第7話 休日の午後
休日の陽ざしが、石畳の街をやわらかく照らしていた。
いつもより少し明るい服を身にまとったリリアーナは、
待ち合わせの噴水広場に立っていた。
髪を後ろで緩くまとめ、白いリボンを結んでいる。
図書館での堅い印象とは違い、どこか年相応の可憐さがあった。
「リリアーナ、待った?」
元気な声が響く。
現れたのは、リリアーナの幼なじみであるミーナとクララだった。
ミーナは金色の巻き髪をふわりと揺らし、
空色のワンピースを着こなしている。
明るい笑顔が印象的で、周囲をぱっと華やがせるような女性だ。
一方のクララは、栗色の髪を三つ編みにしてまとめた穏やかな雰囲気の娘。
ミーナとは対照的に落ち着いており、
よく二人の間をとりもってくれるしっかり者だった。
「ううん、今来たところ」
リリアーナは微笑みながら答える。
「よかった! 今日はいっぱい歩くわよ〜!」
「ミーナ、最初から飛ばしすぎ」
クララが苦笑し、三人の笑い声が重なった。
王都の商店街を歩き、雑貨店やカフェをのぞきながらおしゃべりに花を咲かせる。
「リリアーナってさ、ほんとに仕事ばっかり。
もう少し遊びなさいよ」
「そうよ。図書館ばっかりで息が詰まらない?」
「そんなことないわ。静かな場所は好きだし……
でも、こうして皆と外を歩くのも悪くないわね」
「ふふ、でしょ?」
ミーナが嬉しそうに笑う。
甘い焼き菓子の香りに誘われて、三人はカフェに入った。
窓辺の席に座り、紅茶を頼む。
テーブルには、街角の花屋で買った小さなブーケが置かれていた。
「リリアーナ、やっぱり似合うね。白い花」
「そう? たまたま目に留まっただけよ」
「それが似合うってことなの」
クララが穏やかに微笑む。
三人は久しぶりの再会を楽しみながら、
何気ない話題で盛り上がっていた。
――その様子を、少し離れた場所から見ている男がいた。
街を巡回していたレオニスだ。
公爵家の三男であり、王都騎士団の団長でもある。
休日とはいえ、部下たちの報告を確認するため城下を歩いていたところだった。
ふと視線を向けた先で、
見慣れた淡い茶色の髪が陽光を受けてきらめいた。
(……リリアーナ?)
彼女が笑っている。
柔らかな声で友人と話し、
時折肩を揺らして笑っている。
図書館では見たことのない表情だった。
――思わず足を止める。
「団長、どうかなさいましたか?」
部下の一人が不思議そうに声をかける。
「いや……なんでもない」
レオニスは小さく首を振り、
再び歩き出した。
だが、足取りはどこか落ち着かない。
カフェの窓越しに、リリアーナが笑う姿が目に入る。
その柔らかな光景を、
どうしても忘れられなかった。
(……あの笑顔、図書館では見たことがなかったな)
ほんの一瞬、
胸の奥がざわめく。
それを自分でも気づかぬふりをして、
レオニスは静かにその場を離れた。
一方そのころ、リリアーナは紅茶を口にしながら、
ふと外の通りに視線を向ける。
人の流れの中に、銀灰色の髪が一瞬見えた気がした。
(……気のせい、かしら)
心の中で小さく呟き、
再び友人たちの笑い声に包まれる。
その午後、リリアーナの心もまた、
ほんの少しだけ、いつもより軽かった。
 




