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遅い昼食

作者: 竹仲法順

     *

 外は夏空で日差しが強い。その日の午後一時過ぎに街にあるランチ店で食事を取った。遅い昼食である。スタミナが付くよう、肉料理を食べた。元々肉は好きだ。食事の席には奢ってくれた上司の古田がいて、

河井(かわい)、今日も残業してもらうぞ。しっかり栄養補給してくれ」

 と言った。

「はい」

 端的に一言言って頷き、食事を取り続ける。分厚いポークステーキはナイフで切ると、中から肉汁が溢れ出、食欲をそそった。普通にイケる。合間にライスを食べ、飲み物のコーヒーを口にした。古田は先に食事を取り終え、椅子に凭れて息をついている。上司も多分いろんな人間たちを管理するのが大変だろう。社に在籍する社員だけでなく、他社の人間たちとも会食するのだから……。

 正直なところ、目の前の上司のことはあまり好きになれなかった。今まで多数の人間たちと付き合ってきた分、袂を別った人間も大勢いたのだから……。まあ、いつまで自分以外の他人のご機嫌を取り続けるのかは知らないのだが、きっと会食以外の手も多数使うと思う。極力気には掛けないつもりなのだが、過去の動向を見ていると、どうしてもそっちの方に意識が行ってしまう。

     *

 食事を取り終え、コーヒーを飲んでしまった後、それを見計らったように古田が席を立ち、歩き始める。レジで二人分の食事代を清算し、店を出た。外は暑い。折からの酷暑が体力を奪っていく。社へと向かい、歩いていった。四十代後半の古田も歩きながら、時折持っていたハンドタオルで汗を拭いている。八月も半ばを過ぎ、盛夏が晩夏へと移り変わり始める頃だ。

 ちょうど自社ビルの前に着き、そのまま中へ入っていく。五階建てで、街の一等地にあった。普段から見ているのだが、変わらない。思っていた。きっと仕事が山積みだろうと。第二営業部のフロアに入っていくと、見慣れた社員たちが仕事をしていた。部長席に古田が座り、係長の俺も椅子に座ってパソコンに目を落とす。作りかけの資料などもあった。古田が言った通り、残業する羽目になりそうだ。ただでさえ立て込んでいるのだが……。三十代後半で無理が利く。多少なりとも……。

 それから淡々と仕事をこなす。合間に席を立ち、コーヒーを淹れて飲みながら……。社内は時折電話が鳴り、コピー機なども作動していたのだが、案外静かだった。これが自社ビルを持つ社でも、一営業部の実態だ。取引高は多いにしても、その営業の一角を担うに過ぎない部署というと、存外ちっぽけで取るに足りない。

 それにしても久々にポークステーキを食べて栄養が付いたので、バリバリ仕事する。職場には適度なストレスと緊張感があって、ちょうどいい。パソコンのキーを叩きながら、そう思う。仕事が続く。変わらない感じで。

 その日も遅くまで残業し、社を出たのが、午後十時半を回っていた。通りを歩いて一人暮らしの自宅マンションへ帰りながら、夏の夜空を見る。星が瞬き、綺麗だった。まあ、何かと単調なサラリーマン稼業がこれからも続くだろうとは思いながら……。

                            (了)


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