・・・・・ようやく普通の楽しい学校生活が送れるかと思ったところにどうして。
「話しはまだ終わってないぞ」
お姉ちゃんが近くまで寄って右肩を軽く叩いた。
「あなたは姉妹校の聖徳学園初等部6学年に転入してもらうことになったの」
はぁぁぁいいいいいいいいいいいいー???
1週間後。
何もかもが新しい環境に体が身震いする。春の陽気が燦々と漂う中でまるで怯えた子犬みたいになるのが不思議だ。
桜は少し景観を変えて春だけど4月から1ヶ月経過していることを示す。この季節に6年生へ転入する生徒は教育一貫校(小学校、中学校、高等学校、大学がまとめて経営してる学校)が一般化した現代ではかなりレアケースだろう。話しを聞いた時は入学書類に必要な紙を焼却炉で燃やしたり、印鑑をわざと紛失したりと学校に入学することに態度で反対した。でも、何故かここにいる。
「全ては副代表の権限か。くそ〜!」
スクールバッグをブンブンと周りを気にせず縦に振り回して校舎に入る。中は思ったほど広いわけではなく以外にも年季の入った様子でちょっと驚いた。神明学園の姉妹校兼グループ校の聖徳学園がおんぼろとは・・・・。
多少残念だが足早で職員室に行き担任の先生と合流した。先生は女性で眼鏡をかけていた。しかし俺は別に担任が男性か女性かなど興味が無い。今、興味があるのは動物園のスタッフのジャージを着ている件についてだ。(まぁ、ツッコむのは話しが長くなりそうだからしないが)
歩いてる際に学校の説明を先生が一方的に話してくれた。目を輝かせて。そうしてなんやかんやでこれから1年間自分のクラスになる6年3組の扉の前に着いた。教室では転入生の話しで持ちきりでとても賑やかな雰囲気な印象だ。
「はーいみんな!席に着いて。転入生を紹介しますよ!」
先生が先に教室に入って行き、トントン拍子で話を進めていく。呼ばれたら後から教室に入り辺りを見渡すと生徒全員がじーと見てる光景が広がっていた。
「名前は琴吹未来。理不尽な理由でこの学校に転入させられましたが、1年間よろしく!」
軽く頭を下げて自己紹介を終える。一方先生は生徒の好奇心を抑えようと注意していた。
第1章 「5月の宣誓」
教室の窓際の1番日光に当たる左の席が自分の席。一日中暖かく午後の授業で寝てしまいそうだ。と、思ったところにクラスの生徒の質問責め。複数人の好奇心が一気にぶつかって打ち付けられる。・・・これじゃ答えようにも誰がどういう質問をしてるのかわからないから返答のしようがない。
「皆さん無礼な態度で聞き迫るとは図が高いわよ」
・・・・??????????????
質問する彼らは声の主に反応して静まり返る。また、皆んな驚いた顔でお互いの顔を見合わせていた。何やらのっぴきならない事態なのだろうが女子生徒は同様せずに俺の目の前に立つ。不思議に思いながらも彼女の顔を見るとどこか懐かしい印象を受けた。
数秒、彼女は喋らず瞳の奥を覗き込むように顔を見ていた。何も話しかけてこないことに気まずくなって自分が話そう口を開いた瞬間、彼女は床に左膝を付けると同時に頭を下げた。またまた突然なことに一同は騒然。
空気を読まず彼女の方から口を開き名乗った。
「ツーヴルム王国騎士団パルト団長の娘 ルナでございます。相変わらずのようでなによりです」
「ツーヴルム。・・・パルト団長。・・アッ!!!!!!」
思い出した。以前各国の交流のパーティにいた子。こんなに大きくなったのか。
「つきましては以前約束した義、この場にて執り行ってもよろしいでしょうか?」
約束?そんなこと言ってたっけ。全く記憶にないが何をするつもりなんだ?。見当がつかないぞ。そう悩んでる内にルナは俺の手に恐る恐る触れて身を乗り出した。
「えっ!何するの⁉︎何するつもりなの!」
「しばらく落ち着かれて下さい。直ぐ終わりますので」
会話が終わるとルナは俺の手の甲に口付けをした。一旦そこで頭が真っ白になったみたいでこの後どうなったかうっすらとしか分からないけど。
・・・・・・・・・・・・・・龍が出てきた。
その後ルナは何か威張って言っていたが覚えてない。ってこんな時に考え事する暇なんてない。頭より体を動かさなければ!
1時間目の体育の授業。
担任の小中先生の指導の下、体力測定を行う授業だが内容がエゲツない。
持久走4キロ、反復横跳び3000回その他新人類が秘めてる力「プラウ」を確認する為に5kg、50kg、500kgと段階的に浮かせる項目まである。これを1時間の授業で行うのはおかしいと思いつつ各項目をこなしていく。因みに他の生徒はくたくたになって保健室へようこそ状態になる人が後を絶たない。まぁ俺は余裕で反復横跳びまで達成できた。(体は小さくても昔かなりの教育者に肉体を鍛えられたからだ)
後はプラウ測定を残すのみ。やってやるぞー。目指せオーバー500キロ。
右腕を捲って拳を握りしめプラウを体から出す。緑色の目に見えるこれがプラウ。人によって体内に保畜できる量は異なり、色はその人の個性=属性を表してる?らしい。
先に2項目を達成してやってる人は数少ない。その中のほとんどが500kgのダンベルを軽々と浮かせてる。俺の前の男子生徒なんか500kgのダンベルを2つ浮かせて回してやがる。怪物並みのプラウをここにいる生徒は持っているのか!
「燃えるねー!俺だってこれくらい自分のプラウを持ってすれば!!!」
出したプラウを10メートル離れた所にある5kgと50kgのダンベル附近に飛ばす。そして飛ばしたプラウを1個ずつ1回ずつやるごとに手の形に収縮して、持ち手の部分を握って持ち上げる。この時に掛かる重り等は全て自分が負担する。多分この方法は俺しか選ばない方法で1番効率が悪い方法だろう。
500kgのダンベルの時もこの方法を用いた。でもその時点で俺の気力は限界に近くさっきの威勢は無くなっていた。仕方なく先生に言われてやってもせいぜい10秒程度しか持ち上げられなかった。
「珍しいね。体力もプラウを自由自在に操れる技術もあるのに500kgのダンベルを浮かせられないとは」
「それは自慢してるのか?そうだったら今の内に謝れ。後で後悔したくなかったら!」
俺の前にいた生徒「田幡 恭」がこちらに自慢気に話しかけて来た。感に触るような発言に言い返そうとしたが、割り込んできたルナに遮断された。にしても言い過ぎな気がするが、案の定田幡は大きな勘違いをしてしまった。
「その言い分だと実力はこの程度ではないということか。・・・・・フ、面白い!ならば1月の卒業試験、直接対決でどちらが上か決めようじゃないか。まぁ、決勝戦までかちすす!!!???」
大丈夫か。何かカッコつけて偉そうに物言ってみたいだけど石に躓いちゃった。慌てて目を瞑る。ルナは何故か哀れな目で直視していた。
「運動会。そして花火」
恭に因縁を付けられたあの日以来、俺はずっ〜と睨まれていた。視線が女子だったらと最初は淡い期待を抱いていたものの今となっては当たり前の日課になってる。だがクラスのみんなは気にしてない。気にしてるのは俺だけ。
「おかしい!!!!!!」
現代社会の授業で教科担任は岡竹先生。
その時間に思い切ってルナに聞いてみた。話しかけた時後ろの女子、確か名前は・・・そう!、壇ノ浦 琴菜にノートを見せていたみたい。席が近いというのもあるが、直ぐに俺の声に反応した。
聞いたのはクラスがここ最近妙な緊張感に包まれていることについて。俺が思うに5月は特別な行事は無いと考えるが、ルナはあっさり応答する。
「運動会が始まりますからね。皆、準備の時期にはこの通り毎年ピリピリした雰囲気になるのです」
運動会。それは古来の文献に記述された学生にとって大イベント。特に小学生がこれを行うようで赤、白に分かれて玉を投げあったり駆けっこしたりするもの。
「1人はみんなの為に」とチーム一丸となって相手チームを倒す。・・・如何なる手を使っても。
以上に基づき全国の初等科は記述通りに運動会を再現している。しかし、それだけではこうはならない。クラスのみんなからプラウが溢れ出て今にも髪の毛が放電を浴びたように覚醒状態になるまで至るのは何か只ならぬ理由があるのだ。しかし、今再びルナに聞くのは止めておく。自重という形ではなくて単に第三者の視線を教室の主より浴びたからだ。
午前の普通教科の3コマ、午後の護身術体育の授業そして清掃の時間さえもみんなの目はメラメラと燃えていた。暇さえあればこの雰囲気の原因を聞こうと企んでいた俺だが人見知りとあって特に女子には思考が停止するほどのヘタレっぷりを発揮する。ともあって
・・・・・・最終的に姉さんに聞いた。
あけましておめでとうございます。
SFとファンタジーが入り混じった作品です。良かったら今後ともよろしくお願いいたします。