第十話 氷室の鼠
頷く二人をカスミ先生が見ている。
「つまり、私達に鼠を探せということですか?」
扇子で口元を隠して奥方の目が歪む。
「よくお分かりで。最近近くに鼠が住み着いたそうで、その子を『管理』して欲しいのです。」
「かっ管理!?」
驚いて来火が大声を上げる。
それもそうだ。管理は祈守の秘密事項。街の人が知るわけがないのだから。
(なんで知ってる?)
焦ってカスミ先生を見るといつもと変わらぬ表情で奥方を見る。
「それは何型でしょうか?」
「型なんてわからないわ。」
「情報がないのに管理しろということですね?」
「あら、できないの?」
嘲るように笑う奥方。カスミ先生の瞳が光ったような気がした。
カツカツと音を立てて奥方の横を通り過ぎる。
しゃがみ込み何かを手に取るカスミ先生。
「安心してください、管理の必要はありませんよ。」
そうカスミ先生が言うと奥方の眉毛がピクリと動く。
カスミ先生は手に持った何かをこちらに投げてよこす。
慌てて取った来火が手のひらを開けると、中には少し歪な形の石があった。
「祈りの石だ。」
その祈りの意思があると言うことは、何かしらの結晶が命を落としたと言うことだ。
そしてその結晶はおそらくここの温度を下げた張本人だろう。
「祈りの石とはなんですか?」
「説明はできませんが、これがあると言うことはあなたの言う鼠はもう死んだと言うことです。」
奥方は少し悔しそうな顔をした後、すぐに先ほどと同じ笑顔に戻る。
「あら、それは幸運です。」
その一言だけいい、奥方は部屋に戻った。
「今日はありがとうございました。」
そう言って玄関で奥方は丁寧に頭を下げる。
三人も挨拶をして立ち去ろうとしたところ、徹は用事を思い出す。
「あの、少しいいですか?」
「はい?」
「ここの近くで水色の髪と目を持つ子どもを知りませんか?名前は」
「知りません。」
「え?」
「知りません。」
「でも役名が」
「知りません。」
悔い気味に否定されて少し困惑する。
先ほどより冷たい目をした奥方が徹を見る。
「すみませんが、知らないものは知りません。お引き取りください。」
「え、ちょっ。」
抵抗する間も無く玄関の外に出される。
「嘘だろ。」
扉の前で呆然とする徹の肩をカスミ先生が叩く。
「きっとここじゃないわ。」
「なんでそれが…。」
「街の方に探しに行きましょう。」
そう言ってカスミ先生は街に向かって歩き始めた。二人も急いでそのあとを追いかける。
「あの家の奥方、当たり強かったでしょう?」
「そうですね。」
「あの人は結晶を忌み嫌っているの。」
「えぇなんでまた。」
「不思議なことじゃないわよ。他にも嫌っている人は多いからね。」
そう言ってカスミ先生は黙る。
ざくざくと小道を歩きながら少し近づいた街を見る。
(あいつは、どこにいるんだろうな。)
そう思った徹は少し足を早めた。
街に着いた三人は少し街中を歩く。
「そういえばどんな人なの?」
「俺の友達?」
「そうそう。」
「そういえば聞いてなかったわね。」
そう言って徹の方を見つめる二人。
「水色の髪と瞳なんだよ。珍しいからすぐ見つかるかと思ってたわ。」
「それは確かに珍しい。」
「…。」
興味津々な来火と反対にカスミ先生の顔は少しくらくなった。
「なんか居そうな場所とかねえの?」
「食べ物好きだったから屋台のところとかかな?」
そう言った屋台の方を見る。そんなことで見つかるわけないと思いつつ、少し屋台の方見入ってみることになった。
「居ないな。」
「ね。」
予想通りだったが、こんなもので見つかるわけもなく金だけが減っていく。
「もう少しだけ歩きますか。」
「お前食いたいだけだろ?」
「来火ちゃん、今日間食しすぎよ。」
「その分動いてるので!」
そんなやりとりをしていると
「おい、泥棒!」
耳を劈くような叫び声が通りに響く。
瞬時に3人は動き出すが、それより先に犯人を捕まえる影があった。
「てめっ」
「…。」
外套を深く被ったその影はあっという間に犯人を床に倒していた。
慣れた手つきで泥棒を縛り上げ、盗まれたものを持ち主に手渡している。
(大人…いやまだ子どもか?)
その人を注意深く見ていると一瞬顔が見えた気がした。
「お前…。」
その声に反応してこちらを向く。
「久しぶり、徹。」
そこにはかつての友人がいた。




