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しあわせの芥  作者: 柊春三
第二章 街編
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第二話 試験

「これから試験を行う。」


大声を張り上げて高々と宣言するのは大鷹だ。

森の中に声が響いて鳥たちが飛んでいく。


「本日の管理対象は栗鼠型結晶だ。」


目の前に紙が突き出される。

その紙には、結晶の姿と目撃情報などがびっしり書かれていた。

まじまじと見ていたら丸められ投げて渡される。


「これは今日の対象の情報だ。これを狐丸受験者に渡す。無くさないように。」


大鷹は来火のことをチビと呼ばず狐丸受験者と呼んだ。

いつものおちゃらけた大鷹ではなく公の場の祈守として振る舞っている。


(なんだかこれはこれでむず痒い気がする。)


胸を張って仁王立ちしている大鷹をちらりと見てから、鞄の中に紙をしまう。


「何か質問はあるか?」

「これって見つけて管理したら終わりなんですか?」

「そうだな。まあ言うほど簡単に終わるとは思わないが。」

「時間は関係ありますか?」

「しっかりと管理できるかどうかを見る試験だ。時間は関係ない。」


時間勝負ではないらしく、来火は少し安心した。


(よりによって栗鼠型か。)


栗鼠型結晶は逃げ足が早く、小さいため力を当てにくい。そして警戒心が高く、大鷹が大声を出してしまったからもうここら辺には近づいてこないだろう。


「もう質問はないな。それでは試験を始める!」


とりあえず人の身体のまま木を登る。


(まだ狐になる段階ではない。)


力を使うのは体力消費が激しい。なるべく温存して管理の時だけに使いたい。


目の前に森が広がっている。闇雲に見つめるだけでは何も見つからないし、この広さを見通すのは不可能だ。

来火は耳を澄ます。

風の音が聞こえる。草木が風に揺れ音を立てる。木々がざわめき、鳥が羽ばたく。

来火は必死に音を探す。


(これじゃない、これでもない。)


焦る気持ちを抑え聞き耳を立てる。

カサカサ

どこかで音がした。


「見つけた。」


そう呟いた来火は音もなく木から降りる。

気配を消し、細心の注意を払って獲物に近づく。


『ジジジジ』


独特な鳴き声を上げる栗鼠を来火は観察する。

慎重に行わないと逃げられてしまう可能性がある。


栗鼠が背を向けた。


(今だ。)


瞬時に力を使うため姿を変える。

一瞬の炎に驚き逃げようとする栗鼠に向かって火を放つ。


『ピギャアアアアアア。』


悲痛な叫び声をあげて栗鼠が燃えていく。

来火は思わず目を逸らそうとする。


「見ろ!」


後ろから大きな声が響く。


「お前が管理したんだ、最期までしっかり見ろ!」


その声にハッとして栗鼠を見る。灰のようなものになって消えていく。

足元に一つの小さな石だけを残して栗鼠は消えていった。

来火は石を拾う。

まだ温かい石は、体温を失うようにだんだん冷たくなっていく。


「試験は合格だ。」


大鷹が木から降りて来火の元にやってくる。


「よくやったなチビ。」


そこにはいつもの大鷹がいた。

まめだらけの手で来火の頭を乱暴に撫でる。


「大鷹。」

「どうした?」

「ありがとう。最期まで見せてくれて。」

「いいってことよ。」


そう言って大鷹は笑いながら頭を撫でる。

来火は下を向いて、顔を上げることができなかった。




その日も大鷹は寮で食事をとった。


(卒業生とは言えこんなに気軽に食事に来れるんだな。)


出された魚を咀嚼しながら大鷹を見る。

大鷹はこちらに気づく様子もなく楽しく談笑している。

特に話すこともないのでさっさと夕飯を平らげて食器を片付ける。


「おれ先に寝て良いですか?」

「ああ。今日疲れただろ。おやすみ。」

「おやすみなさい。」


なんだか妙に疲れた。

階段がいつもより長く感じる。


(足が重い。)


目をこすりながら階段を登る。

大人たちの話し声がどんどん遠ざかっていく。


「おい、そんなちんたら登ってたら夜が明けるぞ。」

「徹?」


後ろを見たら心配そうに眉を歪めた徹が立っていた。


「しょうがねえな。」


そう言って徹は来火を担ぎ上げる。


「ちょちょちょ。」

「舌噛むぞ。」


大人しく運ばれていくとあっという間に部屋の前に着いた。


「なんで?」

「あんな足取りのやつに階段から落ちられたりしたらたまったもんじゃないからな。」


そう言って顔を背ける徹。廊下が暗く一瞬見えた顔もどんな表情かまではわからなかった。


「明日、いくらでも話聞いてやるから。とりあえず今日は早く寝ろ。」

「ありがとう。」


その言葉を聞くと徹はさっさと部屋の中に入っていってしまった。

なんだか少し嬉しくなった来火は部屋に入って窓を開ける。

布団に入り、珍しく虫の鳴き声に耳を澄ましてみる。

木々が風で揺れる音、川のせせらぎが聞こえてくる。

そうやって珍しい日常の音に耳を澄ましていると、いつのまに来火の呼吸音は寝息へと変わっていった。

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