第三話 街へ行こう!
「お前と外出んのは初めてだな!」
元気満々な来火は飛び跳ねながら目をキラキラ光らせる。
昨日とは打って変わって元気そうな様子を見てそれもそうだと思う。
これからはなんの弊害もなく街に降りられるんだ。
(逆になんで今まで禁止されてたんだろうな。)
そんな疑問が些細なことに感じるほど、徹も浮き足立っていた。
「あくまで授業っていうことを忘れちゃダメよ。」
そう注意するのはカスミ先生だ。
普段は主に恵先生か幸先輩に習っているため、副担任とは言えカスミ先生とはあまり関わりはない。
(何考えてるかわからないんだよな。)
ふわふわと霞のように舞う髪先と虚ろな目を持つカスミ先生を見る。
ふわりと笑みを浮かべるがその目は虚ろなままだ。
「そういやカスミ姐さんそのままでいいの?」
「姐さん?」
「あ、まああだ名みたいなもんよ。」
ここでも姐さん呼びがあるのかと思う徹。
カスミ先生は「ああ。」と思い出したように手を叩く。
「そうね、久しぶりに降りるから忘れていたわ。」
そういうと霞のような髪の毛は一瞬にして重力に従って落ちる。
目だけはまだ虚ろなままだ。
「久しぶりに下ろすと重いわね。」
「髪短くしたりしないんですか?」
「うーん、それもありね。似合わないけど。」
カスミ先生は少し眉を下げて困ったように笑う。
来火は気持ちが昂りすぎて山道を降ることだけを考えているようだ。勢い余って低木などにぶつかりながら道を駆け降りる。
鳥が慌てて飛び立つ。
「チゴセキレイね。」
そう言ってカスミ先生人差し指を差し出すとそこにチゴセキレイが止まる。
『ピチチ』と可愛らしい声をあげて尾羽を上げ下げする。
手を高く上げると大空に向かって飛び立っていった。
「さあ、走らないとあの子が迷子になっちゃうわ。」
「そうですね。」
そう言って二人は走り始める。
(驚いた。この人足が速いんだな。)
かなりの速度で走っている徹に、汗一つかかず笑みを浮かべて走るカスミ先生。
教師だが祈守を目指していた時期があったのだろうか。
(それとも現役の祈守か?)
まあ考えても仕方ないので今は走ることに集中する。
しばらく坂道を下ると山の麓へ着いた。来火が木陰で涼んでいる。
「お、遅かったっすね。」
「来火ちゃん、あなたは団体行動ができるようになりましょうね。」
そう言いながら頭をぐりぐりとするカスミ先生。
「いだだだだ。」
頭を抑え疼くまる来火は放っておいて徹は質問をする。
「ここでこれから何するんですか?」
今いる周りは田んぼに囲まれており、街どころか民家すら見えない。
まだ田植えが終わったばかりというような背丈の稲が風に揺られ綺麗に光っている。
のどかな山里だが説明されていたような実習ができるような雰囲気ではない。
「とりあえずここから街まで走ります。そこから本題ね。」
「…どれくらいかかりますか?」
「頑張れば三十分でつけるわよ。」
笑うカスミ先生。
(なんか前も似たようなことがあった気がするな。)
嫌な気配を感じながら徹はなんとか顔に笑みを貼り付ける。ここまで来たのに帰る選択肢はもうない。
「来火、準備運動しろ。」
「なんでまた?」
「カスミ先生全力で走る気だ。」
「それはまずい。」
いそいそと準備運動をする二人を笑顔で待つカスミ先生。
準備運動が終わったのを見てカスミ先生は背を向ける。
「はぐれないでね。」
そう言ってカスミ先生は走り始める。
(早すぎだろ。)
何か能力を使っているのか、工夫しているのかわからないがとんでもない速度で進んでいくカスミ先生。
なんとかして食らいついていかないと、すぐに見えなくなりそうだ。
一気に田んぼを抜け近くの集落を走り抜ける。集落の人は少し驚いた顔をしていたが大きな騒ぎになっていないところを見ると、普段からこんな感じなのだろう。
山に入り一気に山道を駆け上がる。そのまま一本の木に登りそこから木を伝って移動する。
(平面を走ったほうが確実に速いのに。)
そう思ったがすぐにその理由がわかった。
木の下には大きな渓谷がありとてもじゃないが走ったり飛んだりしてどうにかなるような距離ではない。
渓谷を一気に抜ける。そのまま沢に沿って山を下る。
途中で何かの結晶のようなものが見えたが、とりあえず見なかったことにする。
しばらく走っていくと草原に出た。その中を走る。
小高い丘を登りカスミ先生がいったん止まる。
必死に呼吸をしながら丘の上に登る。
「綺麗…。」
そこは街が一望できる丘だった。
街を眺めながらカスミ先生は満面の笑みを浮かべる。
「着いて来れてよかったわ。」
(この人は化け物か?)
息切れひとつしていないカスミ先生を見ながら思う。
すると頭を軽く叩かれる。
「化け物じゃありません。」
「心が読めるんですか!?」
「勘かしらね。」
そう言って微笑むカスミ先生を恐ろしいと思う。
来火は来火で街の風景に釘付けだ。
「来火ちゃんは初めてだったかしら?」
「初めてっす。」
「初めて?」
「なんか悪いかよ。」
少し不貞腐れてる来火。
だがその目は初めて見るものに輝いている。
「お前は何回目?」
「いや、住んでたから。」
何回目かも覚えていないやりとりを交わしながら街を見る。
(こんなに広かったっけ…。)
目の前に広がる街を見てそんなことを思う。
「徹ちゃん、そろそろ進むわよ。」
「あ、はい。」
そう言われて丘を降りる。
しばらく歩くと古びた石造りの門が一つ立っていた。
苔むして蔦が巻き付いたその門はかつては街と山を区切るためあったのだろう。
監視が居たはずの小屋の窓ガラスは割れ当時の用具がそのまま残されていた。
「ここを飛び越えるんですか?」
「そんなことしなくても扉を開ければいいのよ。」
そうして重苦しい音を響かせながら扉が開けられる。
反対側には小道があり街まで続いている。
「いくわよ。」
「はーい。」
そうしてノリノリな来火は先先進んでいく。
「徹ちゃんも。」
「あ、はい。」
そう言って徹は門を潜った。




