別館 地下
「今参りました、父上」
拒否も出来ず、別館の地下に続く階段を降り、目の前に大きな扉が1つ
コンコンと叩くと中から返事が来た
重たい扉を開くと、先ほどとは打って変わりスーツから戦闘用の軍服を着て
広いエリアの真ん中にオーギュストともう一人、男が立っていた
「今日からワシが師範になるのだが、いつも居るわけじゃない
隣にいるのはワシが拾ってきたキツネである」
「初めまして、ミハエル坊ちゃま。私はフォックスという部隊をまとめている部隊長になります
ノア・ゼロと申します。オーギュスト様は私の師範でもあります。」
「私の兄弟子様ということですね」
「そうなりますね、どうぞよろしくお願い致します」
ノアから差し出された手を握り返す
ゼロという家門はないぞ、とクロから教えてもらう
恐らくノアも本名ではないのだろう
「ゼロはコードネームですか?」
「そうですね。私が隊長になるのでゼロ、副隊長がいるのですがゼロツー
それ以下はフォックスワンから始まります」
「へぇ」
「こちらが戦闘服です、お着換えください」
黒いハイネックの服とズボン、ブーツで体のラインが浮き出ている
ナイフを太ももにベルトを通し装着、銃弾を腰に下げ
胸あたりに銃を仕舞う。少し恥ずかしい
「ブーツは通常厚底なのですが、密殺が多い現場になるので音が出ない様薄くなっております」
「お前は裏の主人となるべき人間、すべて出来る様にならなければならない
テーブルマナーに体術、剣術、毒を食べ毒になれる事、解毒、暗器の扱い、すべてだ。ここから3年、すべて叩き込ませる。女であることも武器にして社交界も視野に考えよう」
「3年…!?」
「オーギュスト様、毒は要らないと思いますけど」
「お前は皇帝に復讐したいと思わないか」
「!!!」
「その発言はまずいですよ…!」
周りに人がいないか確認し、ノアは慌てふためく
「このような家に来させたのは兵隊として育て、いつかは皇帝の狗としてこき使われるのだぞ。
ワシのようにな。でもお前はクロと名付けた闇の神を使役する者
王の器として充分だし、その気になれば皇帝の座にもつける」
「ち、父上…何を仰っているのか…わ、私は」
「お前は4歳半になるまで外の世界を知らず、側妃の母親は心の病から病死とされているが
兄弟の継承争いから毒殺されているのだぞ…幽閉されていたとはいえ下手すればお前も5歳になる前に死んでいた可能性もある」
「そ、そんな…嘘です…」
「災いを産む子供を殺したと告げられても、マリヴェルは最期までお前の事を想っていたぞ」
その話を聞き、ミハエルは号泣した
母はどう殺されたのかも聞き、絶望した
じわじわと少量の毒を飲まされ続け、身体が動かなくなり
やがて血を吐き死んでいったと
「母は…母は皇帝から愛されていたといったではありませんか」
「愛は周りに多くの敵を作った」
「そんな…」
膝から崩れ落ち、大きな声を出して泣いた
生きていて、初めて泣いた
いつか、母の愛をこの父を通して聞けたらと思っていたのに
現実は非情で心を壊し襲い掛かってくる
「…こんな事ならばあの時、殺しておけばよかった」
ミハエルは天を仰ぎ、その発言にオーギュストは目を見開く
思わず自身の手を腰にある剣に置いて抜刀しそうになった
ミハエルの殺意に恐れたのだ
「あの皇帝、要りませんね」
「そうだな、これからノアとワシからしっかり学ぶように」
「はい父上」
ミハエルはにっこり微笑むと、足元の影が大きく揺らいだ
闇が海のように広がり、心は闇に染まる




