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エピローグ

 ドカドカと、騒々しい無遠慮な足音が近づいてきた。


「俺たちに歯向かおうとしたバカがここにいるって?」


 ぎゃははという笑い声が聞こえた。扉が開き、盗賊が七人入ってきた。その中には八年ぶりに見た顔もある。


「お姉ちゃん!」


 幼女が叫んだ。一番奥にいる盗賊のかたわらに、首に鎖をつけられた半裸の少女が立っていた。俯いていた少女は、幼女の声を聞きパッと顔を上げた。


「マリア!?」


 悲痛な声だった。腫れ上がった少女の頬に涙が流れた。


「ぎゃはは」


 男たちはその声を聞いて下品な声で笑った。


「やめて! 約束でしょ! 私があなた達の言いなりになれば妹たちには手を出さないって!」

「約束したが、その子が俺たちに歯向かったのなら仕方ねぇよな」

「人でなし! 妹はまだ十歳なのよ!」

「そりゃいい、食べごろだ」


 再び男たちはぎゃははと笑った。


「楽しんでいるようだな、藤原直人ふじわらなおと


 俺は一番奥の、少女につないである鎖を持って、ニタニタと笑っている盗賊に声をかけた。


「あん? お前は……まさか椀党か?」

「そうだ、八年ぶりだな」


 その盗賊、ナオトは驚いた様子でポケットに手を突っ込んだ。


「まさかお前が俺を殺しに来た冒険者だったとは。まっ、俺が首領とは知らなかったんだろうがな。お前の

無能チートじゃ、俺には勝てないことくらいお前にも分かっているだろう」

「さあな」

「ざまあねえな、俺は無敵のスーパーマン、お前はそこらへんにいる雑魚どもにすら勝てず縄で縛られて殺されるのを待つばかり。同情するぜ、変わった名字を持つと大変だな」

「無敵のスーパーマンね……」


 幼女と男が驚いたように俺を見た。


「俺も異能者だよ、こいつと同じようにな。こいつは昔の仲間だ」

「あ、あんたも異能者だったのか! 俺たちを騙していたんだな!」


 男が叫んだ。俺は首を横に振った。


「だったらここで縄に繋がれていないさ」

「違いねぇ」


 ナオトが笑った。


「なあ椀党、昔のよしみだ、俺の手下になるか? 金も酒も女も、おこぼれくらいはくれてやるぜ。お前の無能チートは荷物運びにちょうどいい」

「俺が? お前の手下?」

「ああそうだ、お前と違って俺は無敵だ。俺に勝てるやつはいねぇ。つまり何をしても許されるってことだ」

「だからお前はこの世界に残ったのか? 元の世界に戻れることは魔王が死んだあの日に伝わったはずだろ?」

「元の世界に戻れば、俺はただのハンパな不良ヤンキーだ。それが、この世界じゃ無敵のチート持ち。戻るわけ無いだろ?」


 元の世界に戻ればチート能力は失われる。そういう話だった。


「さ、言えよ、ナオト様の手下にしてくださいってな。ぎゃはは」


 ナオトが鎖をじゃらりと鳴らした。びくりと少女の肩が震えた。


「そうだ、入団祝いにお前にもこいつを使わせてやってもいいぜ?」


 そろそろ……限界だった。


「途中で逃げ出したヤツが生意気言ってンじゃねぇよ」



「縄が消えた!?」


 盗賊の一人が叫んだ。俺が縛っている縄を胸の中に収納したのだ。周囲からは縄が消えたように見えたのだろう。

 続けて、俺は両手の内側からリボルバー拳銃を一丁、それぞれ取り出し握る。


「くらいやがれ」


 二丁の拳銃を乱射する。


「ぐえ!?」 「ぎゃっ!」 「うぎゃ!」


 六人の盗賊が倒れた、何度も訓練した動きは放たれた弾丸を間違うこと無く、盗賊の顔面に叩き込み即死させた。だが。


「ちっ」


 俺は砕けた右手の銃を捨てた。倒れなかった一人……ナオトが笑う。ポケットから抜かれた右手が何かを弾いたような形になっていた。


「そんなオモチャで俺が殺せるかよ」


 俺は左手に残った三発の銃弾を続けざまに撃ち込んだ。


「遅せぇ!」


 バリンと金属製の拳銃が弾け、粉々に砕けた。正確に三発撃ち込んだはずなのに、ナオトは傷ひとつなく平然としている。


「俺のチートは<指で弾いたものを音速で飛ばすチート>。そのエネルギーは現代のライフル弾すら比較にならない。さらに俺のチートはそれだけじゃない」


 自慢気にナオトは続ける。


「音速弾を制御するため、俺は音速弾を視認できるほどの動体視力を身につけている。矢でも鉄砲でも100%撃ち落とせる」

「…………」

「ぐうの音も出ないか? これが俺の無敵能力チートだ、お前の無能チートとは違う。遠距離攻撃は迎撃でき、近接攻撃は近づく前に弾丸で殺せる。まさに無敵」


 大げさな仕草でナオトは言う。


「それならそこに倒れているお仲間も助けてやれば良かったじゃないか」

「仲間……? ああこいつらね、別に仲間じゃねえよ、ただの手下だ。なあに、俺のチートがあれば手下なんかいくらでも集まる」

「チート、チートうるさいやつだ、魔王討伐から逃げた癖に」


 ナオトの笑いが止まった。屈辱で表情がゆがんでいる。


「黙れ無能者。てめぇだって逃げたんじゃねぇか」

「違う、俺は逃げていない」

「は?」

「俺は撤退しただけだ、魔王を倒すことから逃げたんじゃない」

「……何を言ってやがる」


 ナオトは苛ついている。何が無敵のチートだ、あいつは自分より弱い相手に力を振り回しているだけだ。


「八年かけた……そう八年もかけたが、俺は魔王を倒したぞ」

「嘘を言うな! お前みたいな無能があの怖ろしい魔王と戦えるものか! 俺にすら勝てないようなクズがテキトーなこと言うんじゃねえ!」

「なら試してみるか」


 俺は再び拳銃を取り出した。


「どちらが先に相手に当てるか……そういう勝負だ」

「馬鹿かテメェ、俺のチートに勝てるわけねえだろ」


 俺はフンと鼻で笑った。左手から銀貨を一枚取り出し、指で弾いた。


「落ちたら開始だ」

「さっきまではわざと銃だけ狙って外してやってたんだ、次は当てるぞ」

「それができればな」


 クルクルと空中で回転していた銀貨が力を失い落下する。

 チャリンと音を立てて銀貨は地面に落ちた。

 ナオトのチートは高速かつ正確だ。俺が銃を構える間に十発もの鉄弾が俺の身体に叩きこまれた。


「なっ!?」


 勝利を確信していたナオトの表情が驚愕、そして恐怖でくずれた。俺が倒れるどころか傷ついた様子すらなかったからだ。

 ズドンという銃声とともに、ほとんど一発にしか銃声が聞こえないほどの速度で六発の弾丸が叩き込まれるが、ナオトはそれらをすべて撃ち落とした。

 だが……俺はすぐさま手にした拳銃を手の中に収納し、弾丸が装填された新しい拳銃へと入れ替えた。


「ひっ!?」


 ナオトのチートは正確無比な攻撃を与えてくれるが弾は手の中にある鉄弾の数だけだ。それに対して俺の弾は数え切れないほどにある。そして。


「俺のチートは<身体が小物入れになるチート>。俺に接触したものはどんなものであれ収納することができる。それが例え音速で飛来する弾丸だとしてもな」

「そ、そんな……それじゃあどんな攻撃も効かねえってことじゃねぇか……それじゃあ……本当に無敵……」

「最初から言ってるだろうが。チートだって」


 そしてついに銃弾がナオトの胸を貫き、奴の着ていた服を赤く染めた。


「この世界は十分に楽しんだか?」


 俺は倒れているナオトに声をかけた。ナオトは口からかふっと血の混じった咳をした。


「魔王さえ倒れれば、この世界は平和になる。そう俺は信じた。だが違った、魔王に匹敵するだけの力を持ちながら、魔王のように統治者にならず、自分勝手にこの世界を食い物にするやつらが残ったからだ。魔王と違って、俺たちは努力してチートを得たわけじゃないからな、余計にたちが悪い。だから俺は責任を果たさなくてはいけない、魔王を倒した責任を」

「た、助けてくれ、お前の手下になるから……」

「手下なんてチートがあればいくらでも集まるんだろ?」


 俺は六発すべて、ナオトの頭に叩き込んだ。


 俺は死んだナオトを外へ放り出した。銃声を聞き、集まってきた盗賊たちの前でナオトを死体を踏みつける。


「お前たちの首領は見ての通りだ、降伏しろ」


 ナオトのチートを頼りにしていた盗賊どもが降伏するのに時間はかからなかった。


 こうして、村を襲っていた盗賊どもは壊滅した。やつらをどうするかは村の連中に任せればいいだろう。


 事が終わったら長居は無用だ。俺は死体からカギを取り出すと、幼女に向かって投げた。


「ほれ、これでその子の鎖は取れるはずだ。あとのことは俺みたいな無能にはできない仕事だ、任せる」


 放心状態の少女のもとに幼女が駆け寄った。彼女が受けた傷は俺には治すことはできない。


「カズマ……あんた異能者だったのか」


 男が俺を見て言った。その声はかすかに震えている。異能者がこの世界でどう思われているか、俺だってよく知っている。そうなったのは他ならぬ俺のせいなのだから。


「黙っていて悪かったな、すぐに出て行くから」


 集まってきた村人たちは怯えた表情を隠さずに、俺を遠巻きに見ていた。誰だって人を簡単に殺せる化け物を前にしたらこういう反応をするだろう。


「何言ってんだ!」


 男が俺の元に近寄り手をとった。


「カズマは村を救ってくれた恩人だ、すぐに出て行くなんて言わないでくれ」

「そうです、お姉ちゃんが泣いてた時、カズマさんすごく怒ってくれてました」


 幼女もそう言って、俺の元に駆け寄ってきた。


「気持ちは嬉しいが……」


 俺はちらりと村人たちを見た。視線が合うと村人たちはびくりと肩を震わせ逃げ出した。


「見ての通りだ、俺がいると面倒なことになりそうだ」

「あんな臆病者たちなんて放っておけばいいじゃないか」

「臆病者なんかじゃないさ、あれが普通なのさ」


 二人はそれでも納得できないような表情をしていた。


 俺にはそれで十分だ。


「ええっと、ジョンとマリアだったな。これで依頼は完了だ、また何かあったら相談にのるぜ」

「名前、憶えていてくれてたんですね」


 ジョンとマリアは意外だという顔をした。俺が二人の名前を呼んだのはこれが初めてだ。

 異能者だと知られた時に態度が変わるのが嫌だから、親しみを持たないように名前で呼ばないなんてカッコ悪い理由、言えないよな。


 そして俺は……


「ほら起きるんだよ! いつまでも寝ていないで手伝っておくれ!」


 今日も恋人ハンナに蹴飛ばされ、仲間ボンクラに笑われる日常に戻り、そしてこの愛すべき世界を守ろうと再び決意するのだった。

 二日酔いに悩みながら。

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