始まり
痛い
殴られた。何もしてないのに。僕はただ冒険者になりたかっただけなのに。どうして虐められなければならないのだろう。あいつがまた叫ぶ。
「おい!さっさと顔上げろよ!」
あぁ、冒険者学校とか入らなければ良かったな。地元で親孝行でもすれば良かった。あ、親はもう居ないんだったか。
「てめぇ!こっち向きやがれ!」
うるさいな。さっさと終わればいいのに。
学校終わり。今日もつまらなかったな。
帰り道、クラスの女の子が話してくる。
「ねえねえ、大丈夫?」
関係ないのに毎日話してくる。どうしてだろう。
「話さないと何も伝わらないよ?」
何を伝えるんだろう。しかもどうせ何も変わらない。
「何か言ったらどうなの?」
喋ることなんて無い。なんで毎日、話して来るんだろう。名前も知らない、女の子。でも、少しだけ、楽になった気がした。
今日も学校に行く。何で冒険者になりたかったんだっけ。あぁ、そうだ。親を養うためか。母は俺を産んで死に、頑張って育ててくれた父さん。それも2年前に死んだ。もう学校行く価値なんて無いかもしれないけど、毎日家にずっと居るのはダメって父さんが言ってたから…え。
学校に来たら昨日の女の子が殴られてた
どうして
俺とは関係ないのに
-先生-
「はあ、今日も疲れた」
ソファに座り、テレビをつける。
『最近は冒険者学校にていしめがーー』
無論、俺のクラスにいじめなど無い。
「あの無能生徒の名前はなんと言ったか…」
ルセース。そうだ、あの毎日黙って座ってるだけのやつ。あんなにボコボコにされてよく居なくならないな。さっさと居なくなればいいのに。
「ふあ…」
寝坊した。まあ大丈夫だろう。あの子たちなら元気で待ってる…
教室に入って一番最初に見たのは 血、真っ赤に染まった教室。あとは…
ルセース。返り血に染まった赤い服。
逃げ出したいのに身体が動かない。声も出ない。
ルセースは無表情のまま、ナイフを腹に刺していく。
ナイフが腹を進んでいく感触がする。
床に倒れ意識を失っていく…
-ルセース-
あれ、死んじゃった。
これからどうしようか。人を殺したんだ。捕まるのかな。捕まるのは嫌だな。
街の外まで走ってきた。
視線を沢山感じた。気がする。
もうあの町には戻れないんだろうか…
『ガチャン!』
馬車に当たったらしい。痛い。馬車の荷台から人が降りてくる。黒のスーツとシルクハットを着けたあの街には居なさそうな人。
「おい、あんた大丈夫か?前は見て歩け…うわぁー!」
降りてきた人は直ぐに荷台に戻り叫んだ。
「おい!お化けだ!助けてくれー!」
また戻ってきた。もう1人連れて。もう1人は全身が破れたローブを着ている。もう1人が言う。
「お前…あの街で何してきた?」
…
言えない。言えるわけが無い。ここで捕まって終わるなら、それでもいいかもしれない。何も話せず黙っているとローブを着た男が諦めたように
「まあいい。その格好を見るに、あの街には戻れなそうだからな。お前も乗って何処か別のところに行こう」するともう片方が
「えぇ?まじ?こいつ何も喋らねえし怖ぇよ!」
なんで。なんでこの人達は俺を問い詰めないの。
「それは、俺らも同じような境遇だからだ」
え、なんで考えてることが分かるの。
「俺のスキルだ。心理透推って名前らしい。」
そうなんだ。俺は話すのは得意じゃない。名前はルセース。
「そうか。話したくなければ話さなくていい。俺の名前はクニサキだ。」2人で話しているともう一人が割り込んできた。
「おい!俺を差し置いて何二人で楽しくやってんだよ!?」
こいつは?
「こいつはチャラス。スキルは…」
「俺にはスキルは無いぜ?あるのは運だけだ。」
そっか。俺はルセース。これから何処に行くの?
クニサキは少し考えたあと話した。
「あの街に行くつもりだったが、お前がいるなら少し遠回りでもしながら他の村や街に行くかな」
チャラスがワクワクした様子で
「おっしゃ!そうと決まればさっさと行こうぜ!」
2人が荷台に乗り込んで行く。
3人を乗せた馬車は動き出す。安心したら眠くなってきて…
-マモス-
「おはようございまーす!」
元気な挨拶と運動から1日は始まる。僕の名前はマモス。この街の警備員です!
でもまあ、この街に事件は起きない。毎日道の整理をするだけ…まあそれでも、街のみんなと話すのは楽しいですよ!
今日も一日、頑張ろ…ん?
その日はいつもと違ってドタバタしてました。
「何かあったんですか?」
「あぁ…まあな」
上司に聞いても曖昧な返事しか帰ってこない…
少し悪いですけど、これは調査が必要です!
科長室、ここで聞き耳をたてます…
「……学校……じん…」
なるほど、学校で何かがあったんですね…ならば僕も!
「科長!話は聞かせてもらいました!僕も同行させて下さい!」
科長は驚いた顔で
「なっ…まあいい、聞かれたのなら行ってこい」
ふふーん!これで昇進間違いなしです!
学校に着き、教室に入…
「おえっ…」
教室から放たれたのはとてつもない異臭。そこに居た先輩が話す。
「おい!お前!こいつを速く片付けてくれ」
「え…片付けるって…」
なにこれ…人が…死んで…
僕の困惑を気にせず先輩は喋る。
「さっさと消すんだよ、こんなのがバレたらこの街の評判がどうなる事やら…」
え、うそ、だってこの街は平和で…
「お前やった事ねえのか?これだから素人は動きが遅くて困るぜ…」
夜道、僕を照らすのは月だけ
「はあ…」
なんとなく、狭い小道に入ってみた。すると中から
「おい、金くれや、お前金持ってんだろ?」
そうか、そうだったんだ。
「全部、嘘だったんですね」
「あ?何言って…」ザシュッ
クズの首を飛ばすのは気持ちがいいですね。
「あんたも、死にたいんですか?」
クズが命乞いをする。
「や、やめろ…たすけ…」ザシュッ
もう怖いものなんてないです。全部、正すのが僕の仕事なんですから…
-ルセース-
「おい!見ろよお前、ビックニュースだぞ!」
うるさい。俺はもう一度目を閉じた。
「は?おい、おい!クニサキ!こいつ生意気だぞ!」
するとクニサキが少し遠くから
「寝かせてやれ、うるさいらしい」
「うるさいって!?俺はお前の先輩だぞ?」
チャラスが騒いでる間にクニサキが近づいてくる
「すまない、実は、あの街で起きた事が事件になっててな」
そうなんだ、それで?
「チャラスがこの事件に…」「俺はこの事件とお前のやったことは別物だと確信してる!」
チャラスの新聞を奪い取ってよく見ると、確かにおかしな点はいくつかあった。
1つは教室内にいた生徒は全部無くなって警備員が死んでいた事。2つ目は俺の身に覚えのない裏路地での殺人事件。3つ目は俺はナイフで突き刺したはずなのに死体は全て首が切断されていた事。
「決まりだな」
クニサキが新聞を取り上げ話す
でも、なんでそれでなんでまた街に戻るの?
クニサキはハッとしたような顔をしたあと話し出した
「そういえば、言って無かったな。俺は昔の友人に会うために世界中を旅してる。チャラスは冒険したかったかららしい。」
「おい!街に着くぜ!」
チャラスが大声でそう言う。
そうやって、馬車は街に戻っていき、僕の冒険の序章は終わった。