第二十話 怖いあなた
「石守そんなにいないんですね。」
「そうだね。あんまりいすぎても仕事はないしね。」
そう言いながら食堂からの部屋に戻るため廊下を歩く。
石守もみんなで食事をする習慣があるらしく、職員全員と食事をしたが、イザベラ先輩と丞と環先輩以外の人は片手で数えるくらいしかいなかった。
「お前まだいたのかよ。」
「丞、そんな反応をするんじゃなくってよ。」
「でも姐さん、こいつすぐ諦めるやつだよ。よくないよ。全く環もなんで...いてっ。」
丞の頭に拳骨が落ちる。
「姐さんなんで...。」
「あなたしっかり徹くんと話したことがあって?」
「...ないです。」
「じゃあそんなこというんじゃありませんわ。」
そう言って涙目になりながら不貞腐れる丞。
(ざまあみろ。)
そう心の中でつぶやいた徹だった。
「あいつ、今ざまあみろって思ってやがる!」
「あなたの行動に問題があるんじゃなくて?大体環も環ですわ。」
「うっ。」
「あなたが丞を教育しないでどうするんですの?父親のようなものでしょう!?」
「そうです。ごめんね、徹くん。あとで僕からも言っておくよ。」
「環まで!?」
「あなたは反省をしなさい!」
そう言って再び丞の頭に拳骨が落ちる。
(痛そう...。)
そうして半泣き状態で丞は部屋を出ていった。
「あ、丞。ダメだよ!」
環先輩の呼びかけも無視してどこかへ行ってしまった。
「本当にごめん!」
「いえいえ。まあ実際根性なしですし...」
「これは僕がしっかり言うべきだったんだ。ごめんね。」
「そんなに謝らないでくださいよ。」
「そうですわ。徹くんも萎縮してしまうでしょう?」
イザベラ先輩が助け舟を出してくれたおかげで環先輩の謝罪は一旦止まった。
「それより、あいつと話に行ったほうがいいんじゃないですか?」
「今でいいの?」
「早いほうがいいでしょう。」
それもそうだねと言った環先輩は立ち上がって、丞を追いかけてどこかへ行ってしまった。
食堂にはイザベラ先輩と徹だけが残された。
(これ聞いてもいいのか?)
少し戸惑いながらイザベラ先輩を見る。
「先ほどはごめんなさいね。」
「あ、いえいえ。」
「ところで何か質問があるようだけどそれはよろしくて?」
女の勘と呼ぶものだろうか。さすが鋭い。
「失礼かもしれませんが、あいつは環先輩の子どもなんですか?」
「それは...」
少しの沈黙が流れる。
(流石にまずかったか?)
ただ言ってしまったことはしょうがない。
そう割り切ってイザベラ先輩の返答を持つ。
「いるにはいるんですの。」
「いるには?」
「ええ。」
イザベラ先輩は大きなため息を吐く。
「あの子は親に虐待されていたんです。」
「虐待...。」
子どもっぽい見た目の少女を思い出す。
なぜ年上なのにあんなに小さいのかが少しわかったような気がした。
「食事を...食べせてもらってなかったんですか?」
「私も詳細は知らないんですの。でも...きっとそうですわ。」
イザベラ先輩は少しくらい顔をする。
「でもそれでこの件を水に流すと言うことはできませんわ。過去は過去、今は今ですもの。」
安心してくださいな、とイザベラ先輩は微笑む。
(いや、重すぎるって。)
そう思った徹に少し疑問が湧いた。
「あいつも結晶ですか?」
「そうですわ。あの子は人の内面、心が見えるんですの。」
(なるほど。)
それなら初対面で言われたこともわかる。考えてることがわかったのもそれが原因だろう。
(ん、内面?)
「もしかしてその内面って自分でも思い出せないようなものでも見れるんですか?」
「さあ、そこまでは...。でもないとは言い切れないですわ。でも、それがどうしたのかしら?」
「それがですね...。」
徹はイザベラ先輩に今までのことを話した。夢の話と環先輩の部屋での話についてだ。
(本当は担任に1番に言うべきなんだけど...。)
言うタイミングもなくしかも相手はあの恵先生だ。あんまりいい意見が期待できない。
「誰かの記憶ね...。私は聞いたことはありませんわね。」
「そうですか。」
「後で丞に聞いてみたらどうですの?」
「え?」
「さっきは悪かった...。」
会いに行くとすっかりしょぼくれた丞がいた。
「別にいいよ。」
「あ、ありがとう。」
(環先輩ってどんだけ怖いんだ?)
後ろでニコニコと笑ってる環先輩を見る。
丞は何かに仕切りに怯えている。
(このままじゃ話にならないな。)
「あの環先輩、イザベラ先ぱ」
「姐様。」
「イザベラ姐様、申し訳ないんですが退出してもらえますか?」
「わかったよ。」
「了解ですわ。」
そう言って二人とも何も言うことなく退出してくれた。
「な、なんで...。」
「え?」
「な、殴る気か?」
そう言った丞はさっきよりも怯えてるように見えた。
「だって環先輩に萎縮してるように見えたから。」
「環は怒ったらすっごい怖いけどよ、でもそうじゃない。」
「あたしが怖いのはあんただよ。」
そう言った丞の目は恐怖に染まっていた。




