第1話 遭遇?
このお話は短編「私の不思議な…」の転記となります。
ふと、本を開いた。
ただなんとなく。開いてみた。
午前十一時三十五分。昼食にはまだ少し早い。
休みの日。何することなくただぶらっと三駅先にあるショッピングモールに来た。
とか言って。目当ての買い物もない。
だから本屋にぶらっと、吸い込まれるように入った。
そして一番手前にある雑誌コーナーの「旅行ガイド」に手を伸ばす。
「ぶらっと京都……ねぇ」
行きたいけどさ。お金ないし。時間ないし。なんて言っているから、結局旅行も行きそびれる。パタリと閉めて、次の本。これは九州。もうため息しか出ない。
行く予定ないもんね。
平日。販売業の私は平日が休みだから、こんな時のショッピングモールは結構空いてる。
土日は混むもん。仕事以外で来たくないな。
「ん? 」
視線が店の外――通路の方へと向かう。いや。ただなんとなく。
あれ……なに?
レッサーパンダがいるよ? 何? はっ?
それが。たぶんさ……七、八歳ぐらいの子供の身長のレッサーパンダ……だよね、あれ。
それが通路歩いてんのよ。普通に。二本足で器用に、さ。
だーれも気がついてないのよ。どうしてかなぁ?
もしかして――私見ちゃいけないもの見た――とか?
で。視線合っちゃった。これマジやばいっしょ。
え、ええっ!! こっち歩いてくる、歩いてくるよぉ。二本足でっ!!
「何、僕を見てんだよ」
「……すみません」
私の前まで来たレッサーパンダ。怒られちゃった。
そ、そうだよね。人を……この場合レッサーパンダだけど。じーっと見ちゃ失礼だよね。うん……。
「素直だね」
「失礼なことしたからね……」
「丁度いいや。この建物から駅に行くのはどうすればいいの? 」
「……え……駅か」
駅に行きたいんだ。このレッサーパンダ……。
「だとここは正反対だから。もと来た通路をまっすぐに歩いていくと、そのまま駅が見えるよ。「五色駅」でいいんでしょ? 」
「うん、そう。ありがとう。じゃ、もと来た通路を戻ればいいんだね」
「そう……わかる」
「大丈夫。ありがとう」
礼儀正しいレッサーパンダ。見習わないとね……私。
私にぺこりと頭を下げると、レッサーパンダはもと来た通路を戻っていった。
「……」
えーと。
雑誌を手に。ただ呆然とする、私。
すごく貴重な体験をしたって? でも信じてもらえないよね、誰に話しても。
人間ってさ……。理解を超える出来事が起こると……驚くけど。
結構、冷静なもんだね。後で「くる」のかなぁ?
でもあのレッサーパンダ。
駅に行くって言っていたけど……どこに行くつもりだったんだろう。
ちょっと知りたかったかな。残念かも。
でも知らない方がいいこともたくさんあるから。と、言う事にしておこう。
「ま……いいか」
不思議なことがあっても、人間、お腹はすくものだ。
私は少し早めの昼食を食べに、フードコートへと向かった――。