決別
-クニサキ-
「はあ…」
街を出てどれほど歩いただろうか。そもそも、どっちの方向に向かってるか、どの方向に皆と離れた街があるのか、それすらも分からないんじゃ、どうしようもない。
ため息を吐きながら、どこかも分からない草原を歩いている。そういえば、最初に街を出た時もこんな感じだったかも。
あの時は、こう…行く宛てもなく歩いて行ったら…見た目は古臭いけど、温かかったあの小屋が…
…?おかしいな、本当にあの小屋があった。霜月と出会った、あの小屋に着いたのだ。
人が帰ってきた痕跡は無さそうだし、テーブルの上の書き置きはそのまま…ん?
『そのまま、進んで。貴方の道を』
「なるほど…」
このまま進めば、霜月が思っている通りになる。それは、何故だか阻止しなければならない気がする。だが、俺の旅路の果てに何があるのか、それも気になる。そもそも、結局『運命』には逆らえないのだから
俺はあの頃、国王の息子、天才などと褒められていた事がある。俺は、そんな物に縋るほど、弱いわけじゃなかったはずだ。だが、「ふう…」心のどこかで、支えにしてたのかもな。
頭の中で、霜月と、ヤマギの姿がフラッシュバックする。だがあれらは、結局自分が1番大事なんだろ。
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「ねえ、貴方は、あの国から来たの?」
「あぁ、国王の息子だった、ただ、それだけだ」
「そう…?凄い事じゃないの?」
「いいや、孤独だったさ、ずっと、自分を誇らしく思ったことなんて一つもない」
「そうなの?じゃあ、私が貴方の生きる意味を作ってあげる」
「…?何を言ってるんだ?」
「ふふ、今は知らなくていいの。どうせ、糸は既に垂らされてるのだから…」
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この椅子に座ると、あの頃の事を思い出す。腹立たしいが、少しずつ、糸はもう片方にかかろうとしている。まだ意味は分からないが、阻止しなければならない。気がする。
俺は足速に、その小屋を去った。
…そうだ、能力を使おう。俺の能力は相手の考えてる事が分かる能力だ。それに、範囲も、制限もない。自分が出来ると想像する事が大事だ。
考え易い事…チャラスは、何を考えているだろうか…想像しろ…急ぐんだ。俺は、急いで森へ向かった。
『決別』しなければ、過去の俺と、偽りの友情から
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何日も前…
-チャラス-
「はあ…はあ…はあ…」俺は、あの森に居た。なんでかって?そんなの決まってるだろ?宰が俺を痛めつけるからだ!
「何処に行っても、気配で見えるものなのだ…我が弟子よ」…なんで俺の場所が分かんだよ!おかしいだろ?
宰に連れられて来た館では毎日が地獄だった。毎日握った事も無かった刀を200回も素振りさせられ、模擬戦では10秒も持たずにボロボロにされる。その上、毎日の食いもんは質素って感じのやつだし…
「こんなんで強くなれんのか!?」俺は大きな声で叫んだ。宰は意に介さず、自分の体を引きずり館に連れ戻した。「汝が逃げるから毎日の稽古が厳しくなるのであろう?」そりゃそうだけどよ…いきなり知らない奴に連れてこられて毎日使った事もねえ武器の修行させられんのなんて意味分かんねぇだろ?
その言葉をそのまま言ってやりたかったが、毎日の素振りがもう100回増えるのは嫌だったので直前で口を塞いでおいた。
まあでも、悪い事だけじゃなかったぜ?
「大丈夫…?怒られた?」「いいや、大丈夫だ」
宰と同じような袴…?(だったか…?)を着ているが、その首から上は袴とはとても似合わない白のツインテールと、これまた似合わない、宰とは出身が違うであろう顔をしていた、名前はメリー。
そして、これは(俺の中では)最も大事な事なんだが、俺は、この子に恋をしているのかもしれない…い、いや!流石に!仲間を見捨ててまでこの子と一緒に居たいわけじゃないけど…いやあ…
まず、なんと言っても…俺を心配してくれる。今までは、俺を心配してくれる奴なんて居なかったし…?俺ってやっぱちょろいのかな?
いやいや、そんな訳…この子は特に…「ね、ねえ…師匠様が夕飯の準備を手伝えって…」
俺の妄想、一人語りはそこで終了した。気持ち悪い感じでニヤけてたかも知れない…そう思うと、顔が赤くなった。
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町を出てすぐ、彼女に会った。
「ねえ…大丈夫?貴方、すっごく怖い顔してるよ?」
その子は、俺の俯いた顔と顔を合わせるようにしゃがみこんで下から俺を覗き込むと、そう言った。
「うるせぇ…何見てんだ、お前も殺してやるぞ?」
その時は、ほんとに誰でもいいから、殺してやる気持ちだった。ガルドの、両親を手にかけ…この、真っ白なパレットに黒をぶちまけられたような気持ちを…何色でもいいから、更に塗りつぶしたかった。
「ふふ、ダメだよ、そんなに自暴自棄にならないで」
その子は、俺の頬を両手で包み込むと、笑いかけてくれた。俺には返り血が大量に飛び散ってたはずだ。なのに、恐れを知らないのか?
「お前は?」
「私の名前は知らなくていいから、これを君に渡すよ」その子は、俺の片手を両手で優しく開くと、何かを置いた。彼女がくれたのは、弾だ。銀色で出来ている。
「これも、あげる。持っておいて、壊してしまっても構わないから」その子は、もう片方の手から血に濡れたナイフを奪い取ると、リボルバーを握らせた。
そしてその子は、そのまま立ち去ってしまった。名前も名乗らず、最後に「貴方の道を進んで…そのまま…」と言い残して…
それっきり、彼女とは一回も会わなかったし、今でも彼女の言葉の意味は分からない
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夕飯はやはり質素なものだった。ご飯、味噌汁、あとは魚を焼いたやつ。俺は1番にそれを食べ終えると、自分の部屋に戻り、自分のリボルバーを眺めた。
白い糸のような模様が入ったリボルバーのシリンダーの中を見てみると、同じく白色の弾丸が1つ入っていた。
これは、最後の弾丸。ついに、1つになっちまったか…大丈夫、これは絶対に撃たない。『運命』がそうしてくれるはずだ。
そうして俺は、リボルバーを腰に着けると、部屋を離れた。部屋を出てすぐに、メリーに出会った。「わっ…もうそろそろ寝る時間だけど…どうしたの?」首を傾け、下からそう聞いてくる。
「ん、んん…いや、何でもねえよ、ただ、師匠と話したいことがあるだけだ」俺はそれだけ言うと、メリーと目を合わせられずにその場を去った。
「汝、何をしに来た?」宰は部屋の中央で正座していた。あまりの気迫に少し後ずさったが「あ、いや…聞きたい事があってよ…何で俺に剣の練習なんかさせるんだ?俺は銃を使って戦ってきたし、その方が向いてるとも思ったんだけど…」と言い、宰の後ろに同じく正座した。
宰は「これは心の修行なり、それ即ち、使う武器は関係ないのではないか?」といい、さっきは分からなかったが、今宰は座禅をしてるんだと気付いた。
心の…修行…俺は…ずっとあのまま、逃げていたんだろうか、クニサキに会って、旅をする度に、心のどこかに隠していたんだろうか…
いや、考えすぎだ。とにかく、俺は…強くならなきゃいけないんだろうな。
『決別』しなきゃ、昔の俺と、あの頃の愛情から




