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オレンジ

作者: 相沢つとむ

 社会人になってから一ヶ月が過ぎた頃だった。久しぶりに小学、中学、高校、そして大学まで一緒だった智に会った。そいつは地元の小さなゲームセンターで麻雀のゲームをつまらなさそうな顔でプレイしていた。

 偶然だった。今日はいつもより早めに仕事が終わったのついでに久しぶりに格闘ゲームをしたくなったのでネクタイを緩めながらゲームセンターに向かったのだ。

「おう、久しぶり」

 智はロンのボタンを押しながらそっけなさそうに僕の顔を見ずに言った。

「相変わらず麻雀してるんだ」

 そんな僕の問いにも僕の顔を見ずに頷くだけだった。

 仕方なく、智の隣に座って 画面を覗きこんだ。オンライン全国対戦をやっていた。懐かしい。僕も大学生のときに智に連れられてよく一緒にプレイしていたんだっけ。

 大学生のころは時間がたくさんあった。希望もあっただろうし、なにより毎日が楽しくて仕方がなかった。大学生のころになかったものといえば、お金ぐらいなものだろうか。

 今の僕はといえば、あるのはお金ぐらいで、時間もないし、希望もない。毎日がヘトヘトで明日にたいして恐怖しか抱かなくなった。

 だからそんな僕は智が羨ましかった。時間がある智が羨ましい。お金なんかいらないから時間が欲しいと思う。

「なんで、そんなに疲れてるんだよ」

 ようやく智から話しかけてくれた。それでもゲーム画面から目を離したりはしなかったけど。

「もう毎日が必死だよ」と言って軽く笑ってから「生きるってこんなにエラいんだよな、っていまさら思ったよ」と続けた。

 智は僕が話しかている最中もずっと手を動かしてゲームをしている。智の持っている牌はなかなかいい役になりそうだ。

「そんなに難しく考えるなよ」

 智が捨てた牌に誰かが反応してロンをされていた。

「そんなクソ役で待ってるなよ」と智は毒を吐いた。そしてようやく僕の顔を見つめた。

「今のお前の顔死んでるよ」

 ようやく僕の顔を見てその一言は酷すぎるだろう、と思ったが、智の言いたいこともわかる。死んでる、とまでは言わないが疲れが顔に出ているのは自分でもわかる。

「このゲームも飽きたな」

 大学生のころからずっとやっているからそう思うんだよ、と心の中で智に言っといた。

 席から立ち上がった智は僕のことも気にせずに出口まで歩いていった。仕方なく智につられて僕も立ち上がり智の後ろについていく。

「そんなしんどい思いしてどうするん?」

 智は歩くスピードは遅めず、むしろ早歩きのスピードで歩く。

「だって、もう遊んでいられる歳じゃないし、みんな働いてるし」

 智はどんどん前に進んで歩く。

「オレは智が羨ましいよ。こんな時間にゲームしてられるし、毎日暇そうじゃん」

 歩く、歩く、歩く。

「結局、お前って前に進んでいるように見えて歩かされてるだけじゃないの?」

 出口の自動ドアが開いて生暖かい夜風が僕の体を包んだ。

「例えるならお前の人生は歩く歩道だよ。自分の足で歩まなきゃ」

 外に出て立ち止まってから僕を振り向いて智はそう行った。だけど、智、歩く歩道じゃなくて、動く歩道だよ。

「仕事で疲れている自分がそんなに好きなら続けていればいいだろうし、それが嫌ならさっさと辞めれば? 見てるこっちが恥ずかしいよ」

 フリーターの智はなにもわかっていない。今、仕事辞めてしまうことの大変さとか気まずさがあることを。

 それでもフリーターの智が一番わかってくれている。僕の今の気持ちを。

 だから僕もこれからは自分の足で歩こうと思う。

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