別邸
建物は全体的に黒く、玄関の扉の上には金色で公爵家の家紋が飾られていた。それは薔薇を背景に2本の剣が交わっている家紋だった
「この雨で足元が悪い中、お越し頂きありがとうございます。お時間あればと公爵様がお茶をご一緒したいと申しております」
「あの男が?珍しいな」
背筋がピンとしており軽く会釈をする執事に対し
位が上の人間に対して「あの男」呼びをするオーギュスト
実は爵位は下だが剣術を公爵に教えていた人間である
そのことはつゆ知らず、内心ハラハラするミハエルだった
「ようこそ、我が別邸へ。オーギュスト前侯爵様」
応接室へ案内されると、こちらを見て立ち上がり
握手を交わす
「先ほどぶりだな。忙しいだろうから茶はせず服を受け取ったら帰る」
「そんな事言わないでくださいよ。私はミハエルくんと少しお話したいんです」
案内された席に座ると、向かい側に座っている男は
ニッコリと微笑んでいるが目は笑っていなかった
「私の息子は少し体が弱くて公爵領に戻っててね
君が塔から出る前の日に帰ったんだよ。妻である公爵夫人も過保護でね、領地でしか取れない薬草があるからって怒って帰ったんだ」
「…そう、なんですね」
メイドに注がれた紅茶を飲むが、緊張から何も味がしない
「…あの、公子様はまだ具合が?」
「そうだね、日差しが強い日なんかは全然ダメ」
「公爵様に似て不憫だな」
「困った物ですよ、本当に」
「??」
意味がわからない会話をする2人にミハエルはついていけず、とりあえず紅茶を啜る
早く帰りたい、、、と願っていたその時、応接室の扉がコンコンと二回鳴った
「入れ」
「ご歓談中失礼致します。ご主人様、用意していた服を馬車に乗せ支度を終えました」
「そうか、ご苦労」
「ではそろそろ我々はお暇して…帰るぞミハエル」
「はい、父上」
「もう?まだいてくれませんか?」
「これ以上公爵様のお時間をさく訳にも行きません。
洋服はありがたく頂戴します。何かあれば我々にご相談ください。このご恩は忘れません」
テーブルの上に金色のバッジを置くと
オーギュストは席を立ち、ミハエルの手を取り応接室から出て行った。
そのバッジには天秤のマークとそれを貫く剣のマークが刻まれていた
(あれはなんだったんだろう…)
何となく聞くのが怖くて、馬車ではただひたすら
流れる風景を眺めていた