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子連れ妖弧☆お護ります!  作者: ゆいまる
一章 物ノ怪村の掟
3/7

我が家へようこそ!





 (ほこら)のゲートを潜って妖怪村の門まで来た妖弧はそそくさと大岩の影に隠れた。

「他の奴等に見つかると厄介だから絶対声出すなよ?」

 妖弧が男の子に言うと、男の子はコクリと静かに頷いた。

「よし!」

 そして妖弧は男の子を二人羽織りの要領で浴衣の後ろに隠した。

 異様に盛り上がる背中に注意を払いながら妖弧は村はずれの自分の家へと向かった。

 通りを様々な妖怪が行き来している。

 妖弧は柱の影からピョコっと顔を出して辺りを(うかが)うとササササーっと次の物陰まで走り抜けた。

 往来の多い通りを抜け、人通り…ではまく、妖怪通りが少なくなった通りまで来て妖弧は一息入れる。

「よし!あの角を曲がれば家まですぐだ!」

(周囲に妖影無し!)

 妖弧は深呼吸ひとつすると一気に角まで走った。

 が、しかし…。

「よう!妖弧」

 ぎっくぅうううううッ!?

 妖弧が慌てて振り返ると、そこには片手を上げてにこやかに笑う三つ目入道が居た。

「みみみみ三つ目入道ッ!?どうしてここにぃ?!」

 妖弧は背中の膨らみを必死に隠しながら後ずさりする。

「ん?いやぁ、表の通りをコソコソと走り抜けるお前さんを見かけたから追いかけて来たんだよ」

(コソコソしてると分かっているなら是非とも空気を読んでそっとして欲しかったよ!)

 妖弧は心の中で願望的突っ込みを入れた。

「ん?」

 三つ目入道はアゴに手を添え怪訝そうな顔で妖弧を見つめた。

「んん~~?」

 そして、ずずいっと三つ目入道の顔が近づいてくる。

「なっなにかしらぁ~?」

 引きつった笑いを浮かべながら妖弧は更に後ずさりする。

「妖弧、お前さん…何か隠してるな?」

 ぎくぎっくぅうううううッ!?

 三つ目入道は妖弧に向かってクンクンと鼻息を吸った。

「妖弧、お前人間臭いのう」

 三つ目入道は更に、ジリジリと詰め寄ってくる。

「妖弧、そこになにを隠してる?」

 三つ目入道が妖弧の背中に意識を移す。

「なっなにも、隠してないって!」

 妖弧は必死に尻尾を伸ばし背中の膨らみを隠そうとした。

「怪しい…怪しいのう…」

 尚もにじり寄ってくる三つ目入道。

 妖弧もそれに合わせてジリジリと後ずさり、そして背中から柱にぶつかってしまった。


 チリン…


 妖弧の背中で男の子の持つ鈴が鳴り響く。

(やっやばい!!)

 妖弧の心臓が飛び跳ねた。

「んん~~~?今の音…妖弧…」

(もう駄目かぁ~~~~ッッ)

 妖弧は背中をかばいながら両目を閉ざした。

「クックック…がっはっはははは!」

 突然、三つ目入道が大笑いを始めた。

「妖弧、お前さんまぁた念を込めるの失敗したなぁ?」

「へっ?」

 妖弧はキョトンと目を見開いた。

「お前さんの事だ、脅かそうとしても人間に懐かれでもしてるんだろぉ?こんなに人間臭いのに念を取れてないのが良い証拠だ!」

 三つ目入道は大笑いしながらバシバシと妖弧の肩を叩いた。

「痛ッ、痛いッ、痛いッ!」

 容赦ない三つ目入道の(はた)きに妖弧は涙目で痛みを訴える。

「それに、ホレ!口元」

 三つ目入道は妖弧の口元に付いたきな粉を指差した。

「人間に餌付けされるなんてお前さんらしいじゃないか!がっはっは」

「あうあうっ」

 妖弧は図星を突かれ言い返す事が出来なかった。

「しかし、妖弧よ。気を付けなよ?」

 突如、三つ目入道の顔が真顔へと変わる。

「今の人間の世界は戦乱の世だ。人間と仲良くなってもいずれその村は戦乱の火の粉に巻き込まれ滅びる。

 人間は村が滅びたのは妖怪のせいで、全ての凶兆が妖怪だと言い出すだろう。

 そうすると、辛い思いするのはお前さんだ。

 そこの所をよく考えながら付き合うんだぞ?

 決して、人間の恨みを買わぬようにな」

 三つ目入道は(さと)す様に妖弧に話した。

「ええ。よく…わかってるわ」

 妖弧も頷く。

 人間の恨みを買う事が妖怪にとってどういう意味を持つのか、妖弧自身重々承知していた。

 かの大妖怪、九尾弧さまも人間の恨みを買い陰陽師を筆頭とした大軍勢によって滅ぼされた。

 その末裔(まつえい)たる妖弧が分からない筈がなかった。

 妖弧が背にしている者は妖怪にとって災いなのだ。

 それでも、妖弧は放っとけなかった。

「さて、これから夜勤組が出発する頃だが。妖弧はお疲れみたいだな。帰ってゆっくり休むといい」

 いつもの調子に戻った三つ目入道が妖弧の浮かない顔を察し休養を促す。

「そ、そうね。そうするわ」

 ハッと我に帰った妖弧は三つ目入道の提言を受け入れる事にした。

 と言うか、早く誤魔化して男の子を家に(かくま)わないといけない。

「うむ。それじゃあな、妖弧」

 そう言うと、三つ目入道はのっしのっしと村の門の方へと歩いていった。

「ふぅううううううううう…」

 緊張の糸が切れ一息()くもつかの間、妖弧は再び周囲を超高速で見回し急いで家へと駆けて行った。





 ガラガラ、バタンッ!ガタゴトガタゴトッ

 家の玄関に入るや否や、妖弧はすぐさま戸を閉め厳重に鍵を掛けた。

「とりあえず、これで一安心だわ」

 妖弧は部屋の四隅にある蝋を狐火で灯してから、背中の男の子を下ろした。

 男の子は不思議そうに部屋の中を見渡していた。

「まぁ、良い所じゃなくてすまないね。なにぶん一人暮らしなんでこれくらいが丁度良いのよね」

 玄関から入ると少し広めの一間に箪笥(たんす)と小さな机、奥には仕切りがあり敷きっぱなしにしている万年布団が見える。

 小さな机の横には大きな本棚があり、棚一杯に書物の類が入れられていた。

 元、英才教育を受けていた名残で妖弧はなかなかの読書家であった。

 居間の横には襖があり、襖の向こうが風呂場となってる。

 トイレはその風呂場の勝手口から家の裏手に出た所にある。

 妖弧は興味深く家の中を見回す男の子の頭を撫でた。

「約束通り、声を上げずに偉かったわね。まずは自己紹介しましょう」

 妖弧が言うと男の子はコクンと頷いた。

「私の名は妖弧、狐の(あやかし)よ。童の名は?」

 妖弧が男の子に名を尋ねると、男の子は口を開く…が、

「…、……、」

「?」

 必死に喉を押さえ口をパクパク動かす素振りを見せるが、男の子はまったく声が出ないでいるようだ。

「父と母の事は覚えている?」

 妖弧が男の子に尋ねるとコクンと頷く。

「父と母の名は言える?」

 すると、男の子の口はすぐ開くが、

「……、……。」

 またも声が出せない。

「記憶障害という訳では無いわね。これは…」

 男の子の記憶ははっきりしている様だ。

 そして、両親の名前もすぐに答えようとしてるという事は言葉の受け答えはちゃんと出来るという事だ。

 残る可能性は…

「失語症…」

 村人や両親の死を目の当たりにしたショックで言葉が発せられなくなったのだろう。

 こんな年端もいかない童には残酷過ぎる出来事だ。

「しかし、困ったわね。いつまでも童と呼ぶ訳にもいかないし…」

 妖弧が悩んでいると、男の子が妖弧の裾をクイックイッと引っ張った。

「ん?」

 妖弧が男の子を見ると、机の方を指差している。

 そこには置きっぱなしにしていた墨と筆、紙が置いてあった。

「童、文字が書けるのか?」

 男の子はコクンと頷いた。

「へぇ、あんな山間にある小さな農村で言葉の読み書きを教えていたとは驚いたわ」

 妖弧は驚き感心した後、男の子を机の前まで案内した。

 男の子は筆を取ると、先を墨で湿らせて紙に文字を書いていく。

『大・吾』

「ダイゴ?」

 妖弧が問うと男の子はコクンと頷いた。

「そうか!大吾か!よろしくな」

 妖弧はニッコリ笑い大吾の頭を再び撫でた。

 すると、大吾も妖弧の顔を見上げニコッと笑った。

 そんな大吾の反応が嬉しくて妖弧は大吾を抱きしめる。

「辛かったね。でも、私が大吾を護ってあげるからね」

 妖弧は大吾を抱きしめホロリと涙を流した。

 すると、大吾が妖弧の頭をナデナデと撫でたのだ。

「ふえっ!?」

 妖弧はビックリして狐の耳と尻尾がピンと逆立ってしまった。

 妖弧が大吾の頭を頻繁に撫でるもんだから、もう覚えてしまったのだろう。

 まだ虚ろさが残る瞳で妖弧を見上げ、一生懸命に頭を撫でて来ている。

 妖弧はフフッと笑い立ち上がった。

「さってっと…」

 妖弧が伸びをしてから大吾へと振り向く。

「う~~~ん…」

 妖弧は大吾の姿をじっくりと見た。

 大吾が着ている絣模様(かすりもよう)の着物は汚れと母親の血らしき血痕で汚れていた。

 足や腕もすり傷が目立ち、顔も髪もくしゃくしゃに汚れている。

「それじゃあ、一緒にお風呂に入るわよ!」

 そう言って妖弧は居間の襖を開け、大吾を風呂場へと連れて入った。






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