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フィラデルフィアの夜に 90 仕事

作者: 羽田恭
掲載日:2026/03/12

フィラデルフィアの夜に、月と星々が見ます。


 夜、真っ暗な中。

動く。

蠢く。

縋るように。

祈るように。

水を付けては。

綺麗な水を付けては。

捨てられる事になってしまった物に、大量の財産が荒々しく捨てられ積まれて行ってしまった、ゴミ捨て場にて。

 懸命に何かが動いている。

見られることも、知られることもなく。

ひとつの物音だけが、この夜の中に、音を響かせる。


 月と星々が、雲に切れ目を入れる。

まばゆい光を一点に照らし、その物音の主を見据えます。

 腕。

土の中より無数の捨てられた財産へ長い長い針金が伸びて、絡み組み合わさり、一本の腕を作り上げているのです。

傍らには水たまり。

これ以上にないきれいな水が点在していました。

 月は思う。星々も思います。

ここには天災があり大雨が降り、洪水になったと。

それで人々の財産は壊れ汚され、この場所に集積された。

また思います。

以前に同じく集められ、窪地に忘れ去られた鉄線があったと。

それは無数に棘を有する鉄線だったとも。

 その場所から長い長い針金の腕が伸び、懸命に同じく捨てられた財産を清めているのです。

 泥を払い、汚れを拭い、輝くまでに。

清い水が傅くように自然と湧き出し、腕の元にいくつも水たまりがあります。


 腕が動きを止めました。

そうすると、天へ向かって伸ばします。

グッと拳を握りしめて。

これが、自らが自らに課した仕事だと言わんばかりに。

 月と星々に向かって。


 また針金の腕は自らをブラシとして、捨てられてしまった財産を清めていきます。

月と星々は雲の切れ目から見守っていました。



 朝、異様に清められた財産はまた荒々しくトラックへ積まれ、焼却場へと運ばれていく。

雲はまだとても厚く、また雨が降り出しそうになりながら。


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