第十五話 星の見える場所
徹と凪は街の外れへ向かって走っていく。
「徹こっちは…。」
「合ってるから安心しろ。」
徹は凪の手をしっかりと握り走る。しばらくするとあの崩れかけた建物に着いた。
徹は器用に足をかけながら苔むした壁を登っていく。
凪も急いで後を追う。
なんなく上まで登り切った二人は建物の屋上に立つ。
「危ないって。怪我でもしたらどうする!?」
一息ついた凪は徹を責め立てる。いろいろ言いたいことがあると思って徹の顔を見たが凪の口は縫われたように動かない。
優しくでも少し泣きそうな顔の徹は何も言わずに凪の顔を見る。
いろんな思いが駆け巡る。何を言おうか熟考する時間はない。
「ずるいよ。」
口をついて出た声は泣きそうなその一言だけだった。
「ごめん。」
と呟くように言った徹は凪の背中をさする。
下手に優しくされたくない凪はその手を払いのけ透を睨みつける。
睨まれた徹は少し寂しそうにする。
「なんで、なんで止めたんだ…。」
「お前は嫌そうだった。」
「嫌でやめれるほどしあわせならこんなことしてない!」
叫ぶように声を絞り出す凪。少し考えた徹は口を開く。
「俺は、友達に人を殺してほしくない。」
「じゃあ、友達なんて辞めればいい。そうすればお前も、お前も…。」
勢いで言ってしまったがゆえにそれ以上何の言葉も出てこない。壊れたようにずっと同じ言葉を反芻し続ける凪の声は途中から嗚咽に代わっていた。
「そうか。」
もう徹はこれ以上どうすればいいかわからなかった。
「あいつのようにはいかねえな。」
そう言って雑にその場に腰を下ろす。
「あいつ?」
「来火だよ。今日いた茶髪の。あいつならもっとうまく寄り添えたのにな。」
そう言って腰に下げた水筒の水を飲む。ごくりごくりと大きな音だけが聞こえる。
「お前も飲むか?」
「いや…。」
「飲まねえと体に悪いぞ。」
そう言って水筒を押し付けられる。渋々こくりと一口だけ飲む。
「あっっま!」
「うまいだろ。」
中身は水ではなく何かの果汁と砂糖を混ぜたものだった。
「これ、高いんじゃ…。」
「わかんね、氷室の屋敷からもらって来たから。」
そうして水筒を受け取ると徹は腰に水筒を下げた。
「なあ、殺しってどれくらい貰えんの?」
「人によってだけど100コウいけばいいくらい。」
「へえ。たったそれだけか。」
なかなかに失礼な物言いだが、徹という男はもともとそういう奴だ。今更腹が立つわけはなかった。
むしろいつも通りすぎてこっちの調子が狂うくらいだ。
「お前もっと危機感持ったら?」
「なんでだよ。」
「俺は殺し屋だぞ。」
「ふうん。」
あまり興味のなさそうに寝っ転がって星を見ている。普通殺し屋の前なのにこんな危機感なく空を眺めるだろうか。
少しこちらに興味を持って欲しくなった。
徹の上に跨り首に鞘のついた刃物を突き立てる。切れるわけがないが、空を見ている徹には鞘の有無なんて分かるはずがなかった。
「お前、何して…。」
「俺は、いつでも殺せるんだぞ。」
顔色を変えることなくこちらを見る徹。表情でバレないように必死に顔を作る。
「ふむ殺すね。」
「ああそうだ。」
「殺すなんてできねえくせに、よく嘘つくな。」
余裕を含んだ笑みを浮かべた徹が体勢を立て直そうと動く。
「お前、刃物…。」
「どうせ鞘付きだろ?」
図星を突かれて驚いた顔になった凪を見て徹は笑う。
「何年友達やってると思ってんだ。」
そうやって笑う徹。
突き立てていた刃物は知らぬ間に地面に落ちていた。




