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子連れ妖弧☆お護ります!  作者: ゆいまる
一章 物ノ怪村の掟
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涙の中の笑顔たち





「一体どういう事!?三つ目入道ッ!」

 村長らが帰ったのを確認した妖弧は三つ目入道にすごい剣幕詰め寄った。

「おおお落ち着け!妖弧!なっ?」

 三つ目入道が大吾に上手く細工をしてくれたおかげで村の皆を誤魔化せたのはありがたいが、皆が去った後になっても尚も三つ目入道の後ろにしがみ付いている大吾がなんか気に食わない。

「ふんっ!落ち着いてるわよ!」

 妖弧は腕を組むと鼻を鳴らしそっぽを向いた。

 しかし、やはり大吾が気になる妖弧はチラッチラッと横目で見る。

「妖弧…」

 三つ目入道は、はぁ~っとため息を吐いてやれやれと首を横に振った。

「お前さんなぁ、そろそろその場の勢いで行動するのは止めて後先を考えてくれよ」

「別に…勢いじゃ、ないもん…」

 再度、三つ目入道がため息を吐く。

「オレもなぁ、いつものじゃじゃ馬っぷりくらいなら可愛い内と思って目を(つむ)って来たけどよ。今度ばっかりは目を瞑れねぇ。

 妖弧…お前さん、人間をペットかなんかと勘違いしてやしねえか?」

「そっ、そんな事ないッッ!!」

 妖弧は三つ目入道の言い草が胸に突き刺さった。

 拳を握り締め、ワナワナと震わせながら涙目で三つ目入道を睨み付けた。

「だったら、ちゃんと理由(わけ)を聞かせてくれねえか?」

「……。」

 妖弧は(うつむ)き押し黙った。

「妖弧、オレとお前は確かに違う種族の妖怪だ。格だって違いすぎる。この国の頂点に数えられる大妖怪の1人の末裔(まつえい)であるお前さんと、戦で焼け落ちた寺の住職の無念から生まれたオレとじゃ並び立つのはおろか口を聞いてもらうのもおこがましいのは分かってる…」

「違う…私は三つ目入道の事をそんな風になんか思ってないッ」

 俯いたまま、妖弧はそう叫んだ。

 そんな妖弧を見て、三つ目入道は優しく微笑んだ。

「そうだ。オレだってお前さんを一人の妖怪、"妖弧"として見てる。いつだってお前さんの味方だ。

 しかしな、ちゃんと事情を話してくれないとフォロー出来ないだろ?」

「で、でも、三つ目入道を巻き込んだら、迷惑が掛かる…」

 三つ目入道はゆっくりと妖弧に歩み寄って、ゴツゴツとした大きな手で妖弧の頭を優しく撫でた。

「オレたちは家族だろ?迷惑掛けろよ」

 その瞬間、妖弧の胸の内を熱い何かが走った。

 バッと見上げた三つ目入道の顔がキラキラ光って歪んだ。

 ポロポロと大粒の涙が頬から流れ落ち、鼻からも粘度の無い液体が大量に零れ落ちた。

「ふぇぇえええええええええええええええええええぇッ!!」

 遂に胸の内で堪えていた感情が爆発した。

 妖弧は初めて三つ目入道に泣き顔を見せた。

 小さな子供が親の前でしか見せない泣き顔を、本当の親や姉達にさえも見せた事ない泣き顔を。

 そして、妖弧自身生まれて初めて大声を出して泣いていた。

 泣きじゃくる妖弧のお腹に突然小さくて暖かいものが抱きついて来た。

 小さな小さな手が懸命に背伸びをし、妖弧の背中の服をぎゅうぅっと握り締めた。

 妖弧が俯くと歪んだ視界の向こうに黒く大きな瞳がうっすらと見える。

 ぽたぽたとその頬に大粒の涙が零れ落ちてゆく。

 涙が頬にあたる度にまばたきをするが、その黒い瞳は妖弧から決して外そうとはしなかった。

 妖弧は小さな大吾をぎゅっと抱きしめた。

 抱きしめ、再び声を上げて泣いた。




 しばらくの間泣いて、落ち着いて来た妖弧は居間に座布団を三人分敷いて座った。

 妖弧のすぐ隣りには大吾がちょこんと座り、向かいには三つ目入道がどっしりと胡坐(あぐら)をかいて座った。

 そして、妖弧は三つ目入道に今までの経緯を話し始めた。

 吉田の老夫婦を始め、今は亡き農村の人々との出来事。

 三つ目入道は妖弧の一言一言全部を静かに黙って聞いていた。

 そして最期に、大きな恩を受けた村の最期の生き残りだった大吾をどうしても見捨てられなかった事を話し終えてから妖弧は言葉と止めた。

 しばしの沈黙。

 先に三つ目入道が口を開いた。

「事情は分かった。しかし妖弧、この先大吾をどうするつもりだ?

 さっきも言ったが人間はペットじゃねぇ。この村にいつまでも置いておける訳でもねぇし、なによりも…」


『なによりも…』三つ目入道はそこで言葉を止めたが、妖弧にはその先言わんとしてる事が分かった。

 人と妖怪が一緒に居ると"あの連中"が必ず動き出す。

 かつて、偉大な大妖怪だった妖弧のご先祖様…『九尾弧様』を倒した"陰陽師連"が…。

 そういった理由から九尾弧の一族と人間とは仇敵の間柄である。

 もちろん妖弧自身も幼少の折、御家時代での英才教育の中で散々叩き込まれた事だった。

『人間は忌むべき存在。人と幻妖弧は決して相容れない関係である』と。

 御家を飛び出し、この村に来て初めて本物の人間と対峙した時は恐怖した妖弧だった。

 中々人前に出られない妖弧が転々としていた時に行き着いた先があの農村だった。

 森の中で一人泣いていた童を見つけた妖弧は気が動転し、人間に化けるのも忘れて背に背負って童の親を探し回ってしまった。

 やっとの思いで童の両親を見つけ引渡し安堵した所で妖弧は周囲の人間の視線に気付いた。

 沈黙の中に妖弧があわあわしていると、農村民は一斉に笑い出した。

「こりゃあ~ドジな狐様じゃのう!」

 そう言って村の人達は笑い、妖弧は顔全部を真っ赤になって俯いた。

 すると、村の子供達が妖弧の耳や尻尾が珍しく集まって来たかと思ったらあっという間に揉みくちゃにされ、てんてこ舞になってしまった。

 教えられてた事と実際に接した人間との印象がだいぶに食い違っていた事に初めは困惑した妖弧だった。

 しかし、妖弧自身が気付いた時には妖弧も童達も農村民の人達も皆笑っていた。

 夜の山間(やまあい)を赤々と、揺ら揺らと、残酷に照らすまでは確かにお互いが笑って暮らせていた。

 妖弧は隣りに座る大吾を見た。

 言葉を失った小さな男の子は伏し目のまま静座していた。

 チクリと小さな痛みが妖弧の胸の真ん中を刺す。

 妖弧は大吾の小さなその手を握る。

「大吾は…」

 妖弧は静かに声を絞り出す。

「大吾は一人前になるまで私が護ります。人間と、妖怪…両方から」

 その壮大な言葉に三つ目入道は三っつの目を大きく見開き驚いた。

 何かを言おうとした三つ目入道だったが、大吾を見つめる妖弧の表情を見てその言葉を飲み込んだ。

 そして、三つ目入道は豪快に自分の膝を叩いた。

「よしっ!わぁーーーった!オレも最後まで付き合うぜッ!!」

 今度は妖弧が驚きで目を見開いた。

「本気!?三つ目入道までこんな危ない橋渡らなくても良いんだよ?」

「水臭せぇ!水臭せぇッ!オレ達は家族だ!そして、今日からは大吾もウチの家族だからなッ!オレ達の絆は一蓮托生だぜいッ」

 三つ目入道はいつものノリでガッハッハと笑った。

「馬鹿だね、あんたは…」

 妖弧は小さく呟いた。

「あん?なんか言ったか?ガッハッハ!」

「ううん、なんでもないよ。ありがとうッ三つ目入道!」

 妖弧はガバッと三つ目入道に抱きついた。

 妖弧に続いて、大吾も三つ目入道に抱きついて来た。

「おうおうッ!おりゃあモテモテだなぁ~!ガッハハハハ!」

阿呆(あほう)ッ!ちょーし乗んな!」

 妖弧はツルツルの三つ目入道の頭をペシンっと叩いた。

 それからしばらく、今度は笑い声が続いた。


「さて、それじゃあ大吾を連れて村長の屋敷に行くかい。大吾の入魂箪を戴かなくちゃな!」

「そうね。村の一員として認めてもらわなきゃね」

「その前に、妖弧は顔洗って鼻水を洗い落としてきな」

「うっ、うっさいわね!せめて涙って言ってよ!デリカシー無いわねッ」

 そう言って赤面しながら妖弧は風呂場へと駆けて行った。






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