第十二話 狐と鷹2
「もうそろそろ来るかもな。」
「熊?」
「そうだ。危なかったら下がれよ。」
そう言って大鷹は真剣な目で森を見る。
(そんなところにただの学生連れてきていいのか?)
そう疑問を持ちながら森を見る。
木の葉が風に揺れる。ざわざわと揺れる森は少し恐ろしく感じた。
しかし、生物の気配はなくしばらくの間来火と大鷹はくらい森を見ていた。
「大鷹これ...」
「おい、静かにしろ。何かくる。」
そう言って大鷹は来火の口を塞ぐ。
ガサガサという音がした。
少しずつ何かが近づいてくる。
来火と大鷹は暗闇を見つめる。
音の正体はすぐに現れた。
熊にしては大きく、緑の瞳を持ち、肩にはよくわからない鉱石がくっついていた。
(これが人喰い熊。)
来火は後退りし驚き音を立ててしまった。
熊がこちらを向く。
目が光り、来火の体は動かなくなった。
「へあ?!動けない!」
来火は焦って声を出す。必死に体を捩り逃げようとする。
だがその抵抗も虚しく熊は目前まで迫る。
「あ、あ」
(このまま死ぬのか...)
そうして来火が覚悟を決め、目を瞑ったその瞬間
「ピー」
そう鳴き声が聞こえ、一羽の鷹が飛んできた。
「鷹?!」
そうして鷹は熊をあっという間に引き裂いてしまった。
叫び声を上げる暇もなく熊は灰となって消えた。
「へ、灰になった...」
「ああ、結晶は死んだら灰になる。残るのはこの石だけだ。」
そう言って大鷹は地面に残った石を拾った。
「これは祈りの石って言うんだ。」
「祈りの石。」
大鷹は腕を掲げる。鷹が戻ってきて大鷹の腕に止まる。
その瞬間鷹は光となって消えた。
「消えた。」
「これが俺の力だ。鷹を操るだけだがな。」
(だけって。)
さっきの力を見たらだけとは言えない。来火は少し半目になったが、ふと気になったことを聞く。
「おれも消えるの?石だけ残して。」
「...まあそうだな。骨は残らず石だけ残る。」
そう言って祈りの石を見る。その石は人工のものにしては不恰好で、自然のできたにしては綺麗なものだった。
「その石はどうすんの?」
「管理する場所があるんだ。そこに預ける。」
少し空気が重くなる。
(まだまだ知らないことばっかり。)
来火はそう思って拳を握りしめる。
その時
『ビーーー』
何かの音が鳴った。
「な、な、何の音!?」
「警報だ!不法侵入した奴がいる。最悪力を使ってもらうぞ。」
そうして来火と大鷹は身構える。
「おれはま、まだ結晶に向かって力を使ったことがないんだ!最悪の事態になるかもしれないぞ!」
「そうなったらそうなっただ。俺も責任取ってやる。」
「ん〜でもそれ大鷹くんらしくないよね〜。」
「「!?」」
大鷹の後ろから声がした。
後ろを振り向くと、大鷹に負けないくらいの大男が立っていた。
「へ、へああ。」
「ん〜?この子は誰〜?もしかして大鷹くん隠し子〜?」
「違う、坊のとこの生徒だ。」
「ふ〜ん。恵先輩のとこの子か〜。」
「恵先生のこと知ってるんですか?」
「ふふ。」
「え、なんか変でしたか?」
「いや〜。やっと目があったと思ってね〜。」
そうしてずいっと顔を近づけられる。
来火は恐怖で少し震える。
「環!怯えてますわよ。」
そう言って見たことない服を着た女性が現れた。
「え〜、でも恵先輩のとこの子だよ〜?気になっちゃうでしょ〜?」
「それにしても距離が近いですわ。」
「お前ら、何も言わずにくるんじゃねえ。」
「すみません、大鷹さん。でもそれはこちらのバカに特に言っといてくださいまし。」
「あ、あの。」
恐る恐る来火は声を上げる。
三人が一斉にこちらを見た。少しびっくりした。
「お二人はどちら様?」
「あら、言ってませんでしたわね。私は石守イザベラですわ。こちらは石守環。」
「ど〜も〜。」
「きょうだいですか?」
「いいえ、役名が一緒なだけですわ。それにこんな奴と一緒にしないでもらいたいですわ。」
そう言ってイザベラはずいっと顔を寄せる。
「あ、スイマセン。」
「イザベラくんは厳し〜な〜。」
「あら、私あなたのように乱暴じゃなくってよ。」
表面上は仲良く見えるが内面ではバチバチのようだ。
(いい大人の喧嘩は怖い。)
そう言って来火は大鷹に話を振った。
「祈守ってやっぱり、男が多いのか?」
「まあ、結果的にはそうなるな。」
「結果的?」
「そ〜だよ〜。」
少し遠くから環が答える。
「女の子は生き残りにくいんだよね〜。」
「生き残るって...どういう?」
「殺されちゃうんだよね〜。外国の人にね〜。」
来火の体が粟だつのがわかった。
環は少し目を細め、笑ったように見えた。