〇情
-チャラス-
「くそっ…」なんで倒れねえ、確実に撃ったはずなのに…「悪い息子だな。息子達は良い子なのに」ちっ、親父…お前が本物じゃねえって分かってんだよ…なのに…「くそが…」親父が剣を持って歩いて来る…これで…終わりかよ…
その刹那、親父の影から何かが飛び出して来た。あいつは…そう思った次の瞬間、そいつは俺を抱き抱え、森を走ってその場を離れた。
「おい!大丈夫だったか?」そいつは森の中で俺を下ろすと、フードを脱いだ。「ガルド…」俺はそいつを知っていた。カルドは俺と共に木の影に隠れると、ゆっくりと話し出した。
「お前が街から出て2週間ほど経った時かな…あれは、『疫病』のような物だった。街の住人達は様子がおかしくなり、この森に向かって行っていき、帰って来たのはあの一家だけだ。
俺は能力を使ってお前が来るまで耐えていたが、やっと来てくれたのか」そう言ってガルドは木にもたれかかって座った。どうやらものすごく疲れているらしい。
「大丈夫か?」俺が声をかけるが、ガルドは深呼吸しながら床を見つめていた。俺はまだここに来てあまり経っていないが、ガルドはずっと待っていたんだ。そんな事を思っていると、ガルドが一人でに話し出した。
「お前とは何回もバカな事したよな。近所のおっちゃんの財布盗んだり、レストランで食い逃げしたり、お前が運を試すって言って大人のふりしてカジノに入ろうとしたこともあったな?ふふ、今思い出しても面白いな」そうやってガルドは俺に笑いかけてくれた。
「でも…俺、さ…」俺がそこまで言うと、ガルドは手で止めてきた。「大丈夫、大丈夫だ、少し、楽しかった街の事を思い出したくなっただけだ」そう言い、ガルドは再び木にもたれかかった。
おそらく、この騒ぎの正体は森から出ている霧。そして恐らくだが、操られたやつが向かって行ったのはあの湖。「ガルド…まだ動けるか?」俺がガルドに聞くと、ガルドはゆっくりと立ち上がりながら言った。
「全く、無茶ばっかさせやがるぜ…あの湖に行くんだろ?」ガルドはフードを被ると、地面に溶けるように入り込んで行った。ガルドの姿は見えないが、地面から声がする「ここは影で満ちてる。こんなかなら好きに動けるぜ」
それにしても…何が原因で、何を目的としてこんな事をしてるんだ…やはりあの湖に何かが…考えてても何も分からねえ。今はただ、走るだけだ。
薄暗い木々を通り抜けていくと、霧は一層濃くなり、またあの湖に来た。しかしそこに親父は居らず、霧が不気味なほどに濃い以外には、変な事はなかった。
そして俺はふと、湖の近くまで近付いてみた。しかしその湖は驚くほど、いや、変に綺麗すぎるぐらいだった。そんなことを思っていた時、突然、後ろから気配を感じた。振り返ると、そこには、自分に向かってナイフを突き立てているガルド。
「ガルド…お前…」
「大丈夫、大丈夫だ、チャラス。
お前を殺せば俺はどうなってもいいから…」
目の前までナイフが来た、その瞬間、ガルドのナイフは弾き飛ばされ、湖に落ちた。「なっ…」ガルドが驚愕の表情を浮かべる間もなく、何者かの持っていた刀がガルドの首元に突きつけられていた。しかしガルドは地面に入り込み、何処かへ逃げていった。謎の人物は刀を鞘へしまうと、こちらへ振り返り言った。
「汝、無事であるか?」その人の目は鳥のくちばしのような、先が尖った仮面で隠れており、口元は笑っていない。服装は今の時代ならこの辺では確実に見かけない、すべてが黒で染まった着物を着ている。
謎の人物は、こちらへ近付くと、手を差し伸べこう言った。「我が名は宰と呼べ、汝よ、我の元へと避難はせぬか?」正直、怪しいし、知らないやつにはついて行くなって、クニサキも言ってたけど、俺には他に道が無かったため、仕方なく宰についていくことにした。
-クニサキ-
「何でここに連れてきた?お前は誰だ?」俺は目の前にいる全身スーツと仮面を着けた謎の人物に問いただした。何故かこいつの脳内は読めない。
どんなカラクリだ?そんなことより、ここは…周りには石で作られた家やショップ。そしてあそこにはこの国を象徴するのであろう城があった。間違いない。
俺の故郷、そしてあの離れの街からそう遠くないあの都市だ。俺が周りを見渡していると、目の前の仮面のやつが仮面を外した。
「すまない…少し急いでたんでな。俺の名前はヤマギ、あんたの名前は…聞かなくても知ってるぜ?」そう言ってヤマギは俺を皮肉を言うような目で見てくる。
次に、周りにはどんどんと人が集まってくる。「おい、あいつ…」「あぁ…あの裏切り者だ…」「ヤマギさんが捕まえたんだ」ひそひそ…がやがや…。くそっ…なんでこんなとこに帰って来た…いや…それより…
「そんなふうに言うなら何故俺をここに連れ返した?」そう言うと、ヤマギはニヤつき、「そりゃ…君のお父さんから依頼を受けたんだよ…君が近くに居るって聞いてね?」と言った。
聞きたい事も山程あるし、今戦った所でこいつには勝てなそうだ…まずは父さんに会いに行くとするか…城の中はあの頃と変わらず、ただ退屈な、長いだけの廊下が続いた後、父さんの部屋があるのみだ。
俺は父さんの部屋に入った。すると父さんは俺を見るなり抱きついて来て今にも涙を流しそうだった。「あぁユウタ、よく戻ってきてくれた。私は今にも泣きそうだよ…」父さんはそう言っているが、実際、すでに涙は流していた。
だがそんなことより、聞きたい事がある。「なんで俺の居場所が分かったんだ?」俺がそう言うと、父さんはキョトンとした顔でこう言った。
「なんでって…私はユウタの事が心配で、子供の時からそのローブに発信器を付けてるって…前にも話したじゃないか」なんだと?そう言われれば、確かにそうだった。
でも…なぜこの事を忘れていたんだ?「まあ、とりあえず、用件を言ってくれ」俺はそういうと、すぐそこにあった来客用のソファに腰掛けた。
すぐに父さんが「ユウタ、君にはお父さんが買ってあげたソファがそこにあるだろ?あれに座ればいいじゃないか」と言い、その方をみれば、所々が金や宝石で装飾されている、派手なソファが置いてあった。「そんな事より、用件を聞いてるんだ」と言うと、父さんは顎をぽりぽりとかきながら話した。「ここの辺りまで帰ってきたということは旅も終わるんだろう?さ、速く研究に戻ってくれよ?」
あぁ…そうか、そうだったな。父は元々、俺の事じゃなく、俺の頭にしか興味がなかったな。




