表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しあわせの芥  作者: 柊春三
第一章 学園編
26/48

第二十六話 たすく想いのその先は 前編

閲覧注意 虐待表現あり

部屋に戻った丞は姐さんに髪を結ってもらう。


「いつものでよろしくて?」


半分寝ている丞はぼんやりと頷く。


「もう少し別のもできるけどよろしいのね?」


うんともはいとも区別がつかないような返事をして、丞は眠りに落ちた。














「私たちの可愛い丞ちゃん。」


生まれた時から丞は親に縛られた人生だった。

幼い丞は体が弱いと言われて運動をあまりさせてもらえなかった。

病人用の粥を喰み、枯れ枝のような手足で布団に縛られていた。


「ああ、可哀想な丞。お父さんはどんなお前でも愛してるぞ。」

「こんなに痩せ細って...。なんて可哀想に。」


『可哀想』その言葉は呪いのように丞を縛り付けていた。

丞は自分のことを可哀想な子と思い込みその状況になんの疑問を持つこともなく生きていた。


ある日、父の昇進の祝いで母がご馳走を作った。

食欲をそそる匂い。シチューという西の国の食べ物らしい。


食べたいと思った。


父と母が足りない食材を買い足しに行った。今しかないと思った。

よろめきながら丞は立ち上がった。

初めて一人で立ったが呆気ないほどに簡単に立てた。

ふらふらとした足取りで台所に行き鍋に手を伸ばす。


しかし、幼い丞にとっては高すぎて鍋の取手まで手が届かない。

鍋の銅を持つ。さっきまで火にかけてあったためとても熱い。手のひらに焼ける感覚がある。

だがそんなこと幼い丞にとっては些細なことだった。

焼ける手すら気にせず鍋をひっくり返す。

自分にこんな力があったことに驚いたが、そんなことより空腹の方が勝った。


床に飛び散ったシチューを舐める。

素手で肉を掴んで貪る。まるで獣のように床に散らばったシチューを貪った。

舌が焼けても、手の感覚がなくなっても食材を集め貪る。


玄関の扉が開く。

買い物を終えた両親がそこに立っていた。

そんなことお構いなしで食べていると、母が荷物を落として丞の頬を叩いた。


「何してるの!?」

「丞!やめなさい。」


父に羽交い締めにされ、母に叩かれる。


「やだ!ごはんごはん!!」

「うるさい!黙りなさい、黙りなさい、黙れ!」


母の怒号が響き渡る。叩かれたからか、初めてこんなに動いたからかは知らないが丞は意識を失った。


次の日目の覚めた丞の手は包帯でぐるぐる巻きにされていた。思うように声も出ない。

母が粥を持ってくる。いつも通り食べさせてもらう。今日の粥はやけに不味かった。


その日から少し粥の量が増えた。たまに魚や肉が入るようになった。

そして何か気に食わないことがあったら叩かれるようになった。


「なんでできないの!?私たちの可愛い丞ちゃんのままでいれないの!?」


そう言いながら母は丞を叩くようになった。

もちろん顔に傷がつかないように腹部を殴る。

母は少しでも身長が伸びたら丞を叩く。身長が伸びるのが嫌らしい。

そして一頻り叩くと泣きながら謝ってくる。


「ごめんね。私だってこんなことしたくないの。ごめんね丞。」


そう言って丞を抱きしめる。

ひどい親だった。でも幼い丞は愛されてると思った。










少し大きくなった丞は学校に行くようになった。

試験はいつも満点、成績は常に優だった。

いつのまにか粥は普通の食事に変わり、普通の子と同じ生活をしていた。


「丞はいい子ね。」

「さすがは俺たちの子だ。」


両親はそうして褒めて髪を結ってくれる。

少し子供っぽい髪型だが、丞にとってそれは存在意義そのものになっていた。




ある時丞は試験で満点を逃し95点だった。

落ち込む丞を両親は罵った。


「何よこの点数は!」

「俺たちの丞はこんな点数は取らないぞ!」

「今日はご飯抜きね!」

「布団で寝るのも烏滸がましい!外で過ごしなさい!」


そうして丞は外に出された。

ごめんなさいと泣きながら扉に縋っても両親は扉を開けてくれることはなかった。

諦めた丞は扉の外に座り込む。

冬の寒空の下、着の身着のままで外に出された丞の手は悴んでいた。

肺をも凍らすような風が吹く。

意識が薄れていく中誰かの声がした。


「君、大丈夫?」


目を開けると優しい目をした大きな男の人がいた。

白いマフラーに白い服。本で読んだ神様のような人だった。

男の人は自分の首に巻いてあったマフラーを丞の首に巻く。


「こんな格好で何してるの?こんなに寒いのに。」


心配そうなでも少し叱るような声で男の人は言う。


「母さんと父さんに外に出なさいって言われたから…。」

「なんでまた?」

「しけん、あたし95点だった。まんてんとれなかった…。」

「そっか…。」


男の人は悲しそうな顔で笑いかける。丞は男の人をぎゅっと抱きしめる。

男の人は驚きと困惑が混じったような声で言う。


「何してるの?」

「かなしい人にはこうするって先生が言ってた。ほんとは母さんと父さんにもやりたいのに、できないから。」

「そんなことないよ。」


そうして男の人は丞の髪を撫でる。

その手が気持ち良くてたまらなくて丞はそのまま眠ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ