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しあわせの芥  作者: 柊春希
第一章 学園編
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第十話 来訪者

「遅刻だぞ。」

「すみません。」


今日は柄にもなく寝坊をしてしまった。


「え、あの、昨日ね、寝る時間が遅くて、」


冷や汗が出る。今までこんなことなかったので緊張で声が震える。今だけ目の前の先生が化け物のように見えた。


「な、なので」

「そこまで謝らなくていい。」

「え?」

「今日は私も寝坊をした。だからおあいこだ。」

「あ、ありがとうございます。」


無表情なはずの先生が微笑んでいるように見えた。


「それで今は実践についての話だ。」

「実践?」

「そうだ。来火、お前は何になりたい?」

「何ですか?」

「そうだ、お前は教師か祈守どちらになる?」




教師か祈守。それは白紋学園に入学したものが選択する職業だ。


祈守というのは祈りの力を使い、コウの国の治安維持や暴走した祈りの結晶を管理したりする職業だ。

教師を選べばこの学園に残り次世代を育てていくことになる。

祈守を選べばこの学舎から巣立ち、コウの国のため力を使うことになる。



どちらかを選ぶ。

人生を決める重大な選択だが、来火はもう決めていた。


「おれは祈守を志望します。」

「…本当にそれでいいのか?」

「はい、この決断は変わりません。」


来火は拳をギュッと握りしめた。

ここで折れるようでは祈守にはなれない。

睨め付けると言えるほどの目を先生に向ける。

恵先生は顔色ひとつ変えることなくいう。


「お前の気持ちはわかった。適性があるかを判断する試験を受けることを許可する。」

「!ありがとうございます。」

「まだ喜ぶのは早いぞ。」

「そうですね。試験はいつですか?」

「坊!すまない、遅れた。」


そう言って運動場の端から大男が走ってくる。

手前の方で準備体操をしていた徹が釘付けになっている。

猛スピードでやってきた大男は息を切らすことなく先生に話し始める。


「すまない、すまない。国主に呼ばれてな。」

「ああ大丈夫だ。」


そうして大男はこちらを一瞥していった。


「このチビは?」

「チビ!?」

「ああ、この前言ってた生徒だよ。」

「ふーん。」


そう言って大男は屈んで来火と目線を合わせる。

来火は後退りをする。

すると大男はニカッと笑った。


「怖いか?」

「怖くない!」


嘘だ。ちょっと怖い。でも舐められないように必死に睨みつける。


「かわいいな。猫みたいだ。」

「猫じゃない!狐だ!」

「ほう、狐ね。」


そう言って大男は体を弄り始めた。


「ギャー何やるんだ!」

「おお、これで尻尾も耳も出ないか。なかなかじゃないか。」

「教え子だ。」


先生が少し誇らしげな顔をしたような気がした。そんなのいいから手を退けてほしい。来火はするりと身を捩って手から逃れた。


「うおっ」

「なんなんだ。お前は誰だよ!」

「ああ、俺は大国谷大鷹だ。」

「たいよう?」

「そうだ大きな鷹って書いて太陽だ。」


名前からでかいのか。


「お前は?」

「お、おれは来火狐丸だ!」

「ふーん、名前から狐か。」

「そっちは鷹だろ!」

「いいね、その威勢。」


大鷹が親指を立てる。こいつと話してたらなんだか疲れる。


「先生、この人なんなんですか!?」

「実践の試験官だ。現役の祈守だぞ。」

「祈守!?」


驚いて振り返ると、大鷹は鼻を高くしていた。


「そうだぞ〜。だから俺の機嫌はとったほうがいいんじゃいか?」

「贔屓は嫌だ。」

「俺にはタメ口なんだな。こいつは相手値踏みする可愛くないチビだ。猫は撤回だな。」


そうして大鷹は大袈裟にため息を吐く。


「来火、力使ってみろ。」

「そうだ、見せろよ。」

「…わかりました。」


そう言って来火は拳に力を込める。

1週間練習したおかげで、大袈裟な動きはいらなくなっていた。

一瞬炎に包まれ、耳と尻尾が出てくる。

縦に伸びた瞳孔で先生と大鷹を見た。


「はい、どうですか?」

「上出来だな。昨日よりも早い。」

「あんたは…」


そうして大鷹を見ると、口をあんぐりとあけていた。間抜けヅラだ。


「おいおい、聞いてねえぞ。なんだこのチビ。」

「チビじゃない。」

「来火は可愛いらしいサイズ感だと思う。」


先生はいつも通りフォローをミスっている。


「いやいやいや、発動が早すぎる。いつもその速度か?」

「え、いや昨日より少しは早いけど…。」

「これは適性があってほしいな。さすが坊の教え子だ。」

「そう言えば坊って?」

「こいつこう見えて名家の坊ちゃんだしな。まあただの愛称だ。」


先生って名家の出だったのか。

先生はどうでもいいと書いてあるような顔をしてた。まあ表情だ。


「で、試験はいつですか?」

「大鷹に聞いてくれ。」


先生にそう言われため息を吐きながら太陽を見る。


「ため息吐くな。」

「いつになるんですかー?」

「形だけの敬語やめろ。むず痒いわ。そうだな、来週とかどうだ?」

「そんなすぐやるもん?」

「いや全然。でも大丈夫だろう?」


なんでそんなに適当なんだ。半目になって大鷹を見ていると、幸先輩と徹がやってきた。


「大鷹くんお久しぶりです。」

「幸先輩!?お、お久しぶりです!」

「幸先輩、この人は?」

「大国谷大鷹くんです。とある場所を守っているすごい人なんですよ。」


幸先輩にすごいと言われて満更でもないようだ。

しかし、さっき来火に言った意味がわかった。


(この人も値踏みするからか。)


大鷹という男は相手を選んでいるように見えた。


「大鷹くんが来たということは実践ですか?」

「そうです。」

「実践?」

「いつですか?」

「来週です。」

「へ!?」


驚く幸先輩。その後ろでは話に入れず不貞腐れてる徹がいた。

あとでちゃんと教えますからと幸先輩に宥められている。


(キーンコーンカーンコーン)


「何!?もうこんな時間。戻らないと。すまねえな坊。」

「いや、来てくれて助かった。」

「アリガトウゴザイマス。」

「授業はこれで終わりか?」

「ああ、そうだが?」

「じゃあこのチビ借りるわ。」

「は?」

「じゃ。」

「えええええ、ちょちょちょちょ。」


そう言って来火は大鷹の脇に抱えられ連れ去られていった。


「ちゃんと教えてくださいね。」

「ああ、ちゃんと説明するからそんな拗ねないでください。」

「来火今日中に帰れるか?」





そう言って大鷹たちが消えていった方角を見つめた。

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