ティーラ街
「オーギュスト様、宿の手配が整いました。荷物はそちらに運び入れておきます」
「ご苦労」
馬車から降りるとオーギュストはニコニコした顔でミハエルに手を差し伸べる
「?」
「エスコートと言って、男が女にするマナーだ」
「私は…お嬢様じゃないです」
「だから、ワシの動きを見て学びなさい。男は必ずこうするんだ」
「あ…はい。ありがとうございます」
「さて腹ごしらえに行くのだが、この国は軍事国家で貴族のご飯に関しては高級という割りに大体まずい。こういう大衆が集う場のメシの方が美味い。貴族は皆嫌うんだが、ここに来る貴族は変わり者のワシくらいだな」
「フフッ」
「お、初めて笑ったな」
看板に食事処と書かれたお店の前に来るとメニューと書かれた黒板が掲げられていた
【本日の新鮮取れたてオススメメニュー!】
オオダイのムニエル
コッパのムニエル
ターダ イチオシ!エールのムニエル
「ムニエルばっかりですね」
「そうだな…ここの美味しい料理は別にムニエルだけじゃないんだが…」
「いらっしゃ~い」
扉を開けるとリチンと鈴の音が鳴り大きな樽の飲み物を持った女性が
こちらを見て大きく声をあげた
「あらっ侯爵様!奥の席にご案内致します」
ダァンッと荒々しく客の前に樽を置くと、慌ててこちらに駆け寄った
「いやいや、この間息子に爵位を継がせたからもうただの老いぼれだよ。公爵らも知らなかったみたいだから、田舎もド田舎よ」
「またまたそんなこと仰って…ところでこちらの可愛い子は?」
「遠い親戚の子でね、親が流行り病で亡くなったそうで養子縁組した子だ。ご挨拶なさい」
まぁ、間違ってはいない
「初めまして、レディ。私はミハエル・ヴェイロンと申します。以後お見知りおきを」
「まぁ~~あと10年若かったらお嫁さん立候補してたのに!アハハハ!」
「ミハエル、それどこで覚えたんだ…」
「公爵様です」
「あいつ…」
王城内で接見の間までの道のりで御令嬢を見かけると必ずと言っていいほど口説いており、
女性が頬を赤らめて喜んでいた
こういう挨拶の仕方なのだろうと思っていたが、どうやら違ったらしい
席に案内されると、オーギュストの前には次々とおいしそうな料理が運ばれてくる。
が、逆に自分の前には質素な料理が並べ始める
「栄養価の高い物を食べさせたいが、いきなり食べると胃が驚く、お前には御粥から始まる
我が南部領に着く頃には屋敷で豪勢に歓迎会を行うから今はそれで我慢しなさい」
「ご配慮くださりありがとうございます」
ぐぅううとお腹が大きな音を立てた。
スプーンを持ち、御粥をすくう
一口食べるとたまごのほのかな甘みと熱々のお米に目を輝かせる
胃に優しさが沁み渡るのを感じた
「風邪をひいた時や胃の調子が悪い時に食べるたまご粥だ。ワシの息子がよく寝込んでな、使用人によく作らせていた」
「熱くて舌がひりひりします」
「火傷したな、ふーふーしてゆっくり食べなさい。残してもいい」
「はい、父上」
おなかも膨れ、気付くと瞼が重くなってきていた
「子供は寝るとよく育つ。沢山美味しいもの食べて動いて沢山寝るのだ」
「はい」
オーギュストが鈴を鳴らし使用人を呼ぶと「失礼しますね、坊ちゃん」と声が聞こえ抱きかかえられた
そこで意識は途絶えた。眠気には勝てなかったらしい
「この子にはいばらの道を踏ませるかもしれん」
「ご主人様…」
「フォックスとして育てようと思う」
「ラウラ様が怒りますよ」
「そうだなぁ、あいつ意外と子煩悩だしなぁ」
「うーん、でもラウラも理解してくれるだろ」
会計を使用人が済ませ退店する
店の前に馬車がおり宿まで案内させ、眠りに着いた
「いい夢を見れます様に」
明かりのろうそくをフッと消す
オーギュストは隣の部屋へ移り、書類を眺めた