第二十三話 美味しいご飯
その日の食事は言われた通りのご馳走だった。
「さあさあ功労者はたっぷり食いな!」
そう言われて目の前に料理の皿を置かれる。
「うおおお!」
「小皿に分けるね。」
世話焼きな環先輩は小皿に料理を取り分けてくれる。
皿にはほぐしされた魚と何かしらの卵料理と葉野菜が乗せられている。
魚の身を箸でつまんで口に入れる。よく味付けがされていて口に入れた瞬間身が解ける。口の中が魚の旨みが広がり、幸せな気分になる。
(白米が食べたくなる味だ。)
すかさず白米をかきこむ。これだけで今日頑張ってよかったと思う。そんな味だ。
卵料理は餡のようなものがかかっていて匙で掬って口に運ぶ。卵の優しい甘味と少し塩の効いた餡が絶妙な味のハーモニーを奏でる。
葉野菜は塩胡椒で味付けされておりシャキシャキとした食感がたまらない。
(全てがうまい。)
じんわりとご飯が美味しいことの幸せを噛み締める。
「口にはあったかい?」
「はい。最高です。」
その返答を聞き笑顔になるのは今日の食事係のアヤメだ。食事係はやる事がかなり多いらしく、いそいそと台所に戻って行った。
「徹くん徹くん。これ美味しいよ。」
そう言って環先輩が皿に乗せてきたのは赤くて細長いものだった。
「これは...?」
「それはね、東の方の料理だよ。海老チリっていうらしいよ。」
「海老チリ。」
赤色に不信感を覚えつつ思い切って口に入れる。
プリッとした食感でもっと噛んでいたくなる。和えてあった赤いソースはピリッと辛い。
(う、うまい!)
目を輝かせて食べる徹を見て環先輩は大量の海老チリを皿に盛ってくれる。夢中になって海老チリを食べ、白米をかきこむ。
少し一息ついて周りを見渡すと、丞がイザベラ先輩に大量の野菜を盛られて不貞腐れながら食べていた。
「これ美味しいよ。このソースもいいよ。これとこれ一緒に食べてみて。」
環先輩は徹の食べる姿が気に入ったのか、悪魔の提案をしてくる。
そうして食事が終わる頃には徹の腹ははち切れそうなほどに膨れていた。
「幸せすぎる。」
「ね〜。」
そう言って大きくなった腹を抱えふらつきながら風呂に行く。
「石鹸は向こうにあるんですか?」
「そうだよ。だから着替えだけ持っていったらいいからね。」
着替えを持って風呂に行く。
「でっか!」
風呂と言われたので小さな浴槽を想像してたが、そこには銭湯と言ってもいいような大きな風呂場があった。
「洗顔まで揃っている!」
独占するには勿体無いくらいの風呂場に徹の心が踊る。
「ふろふろふろ〜♩」
意味のわからない鼻歌を歌いながら徹は体を洗う。全身洗い終わった徹は風呂の中に飛び込む。
「ぷはぁ。今日は最高の日だ!」
「ならよかったよ。」
驚きすぎて声の主にお湯をぶっかける。
「わあ、びっくりするって。」
「こっちの台詞ですよ!」
そこにはさっきまで部屋にいたはずの環先輩がいた。
(なんでここに...。そういえば惠先生すらどうやって移動してるかわからないって言ってたな。)
顔を拭う環先輩を見ながらそんなことを思う。
いつ脱いでいつ入ってきたかもわからない環先輩を見る。
(あれ、思ったより筋肉少ない。)
「失礼なこと考えてる?」
「...いえ。」
徹は目を逸らす。その行動を見て環先輩は少し不機嫌顔になる。
「そういえばなぜ一緒に?」
「早く入れって急かされちゃってね。」
「誰かはいるんですか?」
「女性陣だよ。週によって入る順番入れ替わるんだ。」
確かにいくら大きな結晶だとしても、風呂場を二つも作る余裕はないらしい。
徹は何も言わずに湯船から出る。
「もう上がるの?」
「はい。」
「早風呂なんだね。」
「いや、風呂があっついんです。」
「そっちか〜。」
そう言って環先輩はニコニコ笑う。
(いやほんとに熱い。)
徹はぬるめのお湯が好きなのだ。
いそいそ脱衣所まで行き、服を着て部屋に戻る。
長く浸かっていたわけでもないのに、体の芯から温まって体がぽかぽかしている。
(窓とかないかな?)
そう思って壁を触ると窓が出てきた。
「え?」
いきなり出てきた窓に困惑して手を離す。手を離しても窓は消えることはない。触っているからできるわけではないらしい。
(あ、建物も結晶なのか。)
どうやらもともと無機物でも結晶になることで意志が芽生えるらしい。
風呂場もそのようにしてできたのだろう。
「結晶って何でもありだな。」
「ほんとそうだよね。」
気づいたら後ろには環先輩がいて、徹は後ろに跳び跳ねる。
「わお。よく跳ぶね。」
(誰のせいだよ!)
そんなことも言えるはずもなく環先輩を見る。
汗をかいている様子はなく、急いで走ってきたわけではなさそうだ。
「さて、一通り終わったことだし、始めようか。」
「何をですか?」
「言ってたでしょ、気になること何でも答えるって。」




