墓標
「さぁついた。ご挨拶して」
多数の墓地を通り過ぎて開けた場所に
白く大きな墓石が二つ並ぶ様にして建てられていた。
「こちらの方は」
見た事ない名前が刻まれた墓石に指をさすと懐かしさを思わせる顔でオーギュストは微笑んだ
「国の母でもある皇后様のお墓だ。その隣が側妃であった私の娘が眠ってる。2人は幼馴染で仲の良い学友でもあった」
「そうですか…」
伴侶を次々と亡くした皇帝陛下は周りから密かに「死神」と揶揄されるようになっていた
渡された花束を受け取り、墓の前に立つ
誰かが来たであろう花束が一つ添えられていた
「母上は皇帝陛下に愛されておりましたか?」
「…そうだな、愛されていたと思うぞ」
自分を通り越した視線は悲しそうに墓石を見つめていた。祈りを捧げ暫くしてポツポツと雨が降ってきた
「…ならばそれで、充分です」
オーギュストは深く帽子を被り、少年は
墓石を撫で、踵を返す。二度と戻らぬと母に誓い
老人の手を取った
「さて、これから南部にある我が領地へ向かうのだが
いかんせん邸宅にはミハエルの服がない」
「それは困りましたね」
「そしてワシは妻と違い、流行りの服屋も知らぬ。息子は成人して爵位を継いでおり、幼い頃の服はとっくのとうに処分してしまった」
顔の前にビシッと指を立てるオーギュストに対し
テンションが上がらないミハエル。
「なるほど」
「そこでこれから中央にあるエルリス公爵家の別邸に向かうことになった」
「どうして?」
「中央に住んでいた公爵様のご子息が着ていた服が山ほどあるそうで、取りに伺えば譲ってくださると連絡をくださった」
「ご子息様はおいくつですか?」
揺れ動く馬車の居心地の悪さにまだ慣れず
吐きそうにもなるが我慢して話を聞く
「確かお前と同世代の筈だ。まだ4歳くらいだったはず…」
「そうなんですね」
「アリスト公爵様に似て無愛想で可愛げのない男の子になってたな。名前は確か、アース・エルリス公子様だ」
「アース…様?」
「そのうち中央で領主同士で年始の挨拶があるから、その時顔を見れると思うぞ」
色々話をしている内にとある邸宅の門の前に着いていた
門の前には独特の格好をした兵士が2人、常駐していた
「ヴェイロン前侯爵様、お話は伺っておりますが昨今の事件から厳重警戒の措置が取られております。ご理解下さい。エルリス公爵様からの訪問許可証かお手紙をお持ちでしょうか?拝見致します」
「はい」
赤色の封蝋のついた金字の黒い封筒を胸ポケットから取り出すと
中から一枚の紙を差し出す
「確かに確認致しました。ご協力感謝いたします」
戻された手紙を封筒に仕舞うと、背の高い門が開かれる。馬車のまま通り、庭園の間を通過し邸宅の玄関が見えた。
そこには先ほど王城にいた執事が立っていた