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片翼のすずめちゃん

※結構暗めの内容です。胸くそ注意かも知れません。

「すずめちゃん、ご飯置いておいたから。おとなしくしてるんだよ」

 壁の外からおかあさんの声がした。気がつくと、おふとんの横に朝ごはんが置かれている。

 はーい。

 お返事しようと思ったけど、最近はおしゃべりすることがなかったから声がかすれてできなかった。頑張ったけど、すぐに壁の外が静かになっちゃったから、もうお仕事に出かけちゃったんだ。

 今日はおかあさん、ちゃんとすずめの分のごはん用意してくれた。お豆はちょっと硬くて食べるの大変だけど、おなかペコペコだからおいしく食べられる。すずめは右手がこの前つぶれちゃって左手しか使えないから、利き手じゃないからちょっとむずかしい。

 今日は何してすごそうかなあ。

 すずめのお部屋は窓が塞がれちゃってて、いつも真っ暗だからつまんない。おとうさんが昔くれたおもちゃがいくつかあるけど、ずっと遊んでたからそろそろ飽きてきちゃった。少し前まではお外にも出られたんだけど、なぜだかおかあさんにものすごく怒られて、お部屋に閉じ込められちゃった。それからはずっとお外に出られてない。このお部屋からも、1日1回しか出してもらえない。とびらが固くて、すずめひとりじゃ開けられないの。だから、悲しくなって涙が出ちゃって、お部屋から出してってお願いしてたら、うるさいって怒られた。うるさくしてたらご近所めいわくなんだって。ご近所さんは、すずめがもっとちっちゃかったころによく遊んでくれてたから、めいわくかけたらすずめが悲しいから、泣くの我慢した。我慢したけど、怒られた。右手はそのときにつぶされちゃったの。すごく痛かったけど、すぐ慣れた。慣れたんだけど、また最近痛くなり始めてきた。

「プルルルル、プルルルル――」

 壁の外で電話の音が鳴りひびいてる。最近はいつもこうだ。知らないおじさんからいつも電話が来る。ピーって音が鳴ったら、決まっておんなじ声のおじさんが、何かをしゃべっている。でも、すずめはお部屋の中にいるから何を言っているのかは聞き取れない。

 こういうの、めいわくこういって言うんだって。

 そのせいでおかあさん、どんどん不機嫌になってく。

「お前のせいだ、お前の……」

 怒っているときのおかあさんはすごく怖い。知らないおじさんのせいだけど、すずめも何かしちゃってるみたい。でもなんで怒られてるのかわからないから、おかあさんが落ち着くまで我慢するしかない。

 最近は怒ってる顔しか見てない。でも、おかあさん本当は優しいの。すずめが寝てるとき、頭をそっとなでなでしてくれる。すずめが起きてるとよくないみたいだから、すずめは気づいていてもちゃんとお利口に寝たふりしている。そのときだけは、おとうさんとおかあさんと三人でいっしょにいた時みたいに幸せな気持ちになれるんだ。おかあさんは忙しいだけで、イライラしてなければ本当はすっごく優しいの。

 昔のこと思い出してると、胸がぽわぽわしてきて、おなかすいてるのも気にならなくなってくる。このままうとうとしてたら、いい夢が見られるかも。

 久しぶりに夢の中でえがおのおかあさんを見た。本当は、夢の外でも、すずめの前でまた笑ってほしいなあ。


 壁の外からいつもよりたくさんの人の足音や話し声が聞こえてきて、目が覚めた。おうちにおかあさん以外の人が来るのは久しぶりだ。何でだろう。お客さんかな。

 ガチャッ。

 とびらが開いた。そこには知らない大人の人たちがたくさんと、悲しそうな顔をしたおかあさんが立っていた。怒った顔でも疲れた顔でもないおかあさん、久しぶりに見たな。でも、いつもよりすごく心がきゅってなった。胸がざわざわする。いいお客さんじゃないみたい。どうしたんだろう。

「こんにちは、有雀ちゃん。もう大丈夫だよ」

 お部屋の入り口に立っているおじさんの一人がすずめに向かって声をかけてきた。電話から聞こえてきていた知らないおじさんと同じ声をしていた。ありすちゃんって初めは誰のことだろうと思ったけど、そういえば昔はそうやって呼ばれていたかも。すずめの本当の名前だ。おかあさんもすずめもそんな風に呼ばないし、漢字がむずかしくて自分じゃ読めなかったからすっかり忘れてたけど。

「これはひどい……」

「見るに堪えませんね」

 後ろの方に立っているおねえさんともうひとりのおじさんがこそこそ話をしている。すずめの方を見て、眉をひそめている。

 おかあさん……? この人たちだあれ?

 声を出そうとしたけど、やっぱり声がかすれてしゃべれないや。なんか、いい気分しない。急にやってきてなんなんだろう。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 おかあさんは小さな声で何度も何度もつぶやきながら、泣きくずれてしまった。

「すぐに娘さんを病院へ連れて行きましょう。話はそれからです」

「うぅ……」

 おじさんはおかあさんを責めているみたい。おかあさんはちっちゃい子みたいに泣いている。すずめは病院へ連れて行かれるの? おかあさんも一緒に来るの?

「有雀ちゃん、辛かったね。もう大丈夫だよ」

 おじさんはまたすずめに向かって声をかけた。

 ありすって呼ばないで! 何が大丈夫なの?

 何度も声を出そうとしたけど、やっぱりダメだった。何でかわからないけど、とにかく悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。

 ということで、三題小説第7回でした。お題は「壁、大豆、すずめちゃん」でした。

 今回の難題は「すずめちゃん」でしたね。でも割とすぐにすずめじゃなくて人として出すことが決まったので、そこから考えました。

 すずめってあんまり詳しく知らなかったので、お米食べるんだし大豆も食べてそうだな~って思っていたんですが、生の大豆は食べさせるのそんなによくないらしいですね。消化に悪いんだとか……。今回すずめちゃんの設定を考えるに当たって「壁かぁ……壁の中のすずめちゃん……お、いいじゃん!」みたいなノリでちょっと可哀想な女の子にしようと思っていたので、元々大豆もマイナス要素として掛け合わそうとしていたのですが(大豆投げつけるとか笑)、頭を悩ますまでもありませんでしたね。

 必然的に児童虐待がメインテーマとなったわけですが、正直未知の世界過ぎて薄っぺらい感じになりました。おかあさんのバックストーリーは読者の皆様のご想像に任せるとして、すずめちゃん自体は虐待にあってもなおおかあさんのことが好きな健気な女の子です。普通は辛くて逃げ出したくなると思うんですけど、逆にそんな極限状態に追い込まれたら親を信じて自分は幸せであると思い込むしかないような気がするんですよね。子どもの世界って割と家庭で完結しているし、そもそもすずめちゃんはいくつか知りませんが学校へ行けてもいません。まあ、想像の域を出ないんですけどね。

 最近読んでいる漫画がメンタルヘルスを題材にしているんですが、出てくるどの家庭もいろいろな問題を抱えていて、読んでいていつも「まじか……」ってなります。どんな家庭にも問題はあるんでしょうけどね。今回のおかあさんだって毒親かよって思うし、おかあさんの立場になったらすずめちゃんを育てられなくなった要因って何だったんだろうとも思います。

 そんなこんなで、たまには暗い話を書いてみました。もう少しちゃんとした知識をつけるようなことがあれば、こう言った社会問題をテーマに書いてみるのも勉強になりそうです。まあ多分、やりませんが笑 最近読んでいる漫画に引っ張られちゃいましたけど、次回は明るい話を書きたいです。

 お読みいただきありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

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