第十六話 刃物と過去
落ちた刃物に目線を落とす徹。
サッと手に取り刃物についた鞘を顔の前に持ってくる。
「ほら、やっぱりな。」
そう言いながら刃物をこっちに投げて渡す。慌てて取り懐にしまう。
「お前ならもっと確実に仕留めれる時狙うだろ。」
「祈守志望に勝てるなんてハナから期待してないよ。」
実際そうだ。祈守は人智を超えた力だけではなく、身体能力に頭脳まで必要とされる。
その進路が選択肢として存在しているだけで、上澄みの人間であるということだ。例え忌み子であったとしても誰も馬鹿にして貶めるような立場にはいない。
その立場に徹は行こうとしている。行ける権利がある。
そんな奴を殺そうなんて不可能なのだ。
「そうか。まあ、お前が懇願してくれたら死んでやるよ。」
「は?」
「いや、死ぬのは嫌だけどよ。お前の頼みならそれくらいできるってこと。」
なんだかよくわからないが非常に大切に思ってくれているということだろうか。
「重い、きもい。」
「おう、元気が出たようでよかった。」
(さっきからずっと元気だよ。)
そう思ったがなんだか途端に恥ずかしくなって顔を背ける。
凪が黙ったからか、周りが静かになった。虫が地面を這う音すら聞こえるくらいの静寂に中徹が小さく「あ」と声をあげる。
「どうした?」
「見ろ、流れ星だ。」
空を見上げると一筋の流れ星が見えた。
(きれい…。)
流れ星は凪の瞳に映され輝きを増す。
流れ星が夜空に沈んでいきみえなくなる。
「願い事したか?」
「あ、忘れてた。」
慌てて心の中で願い事を3回唱える。
その様子を見て徹は微笑む。なんだか余裕ありげなその顔に無性に腹が立ち、半目になって徹を見る。
「なんだよ。」
「やっぱりさ、お前人殺したことないだろ?」
「…分かるのか?」
「そりゃあね。」
あっけらかんと言い放つ徹の顔を凪は少し伺う。昔から変なところで勘がいい徹はこういうこともずばりと当ててくる。
「お前が人殺しになったらきっと自分を許せず死んじまうだろ?」
「そ、そんなこと…」
「あるって。」
遮るように言って徹はこちらを見る。
見透かされていると思った凪は静かに俯く。
「…そうだよ。殺したことなんてない。でも、他の悪事には手を染めたさ。」
自嘲とも捉えられる乾いた笑いを上げながら凪は話す。
「俺の手はもうだいぶと汚れてる。だから殺しをして俺も死のうと思ってた。」
「そうか。」
「お前にはわかんねえだろうよ。」
「ああわからない。」
馬鹿正直に言うこいつに少し腹が立つ。
「そう言うところは嘘でも分かるって言うんだよ。」
そう言うと何故か涙が溢れていく。
(クソっなんで今なんだよ…。)
涙をなんとか拭って徹に笑いかける。
徹は心配そうな顔をする。なんとか話を逸らそうと思って凪は話題を変える。
「昼間の子さあのあと大丈夫だったかな。」
「明日もちゃんと見にいくから安心しろ。」
「いい友達がいたらいいんだけど。」
「それはお前がいなかったからか?」
やけにしんみりとした声で徹が聞く。
凪には徹の言っていることがよくわからなかった。
「俺が?」
「ああそうだろ。環境にも友達にも恵まれてなかったじゃねえか。」
「何言ってんだ。俺にはお前がいただろ?」
呆れたような声で言うと徹はびっくりした顔でこっちを見た。
「え?俺?」
「そうだよ。お前がいい友達じゃないって言うならなんなんだよ?」
素っ頓狂な声を出す徹が面白かった。
そんな徹を横目に凪は空を見る。
夜空に輝く星に目を細めながら懐かしい思い出を語り出した。




