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しあわせの芥  作者: 柊春三
第二章 街編
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第七話 鍛冶屋の弟子

「弟子?」

「そう弟子。」


至って真面目な顔でこちらを見る銀。

三人は困った顔を見て顔を見合わせる。


「あなたは違うの?」

「うん。女はダメだって。」


(珍しい。)


コウの国では他国のような女性が跡取りになれないと言うことはない。より才覚を持った人間が跡を継ぐべきと考えられているからだ。体格差、得意分野に違いがあっても適材適所の精神で人材教育が行われている。

簡単に言えば誰でも家が継げるということだ。


「親父さんは他国出身なの?」

「あ、父様じゃなくてその絵をもらったミチって人です。」


水墨画にちらりと目をやる。きれいに保管されているが、それでも髪の劣化が目立つ。


(だいぶ昔の人っぽいな。)


「どこの国の人?」

「そこまでは覚えてないです。」


少し残念そうな顔をする来火。そう言えば言語の勉強をしていたようだし何か力になれないかと思い聞いたのだろう。


「食事できたよ。」


そう言って豪快な足音を立てながら女性がやってくる。

慌ただしく部屋に入って、部屋にいる銀を見て少し驚いた顔をする。


「銀、なんでいるんだい?」

「母様。父様の説得をして欲しくて。」

「お客様に迷惑かけるんじゃないよ。」


そう言われた銀は不貞腐れてそっぽをむく。

やれやれと言った反応をしながら女性はこちらを見る。


「すまないねえ。とりあえず食事をとってくれ。」

「いえいえ、こちらこそすみません。」


丁寧に返事をするカスミ先生に続いて部屋を出る。





ついた部屋には大きな卓子に大皿の料理が置かれていた。

非常に喜ぶべき状態なのだが素直に喜べない。


(空気が重い。)


料理の横には暗い表情で座るカズがいた。

何か銀のために口添えをしようと思ったがとても言い出せるような雰囲気ではない。


「さあ召し上がれ。」


慣れているのか気にしてないのかわからないが銀は料理を美味しそうに頬張る。

徹も遠慮しながら一口食べる。


(銀の顔の意味がよくわかる。)


しっかりした味をつけられた鳥の揚げ物は噛むと肉汁が溢れ出てくる。

来火も美味しそうに齧り付いている。


(あ、銀の話。)


思い出したようにカズの顔を見るとさっきと同じ表情のまま座ってる。


「あのカズさん?」

「なんだ?」


死にかけの顔でこちらを向くカズ。


(怖い。)


隣で来火が驚いて耳が出そうなのを抑えている。


「あの、弟子の話で...。」

「あいつは、当分牢から出れねえよ。安心しな。」


気の抜けた声で呟くように言うカズ。


「そっちじゃなくて...。」

「そっち以外はねえぞ。」

「...。」

「いいえ、銀さんのことです。」


戸惑っていたらカスミ先生が話し相手を変わってくれた。


「銀?」

「ええ、彼女は弟子にされないんですか?」


カズは眉間に皺を寄せて銀を見る。銀はしゃんと背筋を正して座る。


「だめだ。女は跡取りにできん。」

「なぜですか?」

「うちの家系がそうだからだ。」


カズはそう言い切って白米を口に入れる。

少しムッとした顔の銀。


「家系の掟だから守っていると。」

「そうだ。」

「でも、兄様は捕まったじゃん。」

「銀!」

「本当のことだよ。兄様は馬鹿なことして自爆したんだ。」


そう言う銀を睨みつけるカズ。

女性がすっとカズの後ろに立つ。


「あいつは帰ってくる。その時もう一度教えればいい。」

「兄様は鍛冶屋に興味なんてないよ。」

「でもやってもらう。家族の掟だからな。」

「犯罪者だとしても?」


そう言ってカズを煽るのはカスミ先生だ。


「技術があれば犯罪者でもなんでもいい。」

「世間はそう見ないけどな。」


徹はハッとして口を押さえる。心の声が口から出ていたらしい。


「なんだと!」

「あんたもうやめな。」

「お前に何がわかる!」


(夫婦喧嘩になりそうだ。)


徹の予想は当たってそこから夫婦間の言い合いになる。来火は面倒ごとはごめんなのか黙々と食事を続ける。


「いい加減にしてよ!」


そう言って机を叩いたのは銀だ。

驚いた夫婦は銀を見る。


「そんな兄様に拘らなくてもいいでしょ!」

「お前」

「家族の掟も技術も無くなっちゃったら意味ないでしょ!」

「...。」

「兄様以外にも弟子がいるならいいけど、父様はいないでしょ。なのに掟だなんだって言ってたらその前に全部無くなっちゃうよ!」

「それは...」

「兄様だって継ぐって確信ないでしょ?どうなってもどうせ父様の方が先に死んじゃうんだから兄様がどうなるかなんてわからないじゃない!」

「...。」


(大正論。)


実の娘にここまで言われて流石に凹んだのかそれ以上何かカズが言うことはなかった。


「で、弟子にしてくれる?」


静かにカズは頷きそのまま食卓を去っていった。

その場には勝ち誇ったような顔をした銀とポカンとした女性、食事を食べながら一部始終を見ていた三人がいた。


(これ俺らいる?)


徹はそう思いながら揚げ物を口に入れた。

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