第5話 図書館の再会
数日が過ぎ、リリアーナはいつものように朝の家事を終えると、心の隅で少しだけ図書館のことを思い出していた。
銀灰の髪、蒼の瞳の青年――名前も知らないけれど、あの静かな時間の余韻が、胸の奥でまだ温かく残っている。
今日は少し早めに図書館へ向かう。
館の扉を押すと、木の香りと紙の匂いが混ざった独特の空気が漂ってきた。
深呼吸をひとつすると、心がすっと落ち着く。
――あの人、今日も来るかな。
リリアーナは微笑みながら、今日の仕事に取りかかる。
貸出中の本を棚に戻し、古びた蔵書の埃を丁寧に払い、分類番号を確認しながら整頓する。
借りたい本を探す来館者がいればすぐ手渡せるよう、台の上も整理しておく。
遠くから足音が近づく。
振り返ると、そこにいたのは――
銀灰の髪に、蒼の瞳。
背筋の伸びた立ち姿、そして身のこなしから、高貴な身分の方だとわかる。
胸に小さな警戒心が走る。
「……また、図書館に来てくださったんですね」
リリアーナは静かに尋ねる。
青年は軽く微笑む。
「ええ、この場所は静かで落ち着くので。ところで、君がおすすめの本があれば、教えてもらえないかな」
リリアーナは胸の奥で小さな嬉しさを噛みしめながらも、手を止めずに応える。
「はい、いくつかお貸しできますね」
彼女は棚から詩集や物語集を取り出し、分類番号を確認しながら慎重に差し出す。
レオニスは本を受け取り、軽く微笑む。
「ありがとう。君のおすすめなら、きっと面白いだろうね」
二人の間に言葉は少ないが、図書館の静けさと紙の香り、互いの存在だけがそこにある。
リリアーナは心の中でそっと思う。
(……また来てくださって嬉しいけれど、無理に言葉にせず、この静かな時間を楽しもう)
青年は本を手に、そっと立ち去る準備を始めた。
「それでは、今日はこの辺で」
軽やかな足取りで扉に向かう彼の後ろ姿を、リリアーナは見送る。
扉が閉まった後、館内には再び静けさが戻る。
リリアーナは仕事を片付け、図書館を後にする。
帰宅すると、ろうそくの灯を消す前に小さくつぶやいた。
(……今日も一日、穏やかでよかった)
恋心ではない。
ただ、心地よい静けさを胸の奥で感じるだけ。
それが、リリアーナにとっての特別なひとときだった。
深夜、館は静まり返り、今日という日が無事に終わったことを噛みしめながら、リリアーナは眠りについた。




