第九話 一週間
そうして一瞬にしての1週間が過ぎた。
コウの国はそれほど教育水準が高くないので、基本文字が読めて簡単な計算ができたらそれでよしとされる。なので基本初等教育で終わる人がほとんどだ。なのでこの白紋学園でもほとんどが祈りの授業と少しの歴史などで授業が構成されている。
(にしても疲れる。)
毎日やっているのに慣れた気がしないのは体がまだできていないのか。はたまた幸先輩が毎日追加でセットを増やすからか。
来火は来火の方で恵先生と楽しくやっているようだ。
「ただいま〜。」
と干物のようになって帰ってくるのをたまにみる。
(あいつもあいつで疲れてんだろな。)
そういえば、異国語の本の翻訳をするって言っていたがどうなのだろうか?
(そんなに気になるかね?)
言われないということは今は必要ないということなのだろうに。そこを己で探そうとする気持ちを徹はよくわからなかった。
(もうこんな時間か。)
明日も早いし徹は眠るため布団に潜り込んだ。
□□□
同時刻隣の部屋で来火は異国語の本を睨め付けていた。
(これは前にあるから主語か?逆にこっちは…)
先生からコウの国と文法は大して変わらないと言われたが、だからと言って大きな進展はない。
なぜならどこまでがなんて読むのかがわからないからだ。
(んー?)
分かりそうなことがあったら少しずつメモをしていたが今はなんだかそれを読んでもこんがらがっていくだけだった。
「もう、わからん!」
そうして勢いよくメモを机に置く。
直後に冷静になって、動きを止める。
(他の部屋に響いていないよね?)
こんな時間まで起きているのはきっと来火だけだ。
静かに部屋のドアを開ける。幸いにも誰も起きていないようだ。
安心してドアを閉めようとすると外に人影が見えた。
(こんな時間に人?)
なぜ起きてるんだ?とも思ったが、それは来火が言えることではない。
好奇心に負けその人物にそっと近づく。
「誰ですか?」
「幸先輩?」
「なんでこんな時間まで起きてるんですか?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします。」
そうですね。と幸先輩は微笑む。
夜風が幸先輩の髪を揺らした。
「異国語の翻訳ですか?」
「へ、な、なんでそれを…」
「徹くん経由です。」
(あいつバラしやがったな。)
そう人畜無害そうなツノの生えた男の顔を思い浮かべる。思わず半目になってしまう。
「ああ、徹くんから直接聞いたわけではなんですよ。」
「え?」
「あの子は正直な子ですから。」
「ああ。」
おそらく、幸先輩から何か引き出そうと質問したんだろう。その時にうまくはぐらかすことができなかったと見た。
それならしょうがない。
「それにしても仲がいいんですね。」
「そうですか?」
「そうですよ。まだ出会って1週間でしょう?」
確かにそう思えばとても仲がいい方に入るのかもしれない。
「毎日話してるし、同じ学年のやつがいないので普通よりはいいと思います。」
「なるほど。ではその調子で仲良くしていてください。」
「言われなくても、でも…」
来火はひとつ思うところがあった。
「きっと徹はおれのことなんてどうでもいいと思っていると思います。」
来火から話すことはあるが、徹から話すことはない。それはきっと来火のことをあまり気にしていないということなのだろう。
「…。」
「すみません。変なこと言って。」
「大丈夫ですよ。それにきっと、徹くんだって来火くんのことを考えてますよ。話しかけないのは話題がわからないからでしょう。」
そうして幸先輩は遠くを見る。目を細めて何かを見ているようだ。
「大丈夫です。徹くんは不器用なだけです。きっとね。」
そう言って幸先輩はこちらを向きニコッと笑った。
「さあもうこんな時間ですよ。」
「あ」
そういえば眠くなってきたような気がする。
「さあ寝てください。」
「はぁい。おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
そうして来火はフラフラと部屋に帰っていく。
ドアを閉める時に見た幸先輩はまだ遠くを眺めていた。
(そっかぁ。徹は不器用かぁ。)
少し考えていたことが解決できたような気がして、きた日は安心して眠りについた。