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序. 『人間に戻りたい……』

以前に投稿しておりました『白銀の旅行者、深緑の転生者』の完全リメイク版です。

亀更新ですが、今度は確実に完走致します。

――また、僕はここに戻ってきたみたいだ。


 自分の体以外に目に映るものは何もない。

 見渡す限り真っ白な世界が目の前に広がる。

 否、真っ白ではない。

 文字通りこの場所、この世界には自分の体以外なに一つ存在しないんだ。

 まるで生まれる前の世界のように不完全な空間。

 色も、形も、音も、熱も、光も、命も、死もこの世界には存在し得ない。


 そんな何も存在し得ない虚無の世界にて、少年は1人佇んでいた。



――さて……いるんでしょ?姿を現してよ。


 少年はそう虚空に向かって問いかける。

 と言っても、この世界に音など存在しない為、ただ心中で思うことしか出来ないが、それだけで十分であった。


『"姿を現して"とは、また難しい要望をなされますね』


 少年の問いかけに応えるように、少年の脳内で遠く透き通るような女性の声が響く。

 もちろん、この虚無の世界の中で少年の言葉通りに姿を現すことは出来ない。


――別にこんな時ぐらいしか互いに喋る機会がないんだから、姿を現してっていう表現でも構わないでしょ?


『それはそうですが……姿を現したくても現せられない身としては、少々複雑な気持ちでございます』


 女性は若干苦笑を交えた様子でそう囁く。

 少年も声の主の姿を想像するばかりで、彼女の容姿は初めて会ったその時より停止している。

 そもそもこういった場でない限り言葉を交わすことも出来ない彼女に、もう二度と姿を見ることは出来ないんだろうな。と、昔見た絶世の美女の姿を少年は思い浮かべる。


――ま、それはそれとして。 こうして此処へ来て、また君とお喋りできるってことは……僕はあの後に呆気なく死んじゃったわけだ。


 死んだ……そう呟きながら少年の心に浮かぶのは挫傷や後悔の念とは別に、呆れのようなものが混ざっていた。

 それもそのはず。彼が死ぬのはこれが初めてのことではない。

 普通、生を受けて一回限りの死の運命を、彼はもう数えきれないほど経験している。

 自ら命を絶とうと何度も模索した時期もあったくらいだ。

 それでも彼の身体は一向に死を受け入れはしなかった。


『……やはり後悔していますか?私を取り込み、不死の身体を得てしまったことを』


――んー……いや、あれは僕が選んだ道だし、今更もう後悔なんてしないよ。 後悔することと言ったら…僕がここに来る前の世界、守ると言っときながら彼女を守れなかったことかなぁ。


『いえ、その件でしたら貴方が死に間際に行使した魔法により彼女は無事です。 しかし自身に回復魔法をかけるよりも先に彼女を守る魔法を行使するとは、貴方らしいですね』


 姿が見えれば軽く微笑みながら我が子を見守る母親のような表情でも浮かべていたであろう声の音に、少年は一気に居たたまれない心情になる。


――あー、まぁでもあれだね。死ぬのもだいぶ久しぶりだよね~。こうして話すのもさ。


『えぇそうですね。それほどに彼女が大事だったようで』


――むぅ、約束を守っただけだよ。……その後、戦況はどうなってる?


『予想外の裏切りで自軍はしばらく混乱状態にありましたが、彼女が建て直し貴方の仇も討ってくださいましたよ?』


――そう。じゃあこのまま別世界に移動しよっか。


『戻らなくてよろしいので?』


――いま君が言ったでしょ?"彼女が僕の敵を討った"。なら僕が戻る必要はないし、戻っても死者復活だーとか言って面倒になるだけだよ。 ただでさえ世界に干渉し過ぎでパワーバランス崩しちゃったし、あれ以上やったらあの世界の神様に怒られる。


『……一言良いでしょうか?』


――?


 途端に女性の雰囲気が変わる。

 言葉で表すなら微笑を浮かべていた母親の表情から少し叱りつけるような母親の表情。……結果母親であることに変わりはないのだが。


『貴方に怒ることの出来る神様なんて恐らく存在しません』


――……いや、流石にそれは言い過ぎじゃない? 人っ子一人怒れないんじゃ神様失格だよ?


『それは貴方以外は神様ではないということですか? 正直貴方を人間だと思っている神様なんてこの世に存在しないですよ?』


――……生まれたばかりの神様なら、


『それは暗に新しく生まれる神様以外には人間じゃないと思われていると自覚しているのですね?』


――ぐぅ………


 そう言われた少年は文字通りぐぅの音しか出なかった。

 少年としてもそう言われるだけの自覚があり、言い返すことが出来ないのだ。

 事実、今こうして言葉を交わしている女性も元はそれなりに神格のある女神であるのだが、少年に神としての身を捧げている。

 まず女性よりも神格が低い神は彼に逆らう権限すら持たないのだ。


 神は己より神格の勝る神に逆らうことは出来ない。


 それが神の間に定められた絶対不変の掟であり、少年に逆らうことのできる神がいない根拠であった。



『勿論、貴方より格上の神なんてまず居ないですからね? 私含め、5柱の神をその身に宿す貴方に勝る神となれば、神々の王ぐらいでしょう』


 そう続ける彼女の言葉に、少年はますます重い頭を抱えだした。



「はぁ…人間に戻りたい……」



 そんな少年の呟きは誰にも届かず、少年はこの世界から姿を消す。

 もう普通の人間としては遥かに桁違いの年代を生きる彼だが、いつまでも少年としての心を忘れないよう、また異世界へと旅を続ける。

 次はどんな世界が待ち受けるのか、それは神である彼自身も分からない。

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