フィラデルフィアの夜に 90 仕事
フィラデルフィアの夜に、月と星々が見ます。
夜、真っ暗な中。
動く。
蠢く。
縋るように。
祈るように。
水を付けては。
綺麗な水を付けては。
捨てられる事になってしまった物に、大量の財産が荒々しく捨てられ積まれて行ってしまった、ゴミ捨て場にて。
懸命に何かが動いている。
見られることも、知られることもなく。
ひとつの物音だけが、この夜の中に、音を響かせる。
月と星々が、雲に切れ目を入れる。
まばゆい光を一点に照らし、その物音の主を見据えます。
腕。
土の中より無数の捨てられた財産へ長い長い針金が伸びて、絡み組み合わさり、一本の腕を作り上げているのです。
傍らには水たまり。
これ以上にないきれいな水が点在していました。
月は思う。星々も思います。
ここには天災があり大雨が降り、洪水になったと。
それで人々の財産は壊れ汚され、この場所に集積された。
また思います。
以前に同じく集められ、窪地に忘れ去られた鉄線があったと。
それは無数に棘を有する鉄線だったとも。
その場所から長い長い針金の腕が伸び、懸命に同じく捨てられた財産を清めているのです。
泥を払い、汚れを拭い、輝くまでに。
清い水が傅くように自然と湧き出し、腕の元にいくつも水たまりがあります。
腕が動きを止めました。
そうすると、天へ向かって伸ばします。
グッと拳を握りしめて。
これが、自らが自らに課した仕事だと言わんばかりに。
月と星々に向かって。
また針金の腕は自らをブラシとして、捨てられてしまった財産を清めていきます。
月と星々は雲の切れ目から見守っていました。
朝、異様に清められた財産はまた荒々しくトラックへ積まれ、焼却場へと運ばれていく。
雲はまだとても厚く、また雨が降り出しそうになりながら。




