世界樹の花嫁 ~プラント・ワールド~ 23
3 噴火
富士山の噴火はドキュメンタリー番組のCGなどで再現されているが、実際の噴火はシミュレーション通りとは云えなかった。膨大なエネルギーが一気に放出され、想像を絶する破壊力だった。揺れる大地はただ恐怖だけを含み、広い空は地上へ落ちてくるように厚くなった。
風前のともし火となった、日本。
しかしそれは、地球規模へ広がる災厄の、始まりにすぎなかった。
4 運命の女神に弄ばれた人『ザ・スポート・オブ・フォーチュン』
大きな揺れが、ミルとマトシを襲った。グラグラと振り子のような動きを見せる電波塔。落とされないようにマトシは柱につかまり、ミルはショウを離さないように覆いかぶさって身を低くした。パニックに陥る電波塔の上に、謎の美女が、落ち着いた表情で降り立った。
「まったく。やっぱり私がいないとダメな子ね」
ミルは顔を上げて美女を見る。
「おやおや、こんなかわい子ちゃんに心配させるようなことをして、こんな子に育てた覚えはないんだけどね」
「あの、あなたは?」
しかし美女はミルの言葉に答えを返すでもなく、
「ほらほら、そこをどいてちょうだい。今すぐショウを治してあげるから」
明らかに能力者なのだが、治すとは、まさか死者を生き返らせる能力? それをミルは信じられなかった。今まで、数々の惑星を巡ってきたのだが、一人たりとて、死者復活の能力は授けられなかったのだ。それは、生きとし生ける者のすべての生物が、根底に持っている禁断の領域だと、ミルは解釈していた。
永遠の命は不幸と孤独しかもたらさない。
これが、宇宙の真理だと信じていたのだ。
「まさか、オバアちゃん?」
いつの間に美女は能力を発動させていたのか、ショウは数日間寝続けた人のように、うつろな表情で眼を覚ました。
ショウ! とミルは涙を浮かべながら彼を抱きしめた。
「ミル、心配しないで、別に死んでいたわけじゃないよ。一歩手前だったけどね。ボクの能力は世界樹の力を得て大きく変化したんだ。だから破壊された臓器を作って治した。初めてだったから、少し時間がかかってしまったけど」
ショウは泣きじゃくるミルから視線を変えて、オバアちゃんと呼んだ美女を見上げた。
「若返りの能力を手に入れたの?」
「ほほほほほ。そうじゃないわよ。私の能力――タイム・パニックは、触れた者の時間を戻す能力。死んでしまった人間、壊れた物の時間を巻き戻す。どう、すごいじゃろ?」
それを聞いてショウはマトシの名を叫んだ。
ヘェ、ヘェイ、と頓狂な声を上げるマトシ。
頓狂……①あわてて間が抜けていること ②だしぬけで調子はずれなこと ③故意に出せるようになったら笑いの鉄人になれること
「カノコをここへ呼んでくれ」それから祖母に向かって、「大変だろうけど、お願い出来るかな」と云った。孫の意図をくみ取った彼女は、
「当たり前のことを云うな。地球の危機だよ」と、答えた。
カノコが現れ、「地震で病院はダメだ。これからアサを治せる能力者を探すところだったのにいったい何だ?」と愚痴をこぼした。軽く謝り、ショウは祖母の能力を教えた。するとカノコは何も云わずに祖母を連れて電波塔から姿を消した、とそのとき、突然マトシが大声で叫んだ。
「ショウさん! 『ヘラクレス』がここへ向かっています」
☆
トンボの飛翔能力は人間の知識を一蹴している。どれほどスピードを出していても直角に曲がることが出来る。ホバリング、急降下、急上昇、急停止、この性能はまれなことで、昆虫の中でもトンボだけだと云われている。
だからショウは羽を四枚作りだした。『ヘラクレス』は所詮、鞘翅目コガネムシ科の甲虫でしかない。空中戦ではトンボに分がある。
空中戦、勝機はここしかない、とショウは判断した。
地響きが四方から轟き、果てまで広がる暗雲、雷鳴、いつか感じた平和はもう何所にもなかった。
惑星の崩壊の瞬間を、今、眼にしているかのようだった。
灰色の空に、一点の黒い物体がショウの視界に入ってきた。それが、『ヘラクレス』だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
ブブブブンンンとショウから五メートルほどの距離を置いて『ヘラクレス』が止まった。
淡々とした調子で『ヘラクレス』は云った。
「君の親友であるキアラは死んだ。その恋人ラナは私の胃の中だ」
『ヘラクレス』の第一声を聞いて、ミルが手を口にあてる。ところがショウは冷静そのものだった。
「何故、キアラがボクの親友だと知った?」
「ふむ。お前はかなり頭の回転がいいようだ。私の一言で、読心の能力を持っているのか、と疑いを持った。すばらしい。そして、恐ろしいよ」
「やはり心を読むのか。本当にそれだけかな、恐ろしいよ」
「ほう。私のこの余裕から、他にも何か能力を隠していると睨んだか。そのとおり、私は千里眼をも有している。それからもうご存知かと思うが、レーザーを使う。ところで、私はここまで手の内をさらけ出したのだ、お前の能力を教えてくれるのが礼儀ではないのかな?」
「そうやって、ボクが考えるように誘導して、心を読み、すべてを見抜く、という作戦か。能力の探り合いはやめにしよう」
「すごい自信と洞察力だ。だが、能力の過信でないことは、今までの戦いからうかがい知ることが出来る。面白い。やっと、楽しませてくれる相手と相対できた。さあ、行くぞ。久し振りに全力を出させてくれ」
足元に林立するビル群が大きく崩れる。逃げ惑う人々、日本が、元の姿を失って行く。やがて街を火災が覆い尽くす。
「そんな小娘を抱いていて、私の相手が出来るのか? 何処かへ避難させるまでは待ってやるぞ?」
不安そうな眼を向けるミルにショウは優しく微笑んだ。顔を元に戻し、
「そういうセリフが出ること自体、ボクをなめている証拠だよ――サクリファイス!」
つづく




