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しあわせの芥  作者: 柊春希
第一章 学園編
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第十九話 予感

「何でいきなり嫌いなんて言うの?」

「根性なしだから。こんな人環には相応しくない。」


いきなり嫌いと言われて、根性なしと言われた。

もう徹の精神はズタボロだ。少女と環先輩が言い合っているのを遠い目で見つめる。


「ごめんね徹くん。無理に連れてきて。」

「あ、大丈夫です。」


今にも消え入りそうな声で答える。

環先輩が慌てて頭を撫でる。


「何で撫でるんですか?」

「え、僕はこれで元気が出たから。」


オロオロしている環先輩を見ていると透は冷静になってきた。


「何で撫でんだんの!?」


騒ぐ少女を徹は見る。


「ねえ。」

「な、なに?」

「君名前は?」

「石守丞だけど。」

「じゃあ数日間よろしく。」


そうして徹は手を差し出す。


「あんた不気味だよ。」

「知ってる。」

「後な、あたしは15だよ。」

「え?」


驚いて思わず手を引っ込める。

心外だと言う顔をして丞は口を歪める。


「何だ年上か。じゃあ俺も嫌い。」

「あたしだって嫌いだ!」

「2人とも仲良くしてよぉ。」



そのあと少ししょんぼりしている環先輩に石守の職場を案内してもらった。


「ここで保存するんだよ。」

「へえ、こんな部屋まで結晶は作れるんですね。」

「驚きだよね。」


石守の仕事は結晶が遺すもの『祈りの石』の管理だ。昔に色々問題があって専門の部署ができたらしい。


「あら、いらしてたの。」


上品な口調のこの女性はイザベラ先輩だ。


「おはようございます、イザベラ先輩。職場見学に来ました。」

「先輩はやめてほしいわ。」


頬に手を当てながらイザベラ先輩が言う。


「ではなんと呼べばいいですか?」

「ん〜そうね。」


少し考えてるのか、頰を指先でトントン叩く。


「じゃあ、イザベラ姐様はどうかしら?」

「イザベラ姉様...。」

「ええ、君ばっかりずるいよ。ねえ僕も環って呼んでよ。」

「いや、先輩は外せません。」

「じゃあと言うことで、ご機嫌よう。」


そう言ってイザベラ先輩は立ち去っていった。


「イザベラだけずるい。僕も何か他ので呼んでよ。」

「ちょっと待ってください。俺イザベラ姐様って呼ぶことになったんですか?」

「そうだよ。否定しなかったからね。」

「嘘だ…。」


これからの生活に不安を覚える徹。

その顔を環先輩が覗き込む。


「呼び方が無理ならタメ口で話してよ。」

「…慣れたら頑張ります。」

「それやらないやつだ。ねえこっち見て。」


徹は必死に目を逸らす。

肩を揺らす環先輩。

結局先に環先輩の方が折れて、話を進めてくれた。


「じゃあ最後に部屋だね。」

「環先輩と一緒ですよね?」

「そうだよ。こっちこっち。」


さっきと打って変わって上機嫌で説明し始める。

案内された部屋はかなり大きかった。


「大きいですね。」

「僕の部屋だしね。」


そう言う環先輩を見る。


(なるほど、これはこの部屋の主に相応しい。)


環先輩を上から下までまじまじと見る。


「太ってないよ。」

「何も言ってませんが。」

「太ってないってば。」

「ほほう。」


徹はにやっと笑う。

それを見た環先輩は少しむすっとした顔をした。


「性悪だね。」

「スカウトしたのはあなたですがね。」

「嫌いになっちゃうよ。」


少し泣きそうになりながら答える環先輩。

流石に悪いと思ったのでここらで止めておく。


「すみません。度がすぎました。」

「いいよ。もう、子どもだから許すんだからね!」


(寛大だ。)


少し子どもっぽい顔をする環先輩を見てそう思う。


「後でお風呂と食堂は説明するから、勝手に部屋見といていいよ。」

「しまってあるもん引っ張り出しますよ。」

「いいよ。君ならね。」


そう意味深に言い残して環先輩は立ち去った。


(なんでさっきから“君だったら“を強調するんだ?)


そう疑問に思いながら部屋を見渡す。

ああ言うなら見つけてほしいものがあるのかもしれない。


部屋には寝具と机と椅子、それから大きなクローゼットがあった。


(あからさまに怪しいのはこれか。)


そう思ってクローゼットの前に立つ。

いいと言われてはいたが、いざ開けるとなると少し罪悪感が湧く。


(もうどうとでもなれ!)


そう思って開けたクローゼットには一着しか服が入ってなかった。


「なんだ、新品の服一着か。」


そう思って安堵するが何かおかしい。


(この服...。)


新品の割には少し着古した感じなのは気のせいなのか?

服の前側には何かがついた跡がある。


(ここにも縫った後が。)


新品に見えて着古されてるチグハグな服の前で徹は考える。


(なんだこの服。大切に着てるって感じの綺麗さではない。)


徹は環先輩の言動を振り返る。

少し服に触ってみる。さらりとした感覚が心地よい。


(もしかしてこれ...)


「やっぱり見つけたんだね。」


背筋が凍るような声がした。ゆっくりと後ろを振り返ると、さっきと同じ表情の環先輩がいた。


「環先輩、これは...。」

「ふふ、君なら見つけてくれると思ってたよ。」


環先輩は服に手を近づける。

その時クローゼットから電気のような何かが流れた。


「これが僕の秘密だよ。」

「秘密...。」

「秘密を言ったら君の秘密をくれるんじゃないのか?」


なんだその話。徹の視界がぐにゃりと歪む。

なんの話をしている。

これは...これは......。



ナンダ?



「...くん、徹くん!」


環先輩の呼びかけでハッと目を覚まし、急いで飛び起きる。


「ああ、そんなにいきなり起きちゃダメだよ。」

「ここは...。」

「僕の部屋だよ。さっき徹くん倒れちゃったんだよ。」


部屋を見渡す。なんの変化もない。

ただクローゼットだけが固く閉ざされていた。


「すみません。気が動転したようです。」

「そっか。初めての場所だもんね。じゃあお風呂と食堂を紹介するよ。」


そう言ってノリノリで環先輩は部屋の外へ出ていった。


「秘密。」


徹は自分の手を見る。

なんの変哲もない何も書かれていないてだが、その手に何かの答えがあるような気がしてならなかったよう

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