午後のティータイム
皇位継承権争いの中起きた出来事なので犯人は大体の目星がついていた
形式上とは言え事情聴取を受けるのは気持ちいいものではない
イリーゼはため息をついて書類を机に投げ立ち上がる
ウイスキーをグラスへ注ぐと窓際に立ち
公爵家の馬車と軍警察の馬車が家から出ていくのを確認する
「イリーゼ」
「はい父上」
「ミハエルをそろそろ実践投入する」
「!…どんな内容ですか」
「今回のターゲットはな社交界の華とその家だ」
「…これまた面倒くさいご依頼がきましたね」
壁に貼られた写真に向かってダーツが射られ、額あたりに突き刺さる。グリーンの瞳に可愛らしい桜色のセミロングのヘアスタイル。その可憐な顔とは裏腹に家柄も良いのに何故反社に関わるような行動を取るのか、理解できなかった
ローズ・マイヤー 子爵令嬢 21歳
趣味は刺繍 苦手な物はなし 最近の悩みは詩がうまくできない事
「今回暗殺と密輸告発でマイヤー子爵家の破滅を願う依頼が来た。なんとこのお嬢様はかわいい顔して使用人を使って他国へ情報を流すスパイ。売国奴だったわけよ」
「確か第三皇子の婚約者ですよね?」
「そうだが、皇子の他にも男が居たみたいだし、国境線ギリの所で使用人が死んでいるのを発見した。使用人の爪には血が付着しており、首には締められた跡があったから抵抗したのだろう」
「ふむ…」
手元の資料を燃やし、1通の招待状を受け取る
マイヤー子爵家のMの字が入った封蝋に鳥の羽が添えられていた綺麗に着飾っている封筒だった
「イリーゼにマイヤー子爵家の招待状が来ていた。ミハエルを同行させる」
「ミハエルの社交界デビューはまだまだ先ですが…宜しいのでしょうか」
「ミハエルの役割はお前の従者としてだ」
「なるほど…」
「今回、マイヤー子爵家は海漁事業がうまく行っているそうで開業5周年記念パーティを開くそうだ。だが実際裏では薬物や違法品の密輸で大儲け。ご丁寧に裏帳簿もあり、証拠もある」
バサッと広げた複数の冊子を開くと、実際の入荷数の割に金額が見合っていなかった
隠語で書かれている商品は密輸品であった
「我が家門に告発しにきた人物にこれだけ証拠があるなら軍警察にいけってあしらったのだが、どうせアイツらは軍警察に金を渡し揉み消されてしまうと嘆いていたよ」
「父上、密輸を率先して叩くのは分かりますが
子爵令嬢を殺害までするのは…」
「今回のはあくまで暗殺が優先的だが密輸はおまけだな。身内の犯行に見せかけて静かに殺す。この一族は相当な恨みを買ってるらしい。我が家門よりもな」
「…なるほど」
冷静に話す前侯爵に、息子ながらゾッと背筋が凍る
深く息を整えてイリーゼは招待状を受け取る
「パーティは…一週間後ですね、随分急だな」
「二週間後に国を挙げた祭りがあるから早めにしたのだろう」
「承知しました。その家の図面と隠し通路がないか
依頼人に直接話をしたいのですが可能ですか?」
「早急に確認する。街中の書店に呼び出そう」
「お願いします」
爵位はイリーゼが完全に継いだが、裏家業については前侯爵を窓口に置いている。侯爵家は健在だということを意味した
裏家業についてイリーゼ自身、自分には荷が重くミハエルに将来的に任せようと考えていた
しかし、幼い頃から裏家業の教育をさせている事に負い目を感じていることも確かだった
大人として、家族になったとは言えこの世界を知るのはまだ早すぎる
イリーゼの葛藤も虚しく、少年はそれを望んだ
前侯爵に呼び出されたミハエルは今回の作戦を説明され、やらなくても良いのだよと少し不安そうなイリーゼに対して
「自分にできる事があるならやるべきです。それに売国奴は許せませんね」
ニッコリ笑って微笑んだ
きっと、この世界に足を踏み入れたことを後悔する日が来るだろう
イリーゼは拳を強く握り、苦しそうな表情で「頼んだよ」と一言告げるしかできなかった




