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#2 配られた台本

 数日後の放課後前のホームルームで、劇の台本が配られ歩はそれを手に取り困惑の表情で眺めていた。

 結局、王子は岡部がやることになり、継母やその娘たち、魔法使いなどの配役は希望者および推薦で決められていた。どの役も個性に合った配役であり、文句のつけられないのは歩自身にも分かっていた。だから、台本の表紙に自分の名前が刻み込まれているのは似つかわしくなくて、何度も目を瞬かせた。

「練習は明日から始めます。台本はアドリブも可です。演技上良いなと思ったらドンドン取り込んでください」

 今回の台本は、脚本化志望の池田が担当していた。演技、メイク、小道具、大道具、美術などの担当になった者は一日前から動き始めている。本当にお祭り好きのしそうな行動であった。

「やあ、白石さん。どう?シンデレラ役に抜擢された気分は?」

岡部と会話をするのはこれが初めてだった。何しろこの少年の周りにはいつも人が群がっている。それに話すことなど何もなかった。

「何故、私なんか推薦したんです?私には荷が重過ぎます……」

俯いてボソボソとしか問いかけられない。

「何言ってるんだよ!十分合っていると思うよ?不思議だったんだよな〜目立たない様に振舞っているけど、白石さん本当はかなり行動派でしょ?」

 岡部は、ニコニコしながら歩に問い返してきた。

「え?」

 歩は驚きの表情を隠しきれなかった。私が行動派?疑問が頭の中をグルグルと回り始める。行動派と呼ばれる筋合いが有るのはもう一人の私で……

「凄いバイタリティー有るのにさ、何故隠しているの?演技なんかしなくて良いのに。自然体が一番だよ?」

 一番だよって言われても、これが本当の私なのに……もう一人の私は私じゃなくて……

説明できれば良いが、それが出来ないから困る。誰にも言えない秘密。

「誰かと間違っているんじゃない?私はこんなに地味で面白みの欠ける人間だよ……」

 そう、それが私。

「間違いなく白石さんだよ。ほら覚えてないかな?電車の中で会ったじゃ無い!声は掛けなかったんだけど。夜半の電車で痴漢に会ってた女の子助けたでしょ?俺その現場を目撃したんだよ!痛快だったな〜」

 岡部はもう一人の私に逢ったんだとこの言葉でハッキリ理解した。私の記憶の空白部分。この時怖くなった。他にももう一人の私を知る者が居るんだとそう認識したから。

「見間違いだよ。私、夜に外出してないから」

「うーん。隠したいのかもしれないけどさ、俺が人を見間違うはずないもん。あれは白石さんだった!……ま、追求されたくないことも有るかも知れないけれど……」

 一瞬だったが、岡部の言葉がどもった。その理由は良くわからないけれど、歩は聞き返さなかった。とにかく、十分気を付けないといけない人物だとそう思っていたからである。

「演技の練習は明日からって事だけど、どうする?早めに練習したほうが俺は良いと思うんだけど?」

 岡部は話を切り替えた。

「そうね。でも他のみんなはどうなの?練習出来そう?」

 やるからには、きちんとやり遂げたい思いはある。そういうところは負けず嫌いで中途半端には出来ない。

「二人やるよりは良いよな〜うん。みんな集めてくるよ。ちょっと待ってて!」

 すかさず岡部はクラスの配役に抜擢された者達に声を掛け始めたのである。


 劇の練習は取り敢えず劇の台本から始まった。それぞれの立ち位置で演技の練習も兼ねながら。しかし、歩はトチってばかりで、進行が遅れていく。

 「ねえ〜やはり無理なんじゃない?」

 継母の子がやってられないわと台本を片手に呆れていた。

「まだ始めたばかりだろう!白石さんだってこなれてきたらうまく出来るようになるよ」

 弁護に回る岡部ではあったが、

「始めたばかりって言っても、台本見てるのにトチる?集中力散漫じゃ無い?しかも棒読み出し!」

 歩はその言葉を受けてショックを受けた。自ら進んでやっているわけでないにしろ、真面目にはやっている。それを捕まえてそんな暴言はないだろうとそう思った。でも、何も言い返せない自分が腹立たしい。

「今日はこの辺で止めとこう。明日までに、取り敢えず出来る範囲の台詞を本ありでも出来るようにしておこうか……」

 確かにこのままやっていても前には進まない。夕方遅くまで練習したその最後を岡部は締めくくった。

 

「白石さん。別に気にすることないよ。文化祭まで十分時間は有るからさ!何なら、俺、練習に付き合っても良いし」

 推薦して事を気にしているのか、責任を感じているのか?優しい意言葉を掛けてくる。でも、やはり歩の配役は間違ってないとそう思っているらしい。

「良いよ。何とか頑張ってみるから……」

 学校の校門前で歩が出てくるのを待っていたのか、岡部がひょこっと顔を覗かせてそう言ったのを歩は撥ね退けた。別に恨んでいるわけではないが、付きまとわれるのは面倒だ。

そう感じたからである。

「そう?でももし練習相手が必要だったら気軽に言ってくれよな?俺、付き合うから!」

 岡部は拒否されたにもかかわらず、相変わらず笑顔で言い添えてその場を去った。その笑顔が余りに無邪気だったため、歩は戸惑った。何でそこまで自分に好意的でいられるのか謎だったから……でも、安心できない。ただ歩は何事もなく文化祭が終わることだけを願っていた。

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