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図書館の静寂に、君を想う  作者: はるさんた


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第4話 静かな午後、家の中


朝の光が古い館の窓から差し込む。

リリアーナは薄手のカーテンをそっと開け、庭を見渡した。

小さな噴水の水音と、鳥のさえずりが混ざり合い、静かな朝を告げる。


男爵家は決して裕福ではなく、家具や装飾品は古び、使用人も数えるほどしかいない。

日常の雑事は、お兄様のアレクシスとリリアーナで分担することが多い。

弟のエリオットはまだ学校に通っており、家事の手伝いはほとんどない。


「おはよう、リリアーナ」

アレクシスの声が階段の方から響く。

整った顔立ちと背筋の伸びた立ち姿は、まるで家族の中の小さな王のようだ。

性格は真面目で几帳面、妹のリリアーナにはしばしば小言を言うが、口調は穏やかだ。


「おはようございます、お兄様」

リリアーナは軽く頭を下げる。

朝食の準備を整えながら、アレクシスはテーブルに並べた食器をチェックする。


「スープ、まだ温かいうちに出さないと。エリオットの分も忘れずにな」

「はい、お兄様」

リリアーナはにっこり笑い、手早く器にスープを注ぐ。


そこへ弟のエリオットが階段を駆け下りてきた。

まだ少年らしい無邪気さが残る14歳のエリオットは、目を輝かせながら食卓に座る。

「おはよう、お姉ちゃん!」

「おはよう、今日も元気ね」

リリアーナは微笑みながらパンを手渡す。

エリオットはむしゃむしゃと食べながら、学校での出来事を楽しそうに話す。


「先生が、数学の問題をめちゃくちゃ褒めてくれたんだ!」

「そう、それはよかったわね」

リリアーナは穏やかに聞き、時折うなずきながらエリオットの話に耳を傾ける。

アレクシスは黙って書類整理をしつつ、弟の無邪気さを少しだけ苦笑する。

「……まったく、あの子は本当に元気だな」


朝食後、リリアーナは家事を済ませて書斎へ向かった。

壁一面の古い蔵書に囲まれると、先日図書館で過ごした静かな時間が思い出される。


(……あの空気、心地よかったな)


銀灰の髪、蒼の瞳の青年。

名前も知らない、ただの高貴な人――まだ会って一度きりなのに、心に残っている。

言葉にせず、胸の奥でそっと温める。


午前中の家事を終えると、午後は自由時間。

洗濯物を干し、庭の花に水をやる。

花はまばらに咲いているだけだが、リリアーナは一輪一輪丁寧に世話をする。

小さな庭の手入れも、家事の一環であり、心を落ち着ける時間だった。


庭仕事をしながら、アレクシスが書類を持って庭を通り過ぎる。

「リリアーナ、庭の水やりは忘れずにな」

「はい、お兄様」

「エリオットに手伝わせたら?」

「彼はまだ小さいですし、今日は自分でやります」

アレクシスは小さく笑い、館の奥へと戻っていった。


午後、リリアーナは再び書斎に戻り、日記帳を開く。

今日の家事や庭仕事のことを書きつつ、図書館で見かけた青年のことも、ほんの少しだけ。


(まだ、あの人が誰かはわからない……)

(けれど、また会えたら、少しだけ楽しみかもしれない)


夕方、家族の夕食の準備を始める。

エリオットは遊び疲れて戻り、今日の出来事を楽しそうに話す。

アレクシスは手伝いながらも、リリアーナが困っていないかちらりと確認する。

リリアーナは彼らの話に耳を傾け、家族との温かな時間を味わう。


夜、リリアーナは窓辺で本を開く。

静まり返った館の中、月の光が机に落ちる。

手元のページに目を落としながらも、図書館で見た青年の姿が浮かぶ。


(……あの空気、心地よかったな)

(……図書館のあの静けさも、家族と過ごした時間も。今日一日、穏やかでよかった)


恋心ではない。

ただ、心地よい静けさを胸の奥で感じるだけ。

それが、リリアーナにとっての特別なひとときだった。


深夜、ろうそくの灯を消して寝室へ向かう。

館は静まり返り、今日という日が無事に終わったことを噛みしめながら、

リリアーナは眠りについた。




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