影であり闇
帝国と呼ばれるくらいには各地の領土は広く、移動にも時間が掛かる
その為、魔法士たちによって開発されたワープゲートがあるが
一瞬で目的地に着いてしまう事から戦争では使う事を厳禁にしている
今は子爵領と伯爵領の領地戦が始まるか否かの微妙な時期だそうで
多少値ははるが、ワープゲートでの移動が推奨されているらしい
ただ今回はミハエルの体が耐えられないのと、ミハエル自身に自然を感じてほしくて
ワープゲートでの移動はしないと決まった
その為南にある領地まで馬車移動で3日は掛かるらしく
途中にある公爵領の街や野宿で休憩することになった
「ティーラ街に着いたら服を揃えよう。年下のアース公子と同世代とは言え、お前は栄養失調でまだ身体が小さいからサイズが合ってない。…あとほしい物はあるか?」
ガタガタと音を鳴らし馬車は走る
5歳になる少年の体をじっと見つめて遠く離れてゆく王城を睨んだ
「ほしい物はまだ分かりません…」
「言葉や教養は誰に習った?王城では最低限の学習があったと思うが」
「誰にも習ってないです」
「なら何故理解し話せる…??そんな怖がるな、何も怒ってないから!」
言ってもいいのだろうか?
段々と表情が陰っていくミハエルを見てかオーギュストはオロオロと慌てふためく
「影に…教えてもらいました。付け焼刃の軽い作法は公爵様に…」
「影…?」
「おいで、クロ」
少年の足元が突然真っ黒く染まり続けやがて馬車の中は自身の色さえもなくし
黒い空間が生まれた
『久々に僕ちゃん登場~♬』
少年の首回りに黒い蛇の形になりウネウネと動き出す
真っ黒だった空間は次に星空を生み出し、二人を無重力の世界へと誘う
「なるほど、ミハエルは影の召喚士か」
「気づいた時には影に住んでいました」
「契約をしたのだろう」
「契約…?」
「召喚される代わりに自由に能力が使える契約だ」
「してた?」
『してないYO!』
「してないでこの空間をお前が独断で作ったというのか!?」
『そうだYO!こいつの魔力が底なしってことなんだよ。契約せずとも僕ちゃんは自由に動いている』
「お前は悪魔か…?」
『違う、人間でいう神であり、精霊王に近いかな。』
「クロ、きみ…精霊だったの?」
黒蛇が耳に引っかかるとチロチロと舌を出しニヤリと笑う
『あぁただし、闇のな。君であり君の影である闇だから好きに使うと良い。他の属性の話では、闇属性はこの世に3人くらい居るらしいんだけど、僕ちゃんが14号に出会ったのは奇跡に近いな』
「ミハエルだ、そう呼びなさい」
『判ったよ』
「クロ、」
『僕ちゃん日中で光がある処は嫌いなんよ、そろそろ戻るわ~』
足元にドブンッと影へ蛇が潜り込むと馬車が本来の姿に戻る
オーギュストは確信した。「この子は使える」と。
側妾とはいえ王家の血筋。公爵家に嫁がせようとも考えていたが家業の為、育てる事に決める
楽しくなったのかフフフと笑い出したオーギュストにミハエルは少し身構えた
(今のやり取りで笑う要素なかったよね…)
〈…ないな〉
ティーラ街に着くころには日が沈みかけており、いつしか王城は見えなくなっていて
城下ほどではないが、賑わいを見せる大きな街だった