第四話 『祈り』
「紛い物というのは?」
「ほんとに知らないんだぁ。」
そう言った蛇の目の女性は驚いたようで目を見開く。
言葉を考えるように少し考え込む素振りを見せる。
静かな食堂には食器の音だけがなり続ける。
「紛い物ってのは我ら結晶の別名だよぉ。」
「なぜそんな別名が?」
「上層部はそう呼ぶのさぁ。民間の呼び名は縁起が悪すぎるからねぇ。」
女性は手遊びをしながら答える。
よくわからないが色々事情があるのだろう。
ふんふんと頷きながら話を聞いていく。
「でも、なぜ一般人が?一般の人ならそもそもここに入れないはずだけど。」
そういうのは柔らかな雰囲気をした女性だ。そのたおやかな笑顔に少し雰囲気が明るくなった。
「わかりません。ここ以外は無理だと思えと言われました。」
「そう...。大変だったわね。」
そうして悲しそうにこちらをみる。同情か、哀れみかその顔がどのような意味をしているのかは、残念ながらわからない。
「まあ、それなりに。」
「そういえばだが、徹は結晶について聞きたかったんじゃなかったか?」
何故かちょっと焦っている恵先生が話に割って入ってくる。
その剣幕に少し驚きながら答える。
「あ、そうですね。」
「俺が説明しよう。」
「恵くん落ち着いてください。」
「そうですね。」
幸先輩に言われ恵先生は深呼吸をした。
他の人は黙々と食事をする人もいれば、食事の片手間でこちらに聞き耳を立てている人など様々だ。
「すまない。結晶についてだが、まずお前は『祈り』とは何か知っているか?」
「『祈り』ってあの神様とかに捧げるやつですか?」
「そうだ。そしてそれが具現化されたものが『祈りの結晶』だ。」
「『祈りの結晶』は人だけでなく、動物、植物、岩石など様々な形で現れるんですよね。」
「おっしゃるとおりです。そして、『祈りの結晶』が放ち、使用できる特殊な力のことを『祈りの力』と呼ぶ。しかし、どちらも絶妙に長いから省略して呼んでいる。」
恵先生の説明に補足をするように幸先輩が話す。見事な連携だが注目すべきはその内容だ。
初めて聞くことばかりだがどれも一般の人にも知られるべき内容だろう。
だが秘匿されている。
(この国には何か隠したいものがある?)
これ以上踏み込んでいいものか。顎に手を当てながら徹は考える。
(ん、待てよ。)
この知られていない情報をここの人は当たり前かのように話していた。
その情報を知っていてもおかしくないのは…
「もしかして、ここはその結晶が集まる学園ということですか?」
「そうだな。」
情報が開示されててもおかしくないのはその力を使うことを生業とする当事者だろう。
そうなると一つの疑問が浮かんでくる。
「じゃあ俺は祈りの結晶ということですか?」
今までそんな覚えは一度もない。そもそもこんなこと聞いたことがなかった。
すると、恵先生は少し考えて口をパクパク動かした。
(何してるんだこの人...)
その行動に少し引いた目をしていると恵先生の眉が少し動いた気がした。
「…今の私にはいえない。すまない。」
「そうなんですか。」
(言えないとは一体どういうことだ?)
申し訳なさそうな顔をする恵の前で少し考え込む。
考えれば考えるほど頭の中がぐるぐるして頭痛がしてくる。
「あなたたち、ご飯が冷めてしまうわよ。」
寮母の一言で空気が一気に変わった。
(そういえば食事の時間だった。)
そうして徹たちは急いでカレーを胃の中に書き込む。
冷めたカレーは辛さだけが妙に残った不思議な味がした。




