#6 摩訶不思議な真実
しかし、保健室に入ったは良いが、保険医が不在であったため、記録を残し、消毒液を借りることにした。
「ざっくりやってるね……」
「勢いに任せたからな……思いついたら直ぐ行動なんだ俺……」
「羨ましいよ」
「羨ましい?そうかな……俺的にはもっと考えて行動すべきだと常々反省してるんだけど……本音いうとね、俺は白石さんみたいになりたかったんだ」
「え?」
歩は驚いた。岡部の口からそんな言葉を聞くとは思ってなかったから。
「初めは接点無かったよね?どう考えても同類じゃ無いし。白石さんは冷静沈着で、落ち着いてて。俺から見ると大人に見えた」
「そんなこと無いよ……ただ『ごく平凡な学生生活を心がける』ってのが私の生きる道だとそう考えてただけだもの……」
思わず隠し続けていた本音を吐き出していた。
「ごく平凡?何でそう思ってたの?」
「……平凡じゃ無いと、もう一人の私が動き出すからよ」
「もう一人の私?」
そんな話をしていた時、突然保健室のドアが開いた。歩はその先を見て、
「お母さん!?」
真っ青な顔をして母が入ってきたのである。
「歩、怪我どうしたの!?ドレスに血が付いてるのが見えたから……」
どうやら、勘違いをしたらしい。しかし、岡部を手当てしている歩みを見た瞬間、肩をなでおろした。
「早とちりだよ……でも、ドレスに血が付いてたなんて良く分かったね?私が気が付かなかったのに」
着ているドレスを広げながら言う。
「あ、本当だ。ちょっとじゃない……」
「何年母親をやっていると思うの?あなたがお腹の中にいるときじゃない!確かに良い母親だとは思ってはいないわよ。でも……」
いきなりそんなこと言われても……と、歩が困っていると、岡部が口を出してきた。
「こんにちは、俺岡部と言います。今、白石さんにお世話になってます」
椅子に腰を掛けたまま岡部は丁寧にお辞儀をする。
「今、もう一人の私。って話していたんですが、どう言う事なんですか?お母さんは知ってらっしゃるんです?」
岡部は何を思ったのか、唐突に訊き始めた。それに対して母は、ドキリとして困惑の表情をした。
「やはり、話をしておいたほうが良いわね……」
やっと話せると肩の荷を下ろしたらしい。歩むが生まれる前の話をし始めたのである。
それによると、歩は双子で産まれてくる予定だったとの事だった。
しかし、ある日の検診で今までいたはずの……エコーに映るはずの片方がどう言う訳か綺麗さっぱり消えてしまっていたのである。決して流れたはずでもない。不可思議な出来事だったため、忘れようにも忘れられない事件になった。それが、母が歩に今まで話せずにいたことであった。
「やっと分かったよ。もしかしたら、もう一人の私は、その産まれてくるはずだったはずの双子の片割れなのかもしれないね?二重人格だって思ってたけど本当は、その消えてしまった子の魂を受け継いでいたのかも……私はそんな風に生きたくはないって……」
歩は心なしか寂しい気持ちになった。でも、
「そうね……だけど夜出歩かなくなったのも、その子が納得したんじゃないかしら?歩の思いを察知して……」
これで、歩の謎は解き明かされた。事実を知らされてスッキリした気がする。今まで忌み嫌っていた自分を解き放ったようで……
岡部の前で解き明かされた謎。それに関して別段気にしている様子は無かった。逆に、
「あ〜残念だったな〜最優秀クラスに選ばれなくてさ!商品欲しかった〜」
みんな頑張った。それで良いじゃ無いか?と連発していたのに、歩の前では本音をさらけ出すようになった。意外に子供っぽいんだと分かるようになった。それだけでも身近に感じることが出来るようになって良かったと思った。これも、平凡なことなのかもしれないけど、今まで考えていた平凡とはまた違う平凡。
日常が楽しくなるようなそんな気持ちをもてたらそれはそれで良いのかも知れない。
やっと手に入れたこの気持ちを、二重人格のもう一人の私に捧げる。
やりたい事、楽しいと思えること、を片っ端からやってみよう。そう心に決めた。
それが、白石歩の生きる道なのだから……
■出せない手紙への追伸■
私は、今を大切に生きてます。
双子で産まれてくることが出来なかったあなた。
この道を一緒に歩もう。そして、たくさんの人に出逢い、共に感じあおう。
そして、感謝しよう。
全てのことに……
これで、このお話は終わりです。
平凡なんて、人それぞれ。そして、感じ方も。
歩はそれを理解した。きっとそのおかげで、もう一人の自分を吸収してしまえたのではなかろうか。
ファンタジーと言うかオカルトと言うか。そう言うのも少し取り入れて見た作品でした。
最期までお付き合いありがとうございます。




