第1話「同室の王子は、最悪な第一印象でした」
「……あれ、鍵が、開いてる?」
入学式を終え、寮の部屋番号が書かれた紙を頼りにたどり着いたのは、女子寮でも男子寮でもない──
特待生用の“特別区”にぽつんと用意された、一棟だけの独立寮だった。
「リリティス・エマです。入りますね……」
がちゃりと扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは、石造りの小さな暖炉と、窓辺に置かれた書きかけの本。そして──
「……おい、勝手に入るな」
低くて冷たい、でもどこか響きのある声が、部屋の奥から響いた。
振り返ると、そこには背の高い少年がいた。整った顔立ち、艶のある金髪、そして……なぜか、王族の証である銀糸の刺繍が入った制服。
「あの、わたし……この部屋、割り当てられて──」
「ああ。聞いてる。平民の特待生、だろ?」
眉ひとつ動かさず、そう言い放ったその少年こそ──
「ガブリエル殿下!? えっ、えっ……どうして……!?」
──この国の第二王子、ガブリエル=アーデルハイト殿下。
でも、彼はにべもなく言った。
「一室だけしか空きがないらしい。面倒だが、我慢しろ」
「わ、わたしがですか!?」
「どっちがだよ。……掃除当番、交代制でやるぞ」
──こうして、入学初日。
平民であるはずのわたし、リリティス・エマは、まさかの王子と“同室生活”を送ることになったのだった。
*
翌朝──
「ちょ、ちょっと……! そこ、私の靴箱です!」
「あ? こんなとこに入れる奴があるか。もっと目立つとこにしろ」
「“特待生のくせに調子に乗ってる”って、また言われちゃうんですけど……」
それでも彼は気にした風もなく、廊下の奥へと歩いていった。
──ガブリエル殿下。通称エーレ殿下。
容姿端麗、学力優秀、王族でありながら成績で特待を勝ち取った超エリート。そして性格は──
「不愛想で無口で、とにかく冷たい!」
「……うるさいぞ、平民」
同室生活、開始から24時間。
私のメンタルは、すでに限界に近い。