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第3話 結末?

 あれから数ヶ月。



 今ここは、東京某所の高層ビルの最上階にある高級レストラン。

 五籐列砂ごとうれっささん――外資系の会社にお勤めだとか。

 奥さんとは離婚されて、今は八歳になる息子の〔ラスカル〕くんと二人?暮らしなんだそうで。

 外資系の会社にはどう入社したんだとか……奥さんもレッサーパンダだったのか、とか。

 どうしてお父さんが〔列砂れっさ〕なのに、息子が〔ラスカル〕なんだとか。

 それより。どうして普通にレッサーパンダがここにいるのよ!!とか。



 私の悩みは増えていくばっかりなのに。

 どうして訊けないのだろうと思う……。



「かおるさんはいつも忙しそうなので、今日もお誘いするのが怖かったんですよ」

 そう言って笑う五籐さん。これがこの方の〔笑顔〕なんだとなんとか理解できていた。

「忙しくはないんですけど、販売の仕事だと平日にお休みはなかなか取れなくて。

 本当にすみません……」

 なれない雰囲気に、言葉も妙に改まってしまう。

「無理を言いまして、こちらこそ申し訳ないですね」

「いいんです。それよりこんなところに連れてきてくださって、こちらこそ申し訳ないんですけど……」

 正装しないと入れないような場所だもの。

 かすかな記憶しかないテーブルマナーがこれでいいのか心配で、味もまともに感じられないが……。



「本当にかおるさんは素直で面白い方ですね」

 いつの間にか、五籐さんの私の呼び方が〔かおる〕さんになってるんだよね。

 うーん。まぁ……いいんだけど。

「あなたはいつも分け隔てなく、私や息子のラスカルに接してくださる」

 私は口に入れた牛肉を吐き出しそうになるのをなんとか堪える。

 息子さんの名前。なんとかならないかなぁ……。

「わ……わけへだて……てっ」

 どういう意味なんでしょうか?

 五籐さんは少し憂い?の表情で私を見た。

 こんな微妙な変化がわかるようになっただけでも、私ってばすごい?とか思っちゃうよ。

「……今日、私はあなたにお伝えしなければならないことがあります」

「な……なんですか?」

 え?なに!?すごく怖いんですけど。



「実は私は……レッサーパンダなのです」



「……はい」

 どう……反応すればいいんだろう?

「良かった。わかってくださっていたのですね」

 見ればわかります、と言っていいのかな。この場合。

 なんだか、もう食事どころじゃないんですけど。

「こうしてレッサーパンダであることをわかっても、あなたは変わらずに私たち親子と付き合ってくださっていたのですね……」

 もう、どう言っていいかわからないよぉ。

 こういうときに、どう言えばいいのっ!?

 わからないよぉぉっ!!誰か助けてっ!!

「誰も私たちをレッサーパンダとしては見てくれないのです。

 ですがあなたはそう見てくれていた。それだけでも、私にとっては大きな収穫でした」

 どう見られたかったのだろう……?

 あ。レッサーパンダとして見て欲しかったのか。でも、どう「扱われたかった」のだろう?わからない。

「さ、せっかくの食事が冷めてしまわないうちに食べてしまいましょう」

 五籐さん。私、食事どころじゃないんですけど。

「そ……そうですね」

 とりあえず返事だけはして。私はそんな疑問で頭がいっぱいになりながら、目の前の美味しいだろう食事も味わうこともできずに、過ごすこととなった。



◆◆◆



 五籐さんは帰りはタクシーで、私たちの住むマンションまで送ってくれた。

 どれだけ金持ってんのよと無粋なことを考えてしまうが、ちゃんと私の部屋の前までエスコートしてくれる。こういうところがとっても紳士的。

 レッサーパンダなんだけど……。



「今日は本当にありがとうございました。

 こんなことまでしてもらうようなことなんて私してないのに……」

「いいえ。かおるさんは十分に私たちにしてくださってます。

 明日もかおるさんの元気な笑顔を見られると思えば、こんなことぐらい何でもありませんよ」

 あー。どうしてこの人?レッサーパンダなんだぁっ!?

 歯が浮くようなセリフだけど、それなりにお金持ってそうだし、優しいし、紳士的だし、センスも悪くないし、まぁ、バツイチだけど大人の男性って感じで、包容力もありそうだし。ただレッサーパンダというだけなんだよなぁ。



 五籐さんとあいさつを交わして部屋に入ろうとしたとき。

「……あれ?ドアが……」

 鍵をかけたはずなのに。開いてる。

「……どうしました、かおるさん?」

 五籐さんが私の仕草を変に感じたのか、声をかけてくれた。

「あ、ちゃんと鍵をかけたはずなんですけど……」

「ちょっと見せてください」

 五籐さんが私の部屋のドアの鍵穴を覗く。ここはまだ古いタイプの鍵なんだよね。

「……こじ開けられているあとがある。

 かおるさんはここにいてください」

「え?大丈夫なんですか?」

「警察を呼んでください。私はとりあえず中を見てきます」

「……五籐さん……」

「大丈夫ですよ」

 笑顔を残して、五籐さんが私の部屋へとゆっくりと入っていく。 

 中は薄暗い。

 五籐さんは見えるんだろうか?

 と。こんなことを気にしている場合じゃない。

 とにかく警察を呼ばないと。



「……そうなんです。帰ったら鍵が開いていて。

 知人に見てもらったら、こじ開けられてあとがあるって。

 はい。ここの住所ですか?埼玉県……」

 私が携帯から警察に連絡して、会話を進めていたときだった。

 中から何かが割れる音がして、その後も、どかんとか、がしゃんとか、何かが争っているような音がしている。五籐さん、大丈夫なのっ!?

 私は慌てて部屋中の電気をつけて、音がした部屋の方へと向かった。



「五籐さんっ!!」

「すみません、お騒がせして」

 私が駆けつけた時。五籐さんはひとりの男の腕を掴み、床に押さえつけていた。



「警察には連絡してくれましたか?」

「……あ、あぁ、はい。しました。すぐ来てくれるそうです」

「それはよかった。それから縄みたいなものがありますか?」

「あ……洗濯ひもが」

「それでいいです。お願いします」

 五籐さんは私にテキパキと指示を出してくれた。私は呆然とそれに従い、五籐さんにひもを渡して。

 そして手馴れた手つきで私の部屋にいた不審者を縛り上げていく。

「……なれているんですね……」

「若い頃は好奇心だけが強くて。お金もないのに世界中を旅しました。

 こんな危ない目にはずいぶんと合いましたが。そのおかげで、変な経験だけはあるんですよ」

 少し苦笑い?の五籐さん。

 若い頃に世界中を旅したって。世界中を旅したレッサーパンダって……?

「でもその経験のおかげで……私は五籐さんに守ってもらえましたから……」

「それなら、嬉しいですが」

 これは苦笑いじゃない、いつもの五籐さんの笑顔。 

 これがレッサーパンダじゃなかったらなぁぁ。



◆◆◆



 数分後に警察が来てくれた。

 不審者が突き出されて、警察の人も五籐さんの武勇に感心していたけど。

 でも誰一人、レッサーパンダなところは突っ込まない。



 五籐さんは男と格闘したときに、タンスの角に左腕をぶつけたらしくて、酷いアザをつくっていた。

「本当にごめんなさい」

「なんでかおるさんが謝るんですか?

 こんなのすぐ治りますよ」

 手当てをしながら、私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「かおるさん。今日は私の家に泊まるといいですよ。

 男所帯で汚いところですけど。

 かおるさんの部屋をずいぶん部屋を荒らしてしまいましたし、そのお詫びも兼ねて」

 五籐さんは私がこんな不審者が入った部屋で寝泊りすることを、不安に感じていた事をわかって言ってくれたんだろうなぁ。

「そんなことないんですけど……甘えちゃっていいですか?」

「ええ、喜んで。そうしていただけると私も安心ですから」

 このときの五籐さんの笑顔が酷く嬉しくて、安心できて、心強くて。

 レッサーパンダでも構わないと初めて感じた。



◆◆◆



 それからさらに数ヶ月。



「じゃ、行ってくるよ、かおる」

「気をつけてね」



 そうして列砂さんを玄関まで見送り。

「行ってくるね、ママ」

「いってらっしゃい、ラスカル」

 ラスカルを小学校に送り出して。


 

 え?そう。私たち結婚したんです。

 あの出来事から列砂さんの優しさに触れて、なんかもうレッサーパンダだということがどうでもよくなって。

 ラスカルっていう名前もどうでもよくなっちゃったし。今は私の息子だし。



 レッサーパンダがどうしてこの世界で、人のように暮らして、仕事して、学校行って、こうしていられるか。

 まぁ、どうでもいいじゃない。幸せなら――。

 そんな感じの今の私たちです。






                      終わり



立つ鳥思いっきりあとを濁す形になりました(涙)


第1話 お題提供 黒葉不知火様

第2話、第3話 お題提供 赤穂雄哉様 hal様


こんな代物となりまして、本当に申し訳ありません。

心からお詫び申し上げます(土下座)

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