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世界樹の花嫁 ~プラント・ワールド~ 12

   未来(すうじかんご)の章


 アメリカの上空を無数の戦闘機が飛び交っていた。皆一様に目指すはワシントン・D・C、ホワイトハウス上空。音速を超える狭い視界の中、パイロットが見た映像は信じられないものだった。

 地獄の炎に焼かれるホワイトハウス。緑に映える純白の景観は見る影もない。

 辺りは暗雲に見舞われ、豪雨が地上を叩いていた。

 煌々(こうこう)と輝くホワイトハウスは周りに光を与えているのだが、それは誰が見ても命の燃え尽きる最後のともし火だとわかった。

 西はジョージ・ワシントン大学、東はチャイナ・タウンまで、一面火の海と化していた。

 先頭を行く戦闘機のパイロットが神の名を口にした瞬間、最強を誇る戦闘機が、まるで紙飛行機でもあるかのように簡単に炎上した。パイロットは炎にまかれパニックに陥った。じりじりと焼かれる肌、ドロドロに溶けていく計器類、ふと前方を見ると、赤黒い物体が浮かんでいるのが見えた。しかしパイロットは、その物体が何なのか考える間もなく、絶命した。

 次々と成すすべもなく破壊される戦闘機。パイロットたちの困惑。怒り、絶望の爆発。

 それらを見下ろす影はしかし、まるでそうなることが当たり前でもあるかのように悠々と漂っていた。

 透明の羽が炎を反射してキラキラと輝き、その体躯は強固な骨格に覆われている。特徴的なのがその頭部だった。人間でいうと耳がある位置から二本の太いツノが生えている。根元が上に伸び、先端は下へと湾曲している。まるで宗教画に出てきそうな悪魔を連想させた。

 野球のボールほどの大きな赤い玉が埋め込まれただけのような、眼球。

 鼻は無く、細かい牙をのぞかせる小さな口。

 怪物はまるで、『クワガタ』だった。

 炎の塊となった鉄くずの間をぬい、『クワガタ』は辺りを見まわし、まだ焼けていない南側に視線を止めた。

 眼下に広がるウエスト・ポトマック・パーク。

『クワガタ』は大きく両手を広げた。すると、暗雲が闇を濃くし、その直後、ツノの先端がまばゆく輝き、ウエスト・ポトマック・パークに電撃が落ちた。

 爆音とともに炎があがる。


 厚い雲によって光のとどかない街は、自ら発する炎によって、明るく輝かせていた。

 その光景を見て、誰がこの場所を超大国アメリカだと思うだろうか。



 未曾有の暴風雨は、フランス全土を脅威に陥れていた。

 パリ自慢のモニュメントであるはずのエッフェル塔は、遥か西の都市ニオールに逆さになって突き立っていた。水と緑にあふれた情緒ある都市だったのだが、今は見る影も無い。二つの天守閣をもった観光名所となっている白い城も、強烈な突風によって跡形も無く破壊されている。静かで美しい都市は、風が大気を叩く音に支配されていた。

 海は荒れ狂い、空は叫んでいる。

 道行く車、電車の類はすべてなぎ倒され、避難する術を失った人々は、ただただおびえ、ねずみやもぐらのように地下へと身を隠した。

 鳥すらも姿を消した大空に、人の大きさ程もある『蝶』が舞っていた。

 紫を強調した毒々しい羽が(ひと)羽ばたきするたびに、眼下にある人工物が吹き飛ぶ。

『蝶』は舞うように舞っていた。それはまるで児童の遊戯のように。

 頭部の半分を占める黄色い眼球は無機質で、何を考え、何を見ているのかわからない。女性のような曲線を持った身体は(なまめか)かしくも楽しそうに上空で揺れ、それにつれて頭部にある二本の長い触手が螺旋を描く。『蝶』が一回りするたびに、建築物のすべてが舞い、踊りを、豪華で、壮大で、幻想的にさせる。

 下界が更地と化した。『蝶』は踊りに飽きたかのように動きを止め、次は七色の羽から紫色の粉を降らせた。

 地下へと避難している人々を襲う謎の粉は、それを吸い込んだ者たちの命を次々と奪っていった。



 愛知、静岡、神奈川に住んでいる人の何人が、上空を飛ぶ奇妙な物体に気づいただろうか。もし仮に見つけた人がいたとしても、それはただの鳥だと思ったであろう。

 それが気まぐれに降りてこなかったことを幸運に思うべきなのだが。

『カマキリ』はひたすら飛んだ。東へ、東へと。


 そして、『サソリ』は、次の獲物を見つけた。


                                      つづく

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