第二十五話 徹夜の日
夢中で物語を読む。環先輩は優しくその様子を見守ってくれていた。
「これ古い本なんですよね?」
「そうだよ。」
「じゃあこの記述おかしくないですか?」
「ん?」
徹が指したものは石と人の物語だった。
「これ、ここのことですよね?」
環先輩はちらっと内容を見て思い出したかのように話す。
「この神話は、未来がわかる作者が書いたとされてるんだよ。ほらここ読んでみて。」
環先輩はペラペラとページを捲り一つの文章を指す。
それは神様に未来を見せてもらった少年の話だった。
文字を目で追う。
「なるほど。ならこの話も納得できますね。」
そう言って読み進めていくが、次第に先程なかった違和感を感じ始める。
(なんでこの終わりに?ここも…ここもだ。)
眉を顰めて真剣な顔をしながらページを捲る徹に環先輩は話しかける。
「何かあった?」
「あ、いやここ見てください。」
「めでたしめでたしって書いてあるね。」
「これなんか変じゃないですか?」
内容的には全くもってめでたくない。最後の一文で無理矢理落とし込んだような違和感がある。
一つならまだ分かる。しかしそれが幾つもあった。
(文章が下手とかじゃない気がする。)
無理してめでたしで終わらせている感じ。
分かりそうで分からない気持ち悪さを抱えながら文章を読む。
『ギギッギギッ』
外から化け物のような鳴き声がする。
思わず徹は身構え気配を探る。
「ああ、あれは大丈夫だよ。」
のほほんとした声で環先輩が言う。
「あれはアケボノカラスっていうんだ。ここら辺にしかいない珍しい鳥だよ。」
「夜明けのカラスですか?」
「そう、明け方に鳴くんだよ。もう朝か。」
(徹夜してしまった。)
だが徹夜したにしては妙に元気だ。環先輩は少し眠そうな目であくびを噛み殺している。
「元気だね。」
「ええ、最近こうなんです。」
「こう?」
「寝なくても元気でいれるんですよね。」
そういうと環先輩は少し訝しむような顔をしたがすぐいつもの笑顔に変わった。
「若いっていいね。」
「そんないう年代なんですか?」
「まあ僕もまだまだ若手か。」
そうして環先輩は伸びをする。
真似して徹も伸びをするが何も伸びた気がしない。
「さ、今日もお仕事頑張ろうね。」
「分かりました。」
そう言って着替えて廊下に出ると、寝ぼけ眼の丞とあった。
「丞、早起きだね。着替えておいで。」
「寝れなかったから起きてるんだね。」
「おはよう。」
「お前、朝からなんでそんな元気なんだね?あたしには分からないんだね。」
「丞、部屋に戻りますわよ。」
イザベラ先輩が慌ててやってきた。こちらも寝巻きだ。
「2人とも早起きね。ではまた食事で。」
そう言って丞を回収していってそそくさと帰っていった。
「丞。大丈夫かな…。」
少し暗い顔をする環先輩。
(聞きたいなあ。)
でも理性が徹の欲望を引き止める。触ってはいけないものに触りたくなるのは人としての性だろう。
だが徹はそんな軽率なことはしない。それで信頼が地に落ちたらそれこそ意味がないからだ。
「徹くんは賢いね。」
そう言って環先輩はふっと笑う。
「さあご飯の用意手伝いに行こうか。」
そうして環先輩は歩き始める。
さっきと同じ姿だが、少し寂しそうに見えた。




